あれもそれも好きなんです

「苗字さん!!!すいませんでしたぁ!!!」


「も、もういいよ、大丈夫だから!」


ずしゃああ!!と体育館の床に滑り込みながら謝る日向くん。彼も彼で罪悪感に襲われている。


「怪我、大丈夫っすか!?」


「うん、ほぼ完治した。」


「良かった……。」


「だから安心して?練習に集中して!」


「う、うす!!」


「……名前さん、本当に大丈夫ですか?」


「うん、本当に平気。触っても全然痛くないの。……それより仁花ちゃんは大丈夫だった?巻き込まれてない?」


「はい、私は全然。田中さんが来てすぐ喧嘩は止まったので…。」


「そっかそっか。……仁花ちゃんに怪我させてたら、私怒ってたかも。」


「え!?」


「あはは!!なんてね。」


でもあながち間違いじゃないかもしれない。


怪我したのが自分で、しかももう全然痛くないって自分が1番分かっているから、こんなに笑っていられるけれど、


周りの人からしたら私が無理しているようにも見えるのだろう。現に田中くんやノヤっさん、仁花ちゃんなどは心配してくる。


逆の立場なら私もそうだ、喧嘩してた彼らにもしっかり怒っていたかもしれない。





夏休みに入った。あっついあっつい毎日である。


前回の遠征以降、あまり会話をしていない影山くんと日向くん。


そして、他の部員も何かしら遠征で得て帰ってきて、自主練に取り組んでいる。


春高までにもっともっと力を付けなくては。皆の意識が高まっている証拠だ。


私達も全力でサポートしなければ。と気を引きしめる。


そして、今日の夜に宮城を発ち東京に向かう。


今度は約1週間の長い合宿となる。


「うおおお!!夜に出るとかなんかすげえええ!!」


「わははは!!この間は補習で来れなかったもんな!!」


テンションが上がっている日向くん、しかしいつもなら影山くんと会話する所をあえてなのか、離れて田中くんと話している。


となると、日頃あまり会話しない影山くんが心配だ。日向くんがいないと、感情を出す場面が極端に減ってしまう気がする。


「……名前ちゃん。」


「?はい。」


「影山のこと、心配?」


「え、あ、はい。……どっちも心配ですけど、影山くんの方がコミュニケーション取るの苦手だから心配です。」


「そうだね。……日向が会話しない代わりに、沢山見てあげて?」


「え?」


「きっと、名前ちゃんが近くにいてあげたら喜ぶと思うから。」


むしろうざったくないかな…?なんて思いながらも、そう言って笑う潔子さんに頷いて、影山くんの元へと向かう。


「影山くん。」


「苗字さん、どうしたんすか。」


「隣の席座っても良い?」


「え、……いいっすけど。」


少し驚いた様子、しかし隣の席を空けるために荷物を退けてくれた。


「ありがとう。」


「席、無かったんすか?」


「いや、………いや?あれ?もしかして無かったのかな。」


潔子さんに言われるがまま来たけれど、今見たら潔子さんの隣は仁花ちゃんで、通路挟んでコーチ。あれ?


「………普通に場所無いからって事だったのかも…。」


「……?まぁいいっすけど。……俺寝るんで、もたれかかったら起こしてください。」


「え!?全然いいよ、もたれてくれて。むしろ私の方がやっちゃいそうだし。」


「それは、大丈夫です。……たぶん俺が寄っちゃうと重たいっすよ。」


「そっか………わかった、その時になって考える!重かったら言うね。」


「お願いします。」


出発する車。


揺れる車内。前回もだったが上手く眠れない私は、外をずっと見ていた。


段々と静かになる車内。いびきや寝言も聞こえ始めた。皆爆睡かな?


するとこつん、と何かが肩に乗る。


隣を見ると、綺麗な切れ長の瞳を閉じた影山くん。


腕を組んだ状態で私の肩に寄りかかってきていた。


うっ……確かに重たい。重たいけど、我慢できない程でもない。


眠ってるからこそ見れる顔をじっくりと眺める。


まつ毛長い……やっぱり肌も綺麗。静かに寝息を立てる影山くんはいつもより幼く見えて、可愛く感じる。


いつも触ってみたいなと思っていた髪に手を伸ばす。


うわ……!サラッサラ!!……な、なんか良い匂いもする。じょ、女子力たっか…!?


そのまま形の良い頭を撫でる。いつもは届かない高さにある頭。


こういう時じゃないと撫でるなんて出来ないなぁ。


ふふ、と笑みを零し暗闇を走る車の中、眠る彼を眺めていた。

// list //
top