泣きながら先輩達を見送ってから数ヶ月。
私達は3年生となり、新1年生も迎えて練習に励んでいた。
「……苗字さん。」
「うん?……あ、手伝いなら大丈夫だよ、さっき1年生が手伝ってくれてほとんど終わってるから!」
「あの、そうじゃなくて、」
「え?」
ひょっこり、手伝いますか。といつも言う体勢で、少しだけ言いにくそうにしてる影山くん。
どうしたんだ?
「……全国大会終わったら話したいことがあるって。」
「…………………………あ。」
からんからん、ドリンクのボトルを落としてしまう。
「……忘れてましたね?」
落としたボトルを拾い上げ、こちらに差し出しながらもじとーっとした視線を寄越される。
「…………すいません、春高と3年生の卒業とか、色々あって……忘れてました。」
自分でそう言った時は、どうしよう、告白する度胸も無いのに!!と研磨くんに話してたぐらいなのに、なんてこった。
相も変わらず影山くんはかっこいいなぁ、優しいなぁ、モテモテだなぁ。なんて思いながら生きてしまった、まさか影山くんの方から言われるなんて、情けない。
「それで、話ってなんすか。」
「………………また、今度話すよ。」
今すぐ心の準備なんて出来ない。告白なんてそんな気持ちでやってはいけないし出来ない。
「そんな事言ってるうちにまた忘れますよ、今話してください。」
なのに食い下がる影山くん、何故!?
「い、いや!!絶対もう忘れない!だから、また今度にしてもらっても」
「駄目です、今聞きます。」
ひょっこり顔を出していた体育館の扉からちゃんと出てきて、扉も閉めて腕を組んだ。私が話すまで退かないぞ、と言う意志を感じる。
「うっ……な、なんでそんな?」
「……気になるんで、なんか、モヤモヤするんでもう話してください。」
なんじゃそりゃぁ!?ふん、と息を着く影山くんに愕然とする。影山くんからしたら早く話せと言う感じだろうが、私からしたらそんな急に話せと言われて話せる内容じゃない。
「む、無理!!今度にして?ね?」
「嫌です。話すまで退きません。」
やっぱりね!!どうしよう、どうしよう。と焦る。なんと言えば引き下がってくれるだろうか。
「……割と、大事な話ですよね?わざわざ全国大会終わるまで待たせたんだし。」
「うぐっ……。」
「今、話すタイミングじゃないですか?2人しかいないですよ。」
「ぐぅ……。」
「もう話してください、どうせ話してくれるまで退かないんで。」
扉にもたれかかって腕を組んでる影山くん、そんな姿でさえかっこよく見えてしまう。
もう、言ってしまおうか。……影山くんの言う通り今がタイミングなのかもしれない、こんなの誰かに聞かれたら恥ずかしくて死ねるし。
それに、フラれる可能性は大いにある。それでも抑えきれない感情だったから告白するんだ。フラれてもちゃんと選手とマネージャーに戻る、戻らないといけない。
でも誰かに聞かれたら、慰められたりするのも虚しいし、何より部員に広まって気を使われて迷惑かける羽目になりそう。そこまでいってしまったら、流石に部活を辞めたくなるな……。
それを考えれば。と目の前にいる影山くん、そして周囲を見て、誰もいないことを確認する。
「……影山くん。」
「はい。」
ちゃんと影山くんに向き直る。すると話す気が起きた事を感じ取ったのか、影山くんもちゃんと向き直ってくれる。
「………………ふぅ。」
「……?どうしたんすか。」
緊張してきた、断られてもちゃんと笑おう。これだけは守ろう。
「…………影山くん、」
「はい。」
声が震える。
「…………好きです。」
「……………………は?」
空気が揺らぐのを感じる。影山くんの顔を見ることが出来ない。
「私と付き合ってください。」
手先まで震える。あぁ、どんな顔してるのかな。…………またか、って思ってるかな。
「…………苗字さん。」
「…………。」
俯いていた顔を上げて、影山くんを見る。相変わらず涼し気な表情。何を、思っていますか。
「……俺、付き合うって何したら良いのかわかんないっす。」
「……へ?」
「それに、好きって感情もよく分かんねぇです。……それでも、良いっすか。」
「……い、良いっす。」
よくわかんないけど、私だってその辺よく分からない。
好きだなぁと言う気持ちは影山くんを見ていると溢れる。でも付き合うって何する、とかこうあるべき、とかよく分からない。
ただ、隣にいる理由が欲しかった。誰のものにもなって欲しくなかった、それだけなのだ。
「……本当に、俺で良いんすか?」
「………影山くんが良いから、頑張って告白したんだけどなぁ…」
心配そうにこちらを見る影山くん。私はあなたが喉から手が出る程に欲しいから、こうして言葉にしたのに。
「……あざっす、嬉しいっす。……よろしくお願いします。」
ぺこり、頭を下げた影山くん。つまり、……え?
「付き合ってくれるの……!?」
「?はい、俺も苗字さんの事……たぶん、好きだったんで。」
「!!?!?」
空いた口が塞がらない。まさに今の状態の事を言うのだろう。
「全然気づかなかった……。」
「……そっすか、俺もです。」
同じっすね。そう言って笑った影山くん。それにつられて私も笑った。
こうして私達は恋人同士になったのだ、幸せの第1歩。