ネコの洞察

暑い暑い中での東京合宿。


約半分が経過して、皆体力的にしんどそうに見える。


熱中症には特に気をつけないと。暑い中ペナルティをこなし続ける皆を見て、心配に思った。


「はい、水分取ってね。」


「あざっす。」


体力おばけの日向くんはさて置き、影山くんも少しだけ疲れが見える。


他の皆に比べて涼しい顔をしている所は、流石としか言いようがない。


それに比べて皆よりも更にしんどそうな顔をしているのは月島くん。


「月島くん、大丈夫?」


「……はい。」


「飲んでね、あと汗も拭いて。」


「ありがとうございます。」


噴き出している汗。熱中症だけじゃなく、脱水症状も心配だ。月島くんは体や運動量の割にあまりご飯も食べていないように感じるし、いつ倒れるかわからない。


「気をつけてね、しんどかったらちゃんと休んでね。」


「…はい。…皆さん、体力おばけですね。」


「…真の体力おばけは日向くんだけだよ、他の皆はちゃんと疲れてる。」


「あいつはどうかしてます。」


「あはは……ちょっと同感。」


これだけ試合をこなして、ペナルティもほぼ全試合の後やって、その後の自主練の時間でもピンピンしてる日向くん。


彼の体力は底無しか…?バテてるのを見たことが無い。





「…あれ?」


食堂でご飯を用意していると、食堂へ寄らずにお風呂に向かっている研磨くんを発見。


「あれ?あの子ご飯食べないのかな?」


生川のマネさんも気づいて、首を傾げている。


研磨くんだってかなり動いてるんだから、食べないと倒れちゃうのに。


「ちょっと、声掛けてきてもいいですか?」


「うん!いいよいいよ、食べないの心配だもんね!」


にこにこと笑って送り出してくれた生川のマネさんに頭を下げて、少しだけ厨房を抜ける。


「研磨くん!」


「……?名前、どうしたの?」


研磨くんとはトラくんを通じて知り合い、そのマイペースな感じとか、ゆったり話す感じが私と合っていて、仲良くなった。


「ご飯食べないの?食堂寄らないの見えたから。」


基本的に自主練はしない研磨くんは、皆よりも早めに食堂に来ることが多かった。


しかし、今日はいつも来る時間なのに素通り。


「あー……ちょっと、バテちゃって……食欲、無いかな。」


「え!大丈夫?……でも、食べないと明日もしんどいよ?」


今辛いのも仕方無いが、せめて消化の良いものやくどくないものなどは胃に入れて置いた方が良い。


結局人は食べないと、動けないのだ。ちゃんとそういう風に出来ている。それ程にご飯とは大事なもの。


「……でも、」


「……お節介じゃなければ、おかゆとか作ろうか?」


病人では無いが、おかゆなら胃に優しいし食べられるかも。と思って提案する。


しかし研磨くんにとって迷惑なら、諦めて見送ろう。


「……いいの?」


少しだけ、嬉しそうに目を見開く研磨くん。


「いいよ!食べてくれるなら、心配じゃなくなるし。」


「…ありがとう。」


「いいえ!」


良かった、一緒に食堂まで引き返してくる研磨くんに一安心。


私は音駒のマネでは無いけれど、共に練習に励んでいる人達なら、心配にもなる。


「座ってて、すぐ用意する!」


「うん。……急がなくていいからね。」


「はーい!」


男の子なのに、最初話した時からあまり緊張しなかった研磨くん。


不思議な雰囲気で、でも緊張もしない。


話していても楽だし、良い人だよなぁ。


…………でも、


研磨くんも、トラくんも、田中くんもノヤっさんも。赤葦くんも木兎さんも。皆、皆良い人達だ。優しくしてくれる。


それでも、誰より私は、不器用であんまり話も聞いてない、そして緊張感も与えてくる影山くんが好きなのだ。


おかしいよなぁ、話してて楽なのはどっちかと言うと研磨くんなのに。


影山くんと話すと、寿命が縮む。色んな意味で。


「お待たせ!!」


「ありがと。」


出来上がったおかゆを研磨くんの前に差し出して、食べるよう促す。


