全国大会

「本物のスカイツリー…!!」


「苗字さんも見るの初めてなんすか?」


「うん!!東京なんてほとんど来たことないしね…!」


バスから見える景色に感動する、あれが噂の、テレビで見たスカイツリー!!


都会にやって来たんだなぁと実感する。でも遊びに来た訳じゃない、生半可な気持ちで来たわけじゃない。


ここに、戦いに来たんだ。




「俺のシューズじゃ、無い……!?」


この日向くんの言葉から、練習してきた体育館で入れ替わってしまった事に気づく。


幸い、日向くんが携帯を一緒に入れていたため連絡が着いた。


体育館で待っていてくれるとの事なので、試合が始まるまでに取り替えてこなくては。


「私行ってきます。」


「い、いや、それなら私が……!」


名乗りを上げた仁花ちゃんに笑顔を向ける。


「仁花ちゃんはここで潔子さんと皆を支えて。」


「潔子さん、」


「…うん、お願い。怪我には気をつけてね…?」


「はい!」


「すいません、お願いします…!!」


ヘコヘコと頭を下げる山口くんと日向くんにも心配しないよう、笑顔を向ける。


「うん、任せて!!」


意外と足には自信があるのだ。これでも中学では運動部に所属していた、今でも体力テストではそれなりに良い成績を修められている。


「…気をつけてくださいね。」


シューズ袋を背負ったところで影山くんが、少しだけ心配そうにこちらを見ている。


「うん、大丈夫。絶対間に合わせてみせるから、万全の状態で試合に臨めるようアップしといてね!!」


「……うす!」


よし、行こう。時間は無限じゃない。


私は足に力を込めて、走り出した。





無事、シューズを取り替えられ引き返す。


バスを降りて会場へ向かう。このシューズはただのシューズじゃない、皆を、日向くんを空へと羽ばたかせる翼だ。


絶対に届けなくてはいけない、そう強く力みすぎたのがいけなかったのか、


「うわっ!?」


「っ!?」


側方から来ている自転車に気づかず、強い衝撃が私を襲った。


目を開けると、倒れた自転車と人。でも、自転車の人は割と無傷っぽい。


「だ、大丈夫ですか!??すいません、前見てなくて、」


まずい、早くしないと試合に間に合わない。


「大丈夫です!!それでは…っ!?」


急いで立ち上がろうとしたところで襲う激痛。自分の状態をよく見ると、右側の半身が擦り傷まみれで、特に足の傷が酷く震えていた。


「手当てしましょう!?傷洗わないと…。」


自転車に乗っていた男の人に手を引かれるが、その手を振り払う。


「ごめんなさい、本当に大丈夫なので!!失礼します!!」


震えている足を傷を避けて強く叩いた。痛い、痛いけど、少しだけ震えが止まる。その状態で無理矢理にでも前に足を出した。


携帯で仁花ちゃんを呼べたら良いんだけど、たぶん声援などで聞こえない。私が会場まで行かなければ。


ふぅ、ふぅ、と息が荒くなる、痛いし苦しいしで最悪。最悪だけど、これを届けられなかった時の方がもっと辛い。


足を引きずりながら辿り着いた体育館。皆の姿を見つけて、足を引っ張って歩く。


あの人大丈夫?とか痛そー…とか色んな声が聞こえる。でもそんなの全然気にならない。私はこのシューズを届けないといけないんだ!!


「あ!!名前さん!!……ってえぇ!?だ、大丈夫でさか!?」


「だ……だいじょぶ……。……ふぅ、……ふぅ……潔子さああん!!」


なんとか最前列までやって来て、潔子さんを呼ぶ。


振り返る、初めて会った時から、初めて話した日から、初めてマネージャーの仕事を教えてくれた日からずっとずっと、


一緒に仕事をこなしていく日々も、一緒に横断幕を洗った時も、一緒に新マネージャー探した時もずっとずっと、ずーーっと綺麗な潔子さん。


あと少しでいなくなる、大好きな先輩であり、マネージャーの先生。


どうか最後まで、悔いのない試合をして欲しい。見せて欲しい。


その為なら、私は全力で支えるから!!


勢いよく投げたシューズ袋。それを受け取る潔子さん。


にっ、と笑って親指を立てられた。その笑顔に、私も笑い返す。


「おーい!!名前ー!!」


その声にコートを見ると、こちらに手を振るノヤっさんと田中くん。


2人がいなかったら、誘ってくれなかったらこんな風に熱い思いを抱えることもなかったんだ。


ナイス!!と言わんばかりにこちらに親指を立てた2人に向けて、私も親指を立てた。


潔子さんの後ろでは日向くんと山口くんがペコペコと頭を下げてきている。手を振り、アップに集中するよう促す。


ふと、視界の端で動く黒くて大きな彼。


じーっと見られて、怪我してきたのがバレないか心配になる。でも、しばらくしてアップに戻ってくれたので安心した。


「…そ、それじゃあ仁花ちゃん……私は体が痛すぎるので、医務室行ってくるね……。」


「だ、大丈夫ですか!?付き添いましょうか!?」


「大丈夫大丈夫……、皆を見ててくれ……。」


そうふらつきながら仁花ちゃんにお願いした。


気合いで歩いてたからか、シューズを届けた後はふらふらだなぁ……なんとか試合が終わる前までに戻ってきたいんだけどな…。

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