「苗字さん!!!すいませんでしたぁ!!!」
「も、もういいよ、大丈夫だから!」
ずしゃああ!!と体育館の床に滑り込みながら謝る日向くん。彼も彼で罪悪感に襲われている。
「怪我、大丈夫っすか!?」
「うん、ほぼ完治した。」
「良かった……。」
「だから安心して?練習に集中して!」
「う、うす!!」
「……名前さん、本当に大丈夫ですか?」
「うん、本当に平気。触っても全然痛くないの。……それより仁花ちゃんは大丈夫だった?巻き込まれてない?」
「はい、私は全然。田中さんが来てすぐ喧嘩は止まったので…。」
「そっかそっか。……仁花ちゃんに怪我させてたら、私怒ってたかも。」
「え!?」
「あはは!!なんてね。」
でもあながち間違いじゃないかもしれない。
怪我したのが自分で、しかももう全然痛くないって自分が1番分かっているから、こんなに笑っていられるけれど、
周りの人からしたら私が無理しているようにも見えるのだろう。現に田中くんやノヤっさん、仁花ちゃんなどは心配してくる。
逆の立場なら私もそうだ、喧嘩してた彼らにもしっかり怒っていたかもしれない。
◇
夏休みに入った。あっついあっつい毎日である。
前回の遠征以降、あまり会話をしていない影山くんと日向くん。
そして、他の部員も何かしら遠征で得て帰ってきて、自主練に取り組んでいる。
春高までにもっともっと力を付けなくては。皆の意識が高まっている証拠だ。
私達も全力でサポートしなければ。と気を引きしめる。
そして、今日の夜に宮城を発ち東京に向かう。
今度は約1週間の長い合宿となる。
「うおおお!!夜に出るとかなんかすげえええ!!」
「わははは!!この間は補習で来れなかったもんな!!」
テンションが上がっている日向くん、しかしいつもなら影山くんと会話する所をあえてなのか、離れて田中くんと話している。
となると、日頃あまり会話しない影山くんが心配だ。日向くんがいないと、感情を出す場面が極端に減ってしまう気がする。
「……名前ちゃん。」
「?はい。」
「影山のこと、心配?」
「え、あ、はい。……どっちも心配ですけど、影山くんの方がコミュニケーション取るの苦手だから心配です。」
「そうだね。……日向が会話しない代わりに、沢山見てあげて?」
「え?」
「きっと、名前ちゃんが近くにいてあげたら喜ぶと思うから。」
むしろうざったくないかな…?なんて思いながらも、そう言って笑う潔子さんに頷いて、影山くんの元へと向かう。
「影山くん。」
「苗字さん、どうしたんすか。」
「隣の席座っても良い?」
「え、……いいっすけど。」
少し驚いた様子、しかし隣の席を空けるために荷物を退けてくれた。
「ありがとう。」
「席、無かったんすか?」
「いや、………いや?あれ?もしかして無かったのかな。」
潔子さんに言われるがまま来たけれど、今見たら潔子さんの隣は仁花ちゃんで、通路挟んでコーチ。あれ?
「………普通に場所無いからって事だったのかも…。」
「……?まぁいいっすけど。……俺寝るんで、もたれかかったら起こしてください。」
「え!?全然いいよ、もたれてくれて。むしろ私の方がやっちゃいそうだし。」
「それは、大丈夫です。……たぶん俺が寄っちゃうと重たいっすよ。」
「そっか………わかった、その時になって考える!重かったら言うね。」
「お願いします。」
出発する車。
揺れる車内。前回もだったが上手く眠れない私は、外をずっと見ていた。
段々と静かになる車内。いびきや寝言も聞こえ始めた。皆爆睡かな?
するとこつん、と何かが肩に乗る。
隣を見ると、綺麗な切れ長の瞳を閉じた影山くん。
腕を組んだ状態で私の肩に寄りかかってきていた。
うっ……確かに重たい。重たいけど、我慢できない程でもない。
眠ってるからこそ見れる顔をじっくりと眺める。
まつ毛長い……やっぱり肌も綺麗。静かに寝息を立てる影山くんはいつもより幼く見えて、可愛く感じる。
いつも触ってみたいなと思っていた髪に手を伸ばす。
うわ……!サラッサラ!!……な、なんか良い匂いもする。じょ、女子力たっか…!?
そのまま形の良い頭を撫でる。いつもは届かない高さにある頭。
こういう時じゃないと撫でるなんて出来ないなぁ。
ふふ、と笑みを零し暗闇を走る車の中、眠る彼を眺めていた。