後輩

「ちわーっす……?」


なんだか騒がしい体育館に足を踏み入れる。そうか、今日から新1年生もいるのか。


ドキッと少しだけ緊張。初めましてな人はいつだって緊張するし、当たり前だが男の子なんだ、頑張って早く慣れないと。


そう意気込んで入った体育館の中に、凄く、凄くかっこいい子がいた。


切れ長の瞳にサラサラの黒髪。


思わず息を飲んで固まる。


「おー、苗字!来たか!!」


「ち、ちわっす!」


「おーっす!」


「おっす!!こいつら、新1年生だぞ!」


「ち、ちわっす!!」


「ちわっす。」


「ち、ちわっす!」


オレンジ髪の男の子と、先程見惚れてしまった綺麗な男の子に頭を下げる。


「おい、ヘコヘコ頭下げてんじゃねぇぞ苗字!そんなんだと1年に舐められっぞ!?」


「舐められるって……田中くんは顔が怖いよ…。」


あぁん!?とでも言い出しそうな輩顔に苦笑いを浮かべる。


それにしても、と黒髪の彼を見る。身長180センチぐらいあるのかな……大きいなぁ……サラサラの黒髪、触ってみたい……。


そこまで思って気づく、触ってみたいって。触って悲鳴を上げるのは私なのに。


しかし大人しそうに見えた彼は意外と攻撃的で、オレンジ髪の子と言い争う。


そこからは、まぁ、その、酷かった。


大地さんの言うことを聞かず、教頭先生のカツラを吹っ飛ばし、体育館の外へ放り出された2人。


嵐のような怒涛の展開についていけず、気づけば彼らは勝負を大地さんに申し込んでいた。


その結果、週末に行われる3対3で勝ったら黒髪の彼、影山くんはセッターとして起用されるらしい。


それにしても大地さんやスガさんの言い方からして影山くんは、強豪校からやって来た人らしい。


じゃあ怖いのかな……タラタラしてんじゃねぇよマネージャー!!とか言われるのかな……。


「…?どうしたの、名前ちゃん?」


「っえ!?」


「なんか青ざめてるけど。」


「は、はい!!いいえ!!」


「…?(どっち…?)」


い、いかんいかん。人を偏見で判断しちゃいけない。


もしかしたらすっごい優しい人なのかもしれない。……いやでも日向くんに対する暴言は……。


やめよう。面と向かって話してすらいない彼のことを考えるのは。怒られたら、まぁ、その時はその時だ。


「週末、どっちが勝ちますかね?」


「どうだろう。……他の1年生も大きい子いたからね。」


「そうですよね…。」


「おい!!苗字!!」


「うわっ!?」


田中くんに腕を引っ張られ壁際に連れてこられる。


「な、何!?」


「明日から、早朝練をする。」


「え?」


すっごい小声。そうか、彼らに加担する事になった田中くんは練習する為に……。大地さんにバレたらまずいな。


「お前も来い。」


「なんで!?」


「声がデケェよ!!!…ボール出しとか、準備と片付けの手伝いとか頼みたいんだよ!」


「……とか言って共犯者作りたいだけ、とか?」


「うっ!!」


やっぱり。予想通り過ぎて思わず吹き出してしまう。


「あははは!!いいよ、何時から?」


「!!助かるぜ!!流石苗字!!時間は…、」


早朝練。大地さんにバレないようになんて、少し、いやだいぶ悪いことをしてしまう。


少しだけドキドキしちゃうな!

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