「名前ー、進路希望書いた?」
「うん、書いたよ。」
「どこに…………って東京!?」
友達が驚き、声を上げる。そんなにおかしいだろうか。
「な、なんで東京!?宮城出るの!?」
「うん、出るよ。……ここの学校に行きたくて。あといつかは上京したいって思ってたし。」
「そー、……なんだぁ…………寂しくなるねぇ。」
「まだ受かるかも分かんないし、卒業だってまだ半年ぐらい先じゃん!」
「とは言え、だよ!!まさか東京行くなんてびっくり。」
私も、自分にしては思い切った決断だったと思う。
もっと広い世界が知りたい。日本の中心を知りたい。そんな気持ちは前々からあった。
宮城に居続けるのも悪くないと思っていたけれど、行動するなら出来るだけ早い方が良いだろう。宮城にはいつかまた戻ってくれば良いし、なんて気持ちで親に相談し、進路希望は東京の大学にした。
飛雄くんには、まだ話していない。
それでも、彼だってあと1年後、どこに行こうとしてるかわからない。彼と一緒にいようとするなら結局宮城を出ることになるかもしれない。
それならせめて、自分がやりたい事を離れる事になったとしても、やり続けたい。
飛雄くんも、私に縛られず自由にバレーボールをやっていて欲しい。
◇
「……だからね、もし受かったら東京に行こうと思ってるんだ。」
「…………東京。」
部活終わり、帰りに寄った公園のベンチでこれからの事を話した。
「離れちゃうけど、…………平気?」
「大丈夫です、……俺だって高校卒業したらどこ行くかわかんねぇし。」
遠距離、頑張りましょう。そう優しく笑ってくれた飛雄くんに、ちょっぴり泣きそうになる。
「ありがとう!!…………飛雄くんは、どこに行っても何にも縛られず、バレーボールを楽しんでね。」
「……?うす。」
「私、バレーやってる飛雄くんが1番大好きだから。」
彼の全てを懸けてきて、最も愛しているバレーボール。
それをプレーしている飛雄くんは、何より活き活きとしていて、綺麗で、胸を鷲掴みにされる。
「……あざっす。」
ふい、と顔を逸らしてしまった飛雄くん、でも耳が赤いので照れているのは丸わかり。
素直に照れてくれるところに、愛おしさを感じて周りに人がいないのを良いことに抱きついた。
「う、うぉっ!?」
「大好きだよ、飛雄くん!!」
「……んなの、俺だって好きです。」
照れながらも気持ちを返してくれる。あぁ、幸せだ。こんなかっこよくて優しくて可愛い彼氏、私には勿体無いぐらい幸せ。
「ありがとう!!」
つい顔がゆるゆるになってしまう、飛雄くんといるといつもこんな顔をしているような気がするな……。
「……名前さん。」
「ん?」
「……手繋いだり、一緒に帰ったり。恋人がやる事っすよね。」
「……だと思うけど…?」
それがどうしたんだろう。
「……もっと、恋人らしいことしていいっすか。」
「もっと?」
「……嫌だったら突き飛ばしてください。」
するりと顔に影山くんの綺麗な手が添えられる。
そのまま優しく上を向かされ、かち合う視線。
今日も綺麗な深い青。吸い込まれちゃいそうだなぁ、なんて考えていると近づく顔。
………………へ?
唇に柔らかい感触。初めての感覚はすぐに離れて、
「…………ご馳走様、でした。」
りんごみたいに赤くなった飛雄くんが目の前にいた。
「………………は、はい。」
「……帰りましょうか。」
「…………は、はい。」
カクカクとぎこちない動きで立ち上がった私達。
どこからどう見てもお互いファーストキス。飛雄くんの唇、柔らかかったなぁ、と思い出せるのはだいぶ先になる。
何故なら暫くは思い出すだけで、脳内がショートしそうになるほどの体験だったから。
お互いの初めてが多すぎて、ゆっくりとしか進めない私達。
でもそれはそれで良いって思った、ゆっくりゆっくりでも、
ずっと一緒にいられるのなら。