「「うおおおおおおお!!!!」」
成功した新速攻。
久しぶりにプレー中コミュニケーション取る二人を見て、ちょっとだけ涙腺に来てしまう。
「やった!やったぁ!!」
隣から跳ねるような喜ぶ声。仁花ちゃんだ。
仁花ちゃんはずっと2人の自主練に付き合ってきていた、喜びも人一倍大きいだろう。
田中くん達のシンクロ攻撃も決まり、良い雰囲気が流れたが、梟谷のエース、木兎さんが不調に陥っても全く崩れぬ梟谷に苦戦し、最後の試合も負けてしまった。
負けばっかりの東京遠征。とは言え、得たものは大きくて。
それは勿論技術面もそうだけど、こうしてお肉を囲んで笑い合える交友関係もその1つだろう。
「うぅ……目がぁ……。」
「だ、大丈夫!?」
生川のマネさんが泣きながら玉ねぎを切っており、それを心配してる梟谷のマネさん。
「あ、あの、私代わります!」
「いいのぉ…?」
「はい、慣れてるので。」
私も玉ねぎには弱いが、早めに終わらせる事、水につける事、出来るだけ息を吸わないことを意識して切るようにしてる。
なので、生川のマネさんのように大泣きとまではいかない。
………ちょっとだけ、泣いてしまうけれど。
◇
「梟谷グループのマネちゃん達はレベルが高い……そこに烏野が入って更に良くなったがどうだろう。」
「異論なし。……烏野も可愛い子達だよなぁ。」
「な。………どの子がタイプ?」
「え?烏野の中で?……俺は、あの2年の苗字さんかなぁ。」
「あー、清楚系?良いよなぁ!優しいし可愛いし!」
「そうそう、清水さんはちょっと高嶺の花過ぎるから、苗字さんの方が話しかけやすい。」
「わかるわかる。」
清水さんが高嶺の花、と言うのはわからないが、苗字さんの方が話しかけやすいのはわかる。
肉をどんどん口に放り込みながら、そんな事を話している梟谷の人の声を盗み聞く。
「彼氏、いんのかなぁ?」
「いやいるだろー。可愛いし、気配り出来るし。」
「だよなぁ。」
……彼氏?
苗字さん、彼氏いんのかな。聞いたことねぇけど、……いるんですか?って聞いたことも無い。
少しだけ、彼氏と言う言葉に胸がざわつく。
なんでだ、とかそんな事は考えずに、ただただ気になった。苗字さん彼氏いんのかなって。
◇
「ふぅ…。」
野菜の準備もお肉の準備もひと段落。
マネさん達も男の子達に混じってお肉を食べに行った。
私は少し、夏バテなのか食欲が沸かない。
研磨くんにはご飯食べてって言った割に、自分は食べる気が起きない。ごめん、研磨くん。
でも今日には宮城に帰るし、体を動かす訳でもないから今だけは許して欲しい。そう完結付けて、水を飲んだ。
玉ねぎで緩んだ涙腺が中々止まらない。いつもの事だけど…涙の浮かんだ目じりを拭って、楽しそうにしている皆さんを眺める。
楽しかったなぁ、東京遠征。色んな人と話せて、緊張も沢山したけれど、皆優しかった。
予選を勝ち抜けば、また皆でここに来ることが出来る。
……誰一人変わらず、またここに戻ってきたいな。
「…苗字さん?どうしたんすか。」
「…え?」
少しだけ、慌てた様子の影山くん。何が?
「泣いてます、…なんかあったんですか?」
「あぁ!玉ねぎ切っただけだよ、大丈夫。」
「あ……そっすか。」
ほっ、と肩を撫で下ろす彼。心配してくれてありがとう、今日も優しくてキュン、と胸が鳴く。
「……あの、苗字さん。」
「うん?」
お肉の乗った皿を持ったまま、隣に腰掛けた影山くん。
「苗字さんって彼氏いるんすか。」
「え!?い、いないいない。できたことも無い!!」
突然何を言い出すんだ!?
こんな私に彼氏ができる訳が無い。仲良くなるまででも一苦労なのに。
「……そうっすか。」
「う、うん。……影山くんは?」
聞かれて、初めて意識した。そういえば、影山くん実は彼女いますとか無いよね?って。
いたら、絶句級の衝撃だ。少しだけ覚悟して聞いてみる。
「いないっすよ、……そんな暇無かったっす。」
「だ、だよね!!」
「いなさそうに見えます?」
「いや!!そ、そうじゃなくて!!………うん!」
馬鹿にしてるとかじゃなくて、あの、……バレーしかやってきてない感じは凄いから、という意味で頷く。
「はは!!正直っすね。」
「うっ…………ごめん。」
「いや、別に。事実っすし。…飯食ってます?」
「……ちょっと夏バテで、食欲ないんだぁ。」
「え?ちゃんと食わねぇとダメっすよ。」
「うっ…わかってるんだけど、その、……中々食べる気にならなくて…。」
影山くんに彼女がいなかった事にテンション上がったが、影山くんに正論をぶつけられ、いたたまれなくなる。
「これ、あげるんで食べてください。」
「いや、ちょっと、あの、」
「食べねぇと元気にならねぇっすよ!!」
「うっ…。」
わかっている、わかってるんだけど……と縮こまる私。それを見かねた影山くんは、
「ほら、口開けてください。」
「え!?」
お肉を挟んだ箸をこちらを向けていた。し、しかもそれ、影山くん使ってたヤツ……。
嫌じゃない、全然嫌じゃない、むしろ、なんて考えてむしろって何だよ!?気持ち悪いよ!?と自分に衝撃を受けた。
「早く、食べてください。」
「え、ちょっと、自分で食べれるから、」
「いいから。」
有無を言わせない眼圧。ひいい……美人が怒ると怖いんだよお……とビビりながら口を開く。
「あーん。」
あーん、て!!?
口の中にお肉を入れられ、咀嚼する。
突然の可愛いあーん、ににやけそうになってやばい。目の前でちゃんと食べてるか確認していると言うのに、にやけたらキモすぎる。
「食べました?」
「…はい。」
なんとか表情筋を駆使して抑えたにやけ顔。
「じゃあ次。はい、あーん。」
「も、もう大丈夫だよ!?」
「1枚しか食ってないじゃないっすか!! 」
「ひええ!?じ、自分で食べれる!!」
「……本当っすか…?」
うわぁ!!疑ってる!!
「食べる!!食べます!!」
「なら……あ。」
「え?」
「……すんません、俺の箸でした……………すんません。」
今更その事実に気づいたのか、みるみるうちに顔を赤くさせて、俯いてしまった影山くん。
何その反応、か、可愛すぎる……!?
あーん、と言い、今日の影山くんは可愛いが過ぎる。かっこいい影山くんにメロメロになっていた私は、可愛い影山くんにもメロメロだ。
「だ、大丈夫!!私お肉取ってくる!!」
「取れますか、でかいヤツばっかっすけど、」
「……本当だ。」
「俺、取ってきます。待っててください。」
逃げるようにして真っ赤な顔をした影山くんは、巨人の群れの中に潜り込んでしまった。
なんだ今の一連の流れは。反芻して、恥ずかしさから消えたくなる。そもそもあーん、なんて誰かに見られてないか心配だ。
影山くんが私と付き合ってる噂なんて流れたらどうしよう。迷惑そうな顔されたら………立ち直れる気がしない。
なんて青ざめていると、お皿いっぱいにお肉を乗せた影山くんが戻ってきて、これ全部食べるまで見張ります。なんて言うので、その言葉にも青ざめた。