ふーふー、と猫舌なのか冷ましながらゆっくり食べる研磨くん。


「……見られると、食べづらい。」


「え!?ご、ごめん。引っ込みます。」


「あ、いや……別に、いてもいいけど、…見ないで欲しい。」


「わ、わかった。」


正直皆自主練やり過ぎて、練習が終わったこの時間はあまり食堂に人は来ない。


2時間後ぐらいになると、皆慌てて食堂に駆け込んでくる。それまでご飯を用意しても冷めてしまう為、暇なのだ。


「……名前ってさ、」


「うん?」


「影山の事好きなの?」


「………………っ!?」


ガタン!!と椅子を倒してしまう。


大丈夫ー?と厨房から呼びかけてくる生川のマネさんにだ、大丈夫です!!と返事をしてから、目の前でクスクス笑ってる研磨くんに向き直る。


「な、なんで……!?」


「やっぱり。……なんとなくだけど、目で追ってる気がした。」


「そんなあからさまだった…!?」


「いや、全然。半分ぐらいは勘だったよ。……上手く隠せてると思う。」


「あ、ありがとうございます。」


それなら、良かった……のかな?


コーチの話を聞いてる限り、研磨くんは洞察力が高いらしい。それ故にバレたのであれば、研磨くん以外にはバレないだろう。


「あの……皆には…。」


「言わないよ。……言って欲しいなら別だけど。」


「い、言わないで!!」


「ふふっ……わかった。」


楽しそうに笑う研磨くんにほっと一息つく。


「どこが好きなの?」


「………研磨くん、こういう話興味あるんだね…。」


「人による。名前のは気になるかもってだけ。」


「そうですか……。」


どこ、……どこ、だろう。


「それで、どこなの?……顔とか?」


「顔は……まぁ、……かっこいいよね…!」


「うん、整ってると思うよ。他には?」


以外にもぐいぐい来る研磨くん。知ってどうするんだ…!?


「…優しいところ。」


「優しいんだ?」


「うん、マネージャーの仕事してても、自分の片付け終わってたりしたら手伝ってくれる。いつも1番に手伝います、って来てくれる。」


「へぇ……ちょっと意外かも。雑務はマネージャーの仕事だろ、って割り切ってそうなのに。」


「そう!!そうなの!!なのにね、涼しい顔して手伝いますって言ってくるの!」


「急にテンション上がったね。」


「あ、ごめん…。」


「楽しいからいいよ。…他には?」


「他……意外と、スキンシップ多いところとか。」


「え?そうなの?」


「うん、…手握ってきたりとか、たまにする。」


「へぇ……、結構仲良いよね、2人。」


「え!?そ、そう見える?」


「うん、俺はね。影山、そもそも人との距離近くないから、名前だけ特に近く見える。」


「そ、そっかぁ……!」


「……ふふ、嬉しそうだね。」


ついにやけてしまい、それを指摘されて恥ずかしくなる。


嬉しい、すっごく嬉しい。第三者から見て、影山くんと距離が近いと思われるのは、思った以上に嬉しい事だった。


影山くんが本当はどう思ってるのかなんてわからないけれど、少なくとも、実際の距離は近いんだ。


「……ご馳走様でした。」


「あ、…お粗末様でした!」


「おかゆ、ありがとう。あと影山の話面白かったよ。」


「そ、そう…?」


「うん。また聞かせてね。」


ゆらり、立ち上がっておやすみ。と言い残して去っていった研磨くん。


影山くんに片想いしてるってバレてしまったのは恥ずかしいが、この、高まる気持ちを話せる相手が出来たのは嬉しい。


なんとなく全部好きだなぁ、なんて思ってた影山くん。


研磨くんに聞かれて思った、どこが好きなのか明確にわからないって。


次また話す時のために、ちゃんと考えてみよう。


そう意気込んだ私。しかし寝る前に考えてみて、恥ずかしさや自分の気持ち悪さから寝付けなくなるなんて、この時の私は知らなかった。

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