代表決定戦が始まった。
「……ふぅ。」
「…?緊張してるんすか?」
「うわぁ!?」
「!?」
コートを前にして深呼吸をしていると、相も変わらず涼しい顔でこてん、と首を傾げている影山くん。
しかし、突然話しかけられたことで私はビビり上がり、その声に影山くんもビクゥ!と体を揺らした。
「ごご、ごめん!!大きな声出して、」
「い、いえ。」
「……影山くんって緊張する事あるの?」
「……ありますよ、たまに。」
たまに!!なんて心臓が強いんだ。
でもそれだけじゃない。彼の場合緊張しない程自信をつけている。自信に繋がる練習量をこなしている。
「……流石だね。」
「……?うす。」
全部含めてそう言った。きっと影山くんはこんな所では留まらない、もっと大きな舞台まで行くんだろうなぁ。
その時私は何してるかな、なんて考えてしまって頭を振る。
今は試合に集中。先のことは誰にも分からない。
今からの試合結果でさえ、分からないんだから。
◇
「…大丈夫?」
「はい、痛みは無いです。」
医務室にて影山くんにティッシュを渡し続ける。
ツーアタックを止めに行った影山くんは、まさかの顔面ブロック。
うわ、痛そう!と思った直後、影山くんの鼻から出血した。
「鼻の他は大丈夫?目とか口とか切ってない?」
「はい、鼻血だけです。」
ティッシュで抑えて血が止まるのを待つ。その間も影山くんの瞳は静かで冷ややかで。きっとコートの中を考えているんだろうなぁと集中力を見せつけられた。
「…あ、止まってきたね。」
「っす、もう大丈夫です。」
「じゃあ顔洗ってコート戻ろうか。」
血で汚れてしまった顔周りを洗って、共に医務室を出る。
「ありがとうございました。」
「いいえ、……活躍、見てるからね。」
そう言うと、少しだけ目を見開き、こくんと頷いた影山くん。
そして彼は体育館の中へと消えた。なんとも頼れる背中、年下なのに。
影山くんを見送って、私も観覧席へと戻った。
◇
無事条善寺高校に勝利を収め、翌日。
「和久谷南…。」
「インハイ予選の時、烏養さんが要注意って言ってた学校ですね。……プレースタイルが音駒に似てるんだとか。」
「うん、今日はちゃんと知ってるよ!」
振り返って月島くんに笑いかける。するとまぁ、今まで知らなさすぎですよね。と言われてちょっとムカついてしまった。
◇
和久南に勝利し、次は青葉城西。
インハイ予選の記憶が思い起こされる。
なんとも空気が重たい、ふと影山くんを見ると静かに爪を研いでいた。
「影山くん、」
「……苗字さん。」
「緊張してる?」
「……はい。」
影山くんの緊張はたまにしか来ないらしい。でも、そのたまには今なんだ。
「及川さん怖い?」
「……はい、あの人は怖いです。」
俯く影山くん。滅多に見られない影山くんのビビりタイム。
いつも強気で頼れる背中は小さく縮こまって、なんだか守ってあげたくなる。
「そっかぁ……そうだよね……。」
「……っす。」
「……でも、1人じゃないよ。」
綺麗に指先まで整えられた手を両の手で包み込む。
「みんな居るよ。」
大きく開かれた瞳の中に、自分が映る。
みんなみんな、チームメイトはみんな仲間だよ。応援してくれる人だってみんな仲間。
「だから、大丈夫だよ。」
みんな味方だから、怯えなくても大丈夫だよ。
そんな思いを込めて手を強く握る。
「……はい。」
握り返され、少しだけ緩く笑いかけられた。
良かった、少しでも元気になってくれたみたい。
烏野は強い。それでも、その力を出し切るにはこのセッター様の力が必須だ。
「及川さんにも負けない影山くんを、見てるからね。」
「……はい、見ててください。」
この笑顔が、試合の後でも見れますように。
……その願いは届いたようで、私たちは青葉城西に勝利した。