愛で殺した

「…………すんません、別れてください。」


意を決して伝えた言葉。


名前さんの目は大きく開かれ、驚いている。


「…………私の事嫌いになったの?」


違う、そんなんじゃない。今でもすげぇ好き、
…………大事にしていきたかった。


「…………私が、バレーの邪魔になったから?」


気づいて、たのか……?


思わず動揺して、言葉が出なくなる。


でも、駄目だ、違うって言わねぇと、名前さんは俺だけじゃなくてバレーまで嫌いになる。


バレーのせいで、俺にフラれたって思ってしまう。それだけは避けたかった。


「……じゃあ、なんなの?……他に好きな子でも出来たとか?」


そんな訳ねぇだろ!!叫びたかった、怒鳴りそうになった。でも、


本当の理由なんて言えないし、納得させないと俺は、俺でなくなる。バレーが出来ない、名前さんが好きな俺はどこにもいなくなる。


そんなのダメだ、と思った時、俺は最低な嘘をついていた。


俺の言葉に、酷く揺れる瞳。


あぁ、傷つけてる。…………傷つけたく無かったのに。……ずっと、ずっと大事にしていたかったのに、


ずっと一緒にいたかったのに。


「…………さようなら、影山くん。」


影山くん、それは俺との決別。


もう飛雄くんと呼んでくれる名前さんはいない。


もう、抱き締められないし、手も繋げない、キスも出来ない。


名前さんの姿が見えなくなって、堪えていた涙が溢れた。


握った拳が痛ぇ。でも、それ以上に心が痛い。辛い、なんで、なんでこんな事に。


大好きだった、付き合う前も優しく笑う名前さんが、大好きだった。


告白されて、ずっと大事にしていきたい、そう思って付き合った。なのに、


俺が未熟だから、彼女と言う存在に翻弄されて、こうして傷つけた。


名前さんが違うヤツと付き合うなんて、想像するだけで苦しい。でも、そうさせたのは俺で、傷つけたのも俺だ。


俺には、もう何も言う資格なんて無い。


もう、名前さんの未来にはいられないんだ。


その権利を自分で捨てた。


その事実に打ちのめされる、でも、こうするしか無かった。


だから、もう俺にはバレーしかねぇ。


涙を拭って、家に帰る。


バレーにだけ向き合おう、もう誰とも付き合ってはいけない。


また誰かを傷つけてしまうし、


優しい笑顔のあの人を思い出してしまうから。

// list //
top