幸せ

「苗字さん、もう終わりますか?」


「うん、もう終わるよ!」


「……一緒に帰れますか?」


「う、うん!帰れる!」


「そっすか、良かった。」


校門で待ってますね、そう言い残して部室に向かった影山くん。


良かったって。良かったって!!まるで私と帰りたかったかのような口ぶり。嬉しすぎて狂いそう。


交際を始めた私達。しかしこの関係は誰にも話しておらず、2人だけの秘密となっていた。


なのでこうしたお誘いも、基本的には私1人の時ばかり。 2人っきりの時ばかりなのだ。


心做しか、2人だけだと緩んだ表情を見せるようになってきた影山くん。私の心臓が持ちそうに無いぐらいきゅんきゅんさせてくる。


あぁ、幸せ。誰かに話したくもなるが、誰にも話せない。友達ぐらいになら話してしまおうか、と思ったこともあったが、


田中くんやノヤっさんと話す機会も多く、バレる可能性があると踏んで話せていない。


誰にも話せない秘密の恋。ちょっと苦しいけど、それ以上に幸せ。毎日楽しすぎて溶けちゃいそう。


「お待たせ!」


「いえ、帰りましょうか。」


周りに人がいない事を確認して、手を繋いで歩き出す。


今日も暖かくて大きな影山くんの手。やばい、にやけそう。


「……あの、苗字さん。」


「うん?」


「……あの…………。」


「うん??」


どうしたんだ、あー、とかうー、とか声を上げながら考え込んでいる影山くん。


「…………名前で、呼んでもいいっすか。」


「…………へ。」


「…………名前さんって、呼んでもいいっすか。」


名前さん。


影山くんの低くてかっこいい声で、私の名前を呼んだ。


あまりの衝撃に、顔が熱くなる。


「…………い、嫌っすか。」


「い!!……い、…嫌じゃない…っす……。」


顔が熱い、熱すぎる。俯きながらも、返事をした。


「良かった、ありがとうございます。……その、俺のことも呼んで貰えませんか。」


俺の事も。……な、名前で呼んで欲しいって事だよね?


「…………と、飛雄、くん。」


ちらり、隣に立つ背の高い彼を見る。


すると、嬉しそうに口元を緩めている。ほんのり赤くなった頬も可愛らしい。


「あざっす、嬉しいっす。」


目尻を下げて笑った影山くん、可愛い笑顔を至近距離で拝んでしまい、ショートしそうになる。イケメン怖い。


「う、うん。私も嬉しい。」


「あ、でも2人の時だけにしましょう。バレます。」


「あ!そうだった……気をつけないとだ。」


また2人だけの秘密が増えた。ふふふ、と2人で顔を突き合わせて微笑んだ。

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