優しい温度

目を覚ますと、真っ白な天井。


え?


「苗字さん、分かりますか。」


「……先生。」


なんで先生が?え?ここって、身を起こすと真っ白な壁、そしてアルコールの匂い。病院だ。


「なんで、病院、」


「…君は、日向くんと影山くんの衝突を止めようとしてくれましたね。」


「え……あ、はい。」


「その時、何がありましたか?知らせてくれた谷地さんと田中くんは、衝突を止めようとしたとしか。日向くんと影山くんも気づけば苗字さんが血を流して倒れていたと。」


血!?


あの時のことを思い出す。


感情に身を任せた影山くんが、日向くんを突き飛ばして、


……あ。


「……突き飛ばされた日向くんに巻き込まれて、ボールのカゴに突っ込みました。…たぶん。」


こちらに吹っ飛んでくる日向くんを見て、え、ちょ、待ってよ、なんて思ってる間に感じた激痛。


そこで意識はぷっつり切れたのだった。


「……それで頭を切ってしまったんですね。幸い出血もすぐに止まって、傷もあまり残らないそうです。……顔にも傷がつかなくて良かった。」


「え?あ、はい。」


「女の子なんです、傷つけたら一生モノですからね。」


そう言って笑う先生。ずっと怖い顔してたから、その顔を見て安堵した。


「もう帰っても大丈夫みたいですけど、大丈夫ですか?フラフラしないです?」


「……はい、大丈夫そうです。」


「では帰りましょうか。」


先生に連れられ、帰った。あの二人の衝突、結局止められたのかな。田中くん来たって言ってたからなんとかしてくれたかな。


仁花ちゃんには怪我無いと良いけど……明日聞いてみよう。


それにしても血を流して倒れた、なんてショッキングな姿見せてしまったようだ……恥ずかしいし、怖かったかもしれない。


明日は話すことが沢山ありそう……。頭を抱えながら家路に着いた。





「苗字!!大丈夫だったか!?」


「田中くん、ありがとう。喧嘩止めてくれたんだってね!」


「そ、それは良いけど、お前頭大丈夫だったか!?」


「顔……には傷ついてねぇな!!痛みはねぇか!?大丈夫か!?」


あわあわと心配してくれる田中くんとノヤっさん。大丈夫だよ、と笑うと、こんなとこまで気使わなくていいからな!?と心配された。使ってないよ。


「それより、あの二人は大丈夫だった?あと仁花ちゃん。」


「やっちゃんは怪我とかしてねぇよ、俺呼ばれてぶん殴ってすぐ止めたからよ。」


「そ、そっか……ありがとう。」


「……ちゃんとあいつらに怒るんだぞ、苗字。」


「え?」


「あいつらに怒る権利がある!!今のお前にはある!」


「うーん……でも、」


「でもも何もねぇ!!怪我させられたんだ!!」


そうだそうだと言う2人にはちゃんと頷けない。


きっと先生からお咎めを受けているだろうし、何より悪気は無かったんだろう。


とにかく目の前で言いたいことあったらちゃんと言えよ!?と、激しく背中を押してくれる彼らを落ち着かせた。





今日は久しぶりに部活が無い。皆のこと、と言うか日向くんと影山くんのことが心配だったので顔が見たかったが仕方無い。


……あれ?


「影山くん?」


「あっ……。」


校門で誰かを待っていたかのような影山くん。何してるんだろう?


気になるが、それより気になるのは痛々しい傷。綺麗なお顔にも傷がついてしまっている。


「昨日、大丈夫だった?……傷痛そうだけど、」


「っ苗字さん!!」


「は、はい!?」


痛そうな傷を眺めていると、突如大きな声を出す影山くん。


「ちょっと、話せますか。」


「えっ?」


「用事ありますか。」


「な、無いです。」


「じゃあ来てください。」


そう言われるがまま、腕を掴まれ影山くんに連れて行かれる。


着いたのは学校近くの公園。ベンチに座り、まず影山くんは


「……すいませんでした。」


深く深く頭を下げた。ほらね、田中くんもノヤっさんも。彼らはしっかり自分で反省出来る子達だよ。


「全然。大丈夫だよ、私より影山くんの傷の方が痛そうで心配。」


「俺のは、全然……。男だし…。でも苗字さん女の人で、……怖かったっすよね、本当に、すいませんでした。」


怖かった、そう言われると確かにあの時恐怖を感じる間もなく意識が飛んだので、あまり考えなかったが、怖かった気がする。


でも、私は怪我の事より悪化し続けていた2人の関係の方が怖かった。


「大丈夫、もう気にしないで。……日向くんとは、どう?」


「……話してないです。」


「……そっかぁ。」


「日向と俺の事は、たぶん、いつかなんとかなります。……もうあんな風に喧嘩しません。だから、心配しないでください。」


「うーん……それはやっぱり約束出来ないかなぁ……心配なものは心配だし、もしかしたらまた喧嘩もしちゃうかも。そうしたらまた私は止めに入ると思うよ。」


だから、辞めてね?と言う意味も込めてそう伝える。


「………俺、田中さんに殴られて目が覚めて。気づいたら頭から血流してぶっ倒れてる苗字さんがいて、」


「……うん。」


「……………すっげぇ、……すっげぇ手が震えました。……怖かった。」


「…え?」


「田中さんがデケェ声で声掛けても起きなくて、血は、…止まんなくて、……目も開かねぇし、もし、このままとか考えちまって、」


「…影山くん?」


「……だから、」


恐る恐ると言った様子で、私の手に触れる影山くん。


突然触られて驚き、体を強ばらせるが、影山くんの動きは酷く優しくて。


大きくて綺麗な手が私の手を包む。両手でそれはそれは大事そうに包む。


「………本当に、無事で良かった。」


そう言った時の影山くんの表情に目を奪われる。


綺麗なお顔。でも、今にも泣き出しそうな、そんな雰囲気を醸し出している表情。


あまりに綺麗で直視なんて出来なかった。


「…うん、もう大丈夫だよ。元気だよ、私。」


首まで赤くなってるんじゃないか、と思うほどに顔が熱い。手も握られて、綺麗なお顔をこんな距離でずっと見てて。


「…はい、安心しました。」


するりと私の手から離れていく優しい手。


「傷、残らなさそうですか?」


「うん、先生がそう言ってた。」


「そうですか、良かった。」


安心したように薄く笑みを浮かべる影山くん。どんな顔でも胸をときめかせてくるなんてずるい。


「……じゃあ、俺はこれで。すいません、時間取らせて。」


「ううん、大丈夫。また部活でね!」


「はい、また明日。」


ぺこり。と頭を下げて去っていった影山くん。


姿が見えなくなって、はあああぁぁ……と息を着く。


かっこよすぎる。怪我させられたのなんて、吹っ飛ぶかっこよさ。


影山くんが優しく触れてくれた両手を見る。


……手洗いたくないな、なんて考えるのは気持ち悪いかな。

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