「……?なんすか?」
なんて事ない顔で汗を拭いている影山くん。
確かにプレーは凄技のオンパレードで、他とは違う異彩を放ってはいたが、
まさか全日本ユースに招集される程とは…。
「…やっぱり凄いんだね、影山くんって。」
「……?あざっす。」
何が?と言いたげな顔だが、そんな顔ですらかっこいいんだからずるい。全日本ユースなのにかっこいいのとかずる過ぎる。
そんなの、そんなのって、体育館の外にちらほら見える影山くん目的の女子生徒たちを見て思う。
そんなかっこよくなっちゃうと、皆影山くんの事好きになっちゃうじゃないか、と。
◇
好きです、付き合ってください。
割かし大きな声で伝えていたあの女の子の想いは成就したのだろうか、そんな事を考えては溜息が止まらない。
「おーい、大丈夫かー?」
「元気ねぇぞ!なんかあったのか?」
今日も元気な2人組、田中くんとノヤっさん。私の周りの席を借りて座り出す。
「……なんでもないよ。」
「いいや、嘘だな。さっきから溜息ばっかりだぞお前。」
「そうだそうだ、何かあったなら話してみろよ?相談に乗るぞ?」
そう言われても、彼らに相談すると基本的には参考にならない返事が返ってくるので遠慮したい所なんだけども…。
「……さては、苗字。お前、恋してんな?」
「っ!?」
驚き、体を震わせ、座っていた椅子がガタン!と音を立てた。な、なんでバレて…!?
「おぉ!図星か!!」
「まじか!!どこの誰だよ!?」
「お、教えない!!」
「なんでだよ!?」
「水くせぇじゃねぇか!!」
い、言えるわけない。同じ部活だし。……この2人が上手く隠し通せるかなんて、わかりやしない。リスキー過ぎる…!
「ぜ、絶対に言わない!!」
「んなっ…!?あの苗字がこんなに強い意志で拒否している…!?」
「…相当教えたくない所を見て、もしや俺達が知ってるやつだな?」
「!!!」
にやり、ノヤっさんの思うツボである。わかり易すぎるほどに反応した私は肯定も同然だ。
「おい、もう言い逃れは出来んぞ苗字。」
にやにや。
「そうだぞ、ここで吐いちまった方が身のためじゃねぇか?」
にやにや。
くっそぅ………!!!そう奥歯を噛み締めた所で
「……ちわっす。」
「「「!!?」」」
3人で勢いよく振り返ると、影山くん。よりによって影山くん。
「お、おぉ!!影山か!どうした?……と言うかここ2年の教室だぞ?」
「あ、はい。知ってます。さっきキャプテンに会って、伝言頼まれたので来たんすけど、声掛けても3人とも全然気づいてなかったんで……。」
「まじか!!すまん!!話すのに夢中になってた…。」
「いえ。今日は自主練禁止だそうです。」
「「えぇ!?」」
「オーバーワークげーんきーん。って言ってました。」
大地さん言ってそう…と言うかよく言ってる……。でも影山くんが真似したのがちょっと面白くて笑ってしまう。
「さ、最近大地さんオーバーワークに厳しすぎねぇ!?」
「まぁ全国大会近いもんね……仕方ないよ。」
「ううううう、動き足りねぇよ!!」
「でも、練習してんのバレたら大地さんに叱られるよ?」
そう言うと、怒った大地さんを想像したのか血の気が引いていくノヤっさん。大地さんは流石すぎる。
「……仕方ねぇ。今日は帰るかぁ。」
「そうだな……って!!話題が変わって忘れそうになってたけど、苗字の好きなやつって誰だよ!?」
「げっ……。」
話題が逸れて安心してたのに、なぜ忘れないのノヤっさんめ。
「……好きなやつ?」
「そうそう!影山の声に気づかなかったのは、苗字が片想いしてる相手について問いただしててな!それに夢中になってたんだよ。」
「………………は?」
「おーいー、誰だよぉー??」
「い、言わないってば!」
「苗字さん。」
「ひぃっ!?」
にゅ、と私とノヤっさんの間に顔を突っ込んできた影山くん。め、めが、目がなんかやばい、怖い。
「好きなやついるんすか。」
「え、あ………はい。」
あなたですけども、なんて声は奥底に隠す。このタイミングで言ってみろ、この2人組がバレー部全員に言いふらすぞ。
「誰ですか、俺知ってる人ですか。」
「お、おい。影山!?どうしたんだよ。」
「教えてください。」
「い、言えないよ……。」
思わず顔を逸らすと、肩を掴んで、
「誰ですか。」
そう問いただしてくる影山くん。ひたすらに怖い。
「おい、影山!?」
「ちょ、一旦落ち着けよ!?どうした、お前。」
「…………すいません、ちょっと感情的になりました。」
私の肩から手を離し、息を着く影山くん。本当にどうしたんだろう。
「すいません、無理に聞いたりして。」
「い、いや。大丈夫だよ!」
失礼しました。そう言い残して教室を出ていってしまった。
なんだったんだろうな?と目の前にいる彼らは首を傾げている。私も疑問ばかりが浮かぶが、それより何より、
どうしてあんなにも悲しそうな顔をしていたのかが、気になって仕方がない。