代表決定戦

代表決定戦が始まった。


「……ふぅ。」


「…?緊張してるんすか?」


「うわぁ!?」


「!?」


コートを前にして深呼吸をしていると、相も変わらず涼しい顔でこてん、と首を傾げている影山くん。


しかし、突然話しかけられたことで私はビビり上がり、その声に影山くんもビクゥ!と体を揺らした。


「ごご、ごめん!!大きな声出して、」


「い、いえ。」


「……影山くんって緊張する事あるの?」


「……ありますよ、たまに。」


たまに!!なんて心臓が強いんだ。


でもそれだけじゃない。彼の場合緊張しない程自信をつけている。自信に繋がる練習量をこなしている。


「……流石だね。」


「……?うす。」


全部含めてそう言った。きっと影山くんはこんな所では留まらない、もっと大きな舞台まで行くんだろうなぁ。


その時私は何してるかな、なんて考えてしまって頭を振る。


今は試合に集中。先のことは誰にも分からない。


今からの試合結果でさえ、分からないんだから。





「…大丈夫?」


「はい、痛みは無いです。」


医務室にて影山くんにティッシュを渡し続ける。


ツーアタックを止めに行った影山くんは、まさかの顔面ブロック。


うわ、痛そう!と思った直後、影山くんの鼻から出血した。


「鼻の他は大丈夫?目とか口とか切ってない?」


「はい、鼻血だけです。」


ティッシュで抑えて血が止まるのを待つ。その間も影山くんの瞳は静かで冷ややかで。きっとコートの中を考えているんだろうなぁと集中力を見せつけられた。


「…あ、止まってきたね。」


「っす、もう大丈夫です。」


「じゃあ顔洗ってコート戻ろうか。」


血で汚れてしまった顔周りを洗って、共に医務室を出る。


「ありがとうございました。」


「いいえ、……活躍、見てるからね。」


そう言うと、少しだけ目を見開き、こくんと頷いた影山くん。


そして彼は体育館の中へと消えた。なんとも頼れる背中、年下なのに。


影山くんを見送って、私も観覧席へと戻った。





無事条善寺高校に勝利を収め、翌日。


「和久谷南…。」


「インハイ予選の時、烏養さんが要注意って言ってた学校ですね。……プレースタイルが音駒に似てるんだとか。」


「うん、今日はちゃんと知ってるよ!」


振り返って月島くんに笑いかける。するとまぁ、今まで知らなさすぎですよね。と言われてちょっとムカついてしまった。





和久南に勝利し、次は青葉城西。


インハイ予選の記憶が思い起こされる。


なんとも空気が重たい、ふと影山くんを見ると静かに爪を研いでいた。


「影山くん、」


「……苗字さん。」


「緊張してる?」


「……はい。」


影山くんの緊張はたまにしか来ないらしい。でも、そのたまには今なんだ。


「及川さん怖い?」


「……はい、あの人は怖いです。」


俯く影山くん。滅多に見られない影山くんのビビりタイム。


いつも強気で頼れる背中は小さく縮こまって、なんだか守ってあげたくなる。


「そっかぁ……そうだよね……。」


「……っす。」


「……でも、1人じゃないよ。」


綺麗に指先まで整えられた手を両の手で包み込む。


「みんな居るよ。」


大きく開かれた瞳の中に、自分が映る。


みんなみんな、チームメイトはみんな仲間だよ。応援してくれる人だってみんな仲間。


「だから、大丈夫だよ。」


みんな味方だから、怯えなくても大丈夫だよ。


そんな思いを込めて手を強く握る。


「……はい。」


握り返され、少しだけ緩く笑いかけられた。


良かった、少しでも元気になってくれたみたい。


烏野は強い。それでも、その力を出し切るにはこのセッター様の力が必須だ。


「及川さんにも負けない影山くんを、見てるからね。」


「……はい、見ててください。」


この笑顔が、試合の後でも見れますように。


……その願いは届いたようで、私たちは青葉城西に勝利した。

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