赤とか青とか

「「うおおおおおおお!!!!」」


成功した新速攻。


久しぶりにプレー中コミュニケーション取る二人を見て、ちょっとだけ涙腺に来てしまう。


「やった!やったぁ!!」


隣から跳ねるような喜ぶ声。仁花ちゃんだ。


仁花ちゃんはずっと2人の自主練に付き合ってきていた、喜びも人一倍大きいだろう。


田中くん達のシンクロ攻撃も決まり、良い雰囲気が流れたが、梟谷のエース、木兎さんが不調に陥っても全く崩れぬ梟谷に苦戦し、最後の試合も負けてしまった。


負けばっかりの東京遠征。とは言え、得たものは大きくて。


それは勿論技術面もそうだけど、こうしてお肉を囲んで笑い合える交友関係もその1つだろう。


「うぅ……目がぁ……。」


「だ、大丈夫!?」


生川のマネさんが泣きながら玉ねぎを切っており、それを心配してる梟谷のマネさん。


「あ、あの、私代わります!」


「いいのぉ…?」


「はい、慣れてるので。」


私も玉ねぎには弱いが、早めに終わらせる事、水につける事、出来るだけ息を吸わないことを意識して切るようにしてる。


なので、生川のマネさんのように大泣きとまではいかない。


………ちょっとだけ、泣いてしまうけれど。





「梟谷グループのマネちゃん達はレベルが高い……そこに烏野が入って更に良くなったがどうだろう。」


「異論なし。……烏野も可愛い子達だよなぁ。」


「な。………どの子がタイプ?」


「え?烏野の中で?……俺は、あの2年の苗字さんかなぁ。」


「あー、清楚系?良いよなぁ!優しいし可愛いし!」


「そうそう、清水さんはちょっと高嶺の花過ぎるから、苗字さんの方が話しかけやすい。」


「わかるわかる。」


清水さんが高嶺の花、と言うのはわからないが、苗字さんの方が話しかけやすいのはわかる。


肉をどんどん口に放り込みながら、そんな事を話している梟谷の人の声を盗み聞く。


「彼氏、いんのかなぁ?」


「いやいるだろー。可愛いし、気配り出来るし。」


「だよなぁ。」


……彼氏?


苗字さん、彼氏いんのかな。聞いたことねぇけど、……いるんですか?って聞いたことも無い。


少しだけ、彼氏と言う言葉に胸がざわつく。


なんでだ、とかそんな事は考えずに、ただただ気になった。苗字さん彼氏いんのかなって。





「ふぅ…。」


野菜の準備もお肉の準備もひと段落。


マネさん達も男の子達に混じってお肉を食べに行った。


私は少し、夏バテなのか食欲が沸かない。


研磨くんにはご飯食べてって言った割に、自分は食べる気が起きない。ごめん、研磨くん。


でも今日には宮城に帰るし、体を動かす訳でもないから今だけは許して欲しい。そう完結付けて、水を飲んだ。


玉ねぎで緩んだ涙腺が中々止まらない。いつもの事だけど…涙の浮かんだ目じりを拭って、楽しそうにしている皆さんを眺める。


楽しかったなぁ、東京遠征。色んな人と話せて、緊張も沢山したけれど、皆優しかった。


予選を勝ち抜けば、また皆でここに来ることが出来る。


……誰一人変わらず、またここに戻ってきたいな。


「…苗字さん?どうしたんすか。」


「…え?」


少しだけ、慌てた様子の影山くん。何が?


「泣いてます、…なんかあったんですか?」


「あぁ!玉ねぎ切っただけだよ、大丈夫。」


「あ……そっすか。」


ほっ、と肩を撫で下ろす彼。心配してくれてありがとう、今日も優しくてキュン、と胸が鳴く。


「……あの、苗字さん。」


「うん?」


お肉の乗った皿を持ったまま、隣に腰掛けた影山くん。


「苗字さんって彼氏いるんすか。」


「え!?い、いないいない。できたことも無い!!」


突然何を言い出すんだ!?


こんな私に彼氏ができる訳が無い。仲良くなるまででも一苦労なのに。


「……そうっすか。」


「う、うん。……影山くんは?」


聞かれて、初めて意識した。そういえば、影山くん実は彼女いますとか無いよね?って。


いたら、絶句級の衝撃だ。少しだけ覚悟して聞いてみる。


「いないっすよ、……そんな暇無かったっす。」


「だ、だよね!!」


「いなさそうに見えます?」


「いや!!そ、そうじゃなくて!!………うん!」


馬鹿にしてるとかじゃなくて、あの、……バレーしかやってきてない感じは凄いから、という意味で頷く。


「はは!!正直っすね。」


「うっ…………ごめん。」


「いや、別に。事実っすし。…飯食ってます?」


「……ちょっと夏バテで、食欲ないんだぁ。」


「え?ちゃんと食わねぇとダメっすよ。」


「うっ…わかってるんだけど、その、……中々食べる気にならなくて…。」


影山くんに彼女がいなかった事にテンション上がったが、影山くんに正論をぶつけられ、いたたまれなくなる。


「これ、あげるんで食べてください。」


「いや、ちょっと、あの、」


「食べねぇと元気にならねぇっすよ!!」


「うっ…。」


わかっている、わかってるんだけど……と縮こまる私。それを見かねた影山くんは、


「ほら、口開けてください。」


「え!?」


お肉を挟んだ箸をこちらを向けていた。し、しかもそれ、影山くん使ってたヤツ……。


嫌じゃない、全然嫌じゃない、むしろ、なんて考えてむしろって何だよ!?気持ち悪いよ!?と自分に衝撃を受けた。


「早く、食べてください。」


「え、ちょっと、自分で食べれるから、」


「いいから。」


有無を言わせない眼圧。ひいい……美人が怒ると怖いんだよお……とビビりながら口を開く。


「あーん。」


あーん、て!!?


口の中にお肉を入れられ、咀嚼する。


突然の可愛いあーん、ににやけそうになってやばい。目の前でちゃんと食べてるか確認していると言うのに、にやけたらキモすぎる。


「食べました?」


「…はい。」


なんとか表情筋を駆使して抑えたにやけ顔。


「じゃあ次。はい、あーん。」


「も、もう大丈夫だよ!?」


「1枚しか食ってないじゃないっすか!! 」


「ひええ!?じ、自分で食べれる!!」


「……本当っすか…?」


うわぁ!!疑ってる!!


「食べる!!食べます!!」


「なら……あ。」


「え?」


「……すんません、俺の箸でした……………すんません。」


今更その事実に気づいたのか、みるみるうちに顔を赤くさせて、俯いてしまった影山くん。


何その反応、か、可愛すぎる……!?


あーん、と言い、今日の影山くんは可愛いが過ぎる。かっこいい影山くんにメロメロになっていた私は、可愛い影山くんにもメロメロだ。


「だ、大丈夫!!私お肉取ってくる!!」


「取れますか、でかいヤツばっかっすけど、」


「……本当だ。」


「俺、取ってきます。待っててください。」


逃げるようにして真っ赤な顔をした影山くんは、巨人の群れの中に潜り込んでしまった。


なんだ今の一連の流れは。反芻して、恥ずかしさから消えたくなる。そもそもあーん、なんて誰かに見られてないか心配だ。


影山くんが私と付き合ってる噂なんて流れたらどうしよう。迷惑そうな顔されたら………立ち直れる気がしない。


なんて青ざめていると、お皿いっぱいにお肉を乗せた影山くんが戻ってきて、これ全部食べるまで見張ります。なんて言うので、その言葉にも青ざめた。

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