「……っくそ、すんません!!」
「ドンマイドンマーイ!!」
「おやぁ?影山くん、スランプですか??」
「あぁ!?」
「怖!!顔怖いぞ!!」
騒がしい日向を追い払い、一息つく。
サーブも、セットアップも絶不調という訳では無い。
でも、絶好調でも無い。……段々と悪くなってきた感じだ。
理由は何となくわかってる、…名前さんと付き合い始めた辺りから、感覚が変わってきた感じがする。
ボールも、練習場所も何も変わってないのに、名前さんが視界にいるだけで、何かが違う。
それだって今まで通りなのに、勝手に体が彼女だと意識してるんだろう。
…………名前さんがすっげぇ好きで、告白されて舞い上がったのは認める。すげぇ嬉しかった。
でもそれはそれ。バレーはバレーだ。部活中はお互いそんなに話さないし、向こうだってマネージャーの仕事で忙しい。
だからわかってる、いつも通りだって。なのに、体の大事な部分が今までと違うって判断しているようで、プレーが段々、ゆっくりゆっくり時間をかけてスランプに陥っているような気がした。
なんとかしねぇと、と出来るだけ視界に入れないようにしたり、オフの日にも練習したりしてみたが、名前さんがいてもいなくても、変わらない。
浮き足立ってんだ俺は、告白されてからずっと舞い上がってて地に足が全然ついてない。
そんな暇ねぇのに。バレーの練習中に別の事考えてる余裕なんてねぇのに。
「……影山くん、大丈夫?」
「…何がっすか?」
帰り道、今日も手を繋ぎ一緒に帰る。
俺よりずっと小さな手。守ってあげたい、ずっと傍にいたくなる優しい笑顔。
あぁ、やっぱりすげぇ好きだ。だからこそ、バレーと両立させたい、どっちも好きだからどっちも諦めたくねぇ。
「最近、イライラしてるみたいで。プレーもミスが目立ってる感じがしたから……。」
お節介だったらごめんね、と付け加える名前さん。お節介なんかじゃねぇ。
「……スランプ、っぽくて。」
「え!?だ、大丈夫……?何かきっかけでもあった……?」
そう心配そうに話す名前さん。言えない、言えるわけない。
バレーやってる俺が1番好きだって言ってくれたのに、自分のせいでバレーが上手く出来なくなったなんて、そんな事言えるわけねぇ。
「……いや、特に無いっす。……練習足りねぇだけかもなんで、もうちょっと様子見てみます。」
「……そっか、無理しないでね?オーバーワーク厳禁!!」
「……はい。」
どっちも大事にしてみせる。バレーも、名前さんも。
◇
「影山。」
コーチに手招きされる、小走りで向かった。
「最近どうした、スランプか?」
「……はい、たぶん。」
「マジか。…………今はまだ良いが、あんまりにも長引くようなら試合にも出せない。焦らなくて良いが、何かやり方や環境を変えてみる努力はしてみてくれ。」
「……………………はい。」
環境。
わかってる、何をしたら良いのかスランプを抜け出せるのか、バレーに向き合えるのかわかってる。
でもそれは、名前さんを傷つけるし、俺だって嫌だ。絶対に嫌だ。
それ以外で、何か考えねぇと。
試合形式での練習が始まった。深呼吸をして、最近どうにも決まりづらいサーブに臨む。
集中して、サーブトスを上げた。…………イマイチ。
西谷さんとは逆側を狙い、打った。しかし、
(私、バレーやってる影山くんが1番大好きだから。)
名前さんの言葉を思い出して、少しだけ泣きそうになる。
俺が打ったボールはラインを超えて、点数にはならなかった。
こんなのでは、こんな俺では、
名前さんに愛される俺が、いなくなってしまう。