『行ってきたぞー!!お前もまた宮城に帰って来いよ?』
文字と共に送られてきた画像を眺める。
そこには懐かしい面々。当時の烏野高校排球部の姿があった。
その中には影山くんも日向くんもいて。ブラジルから帰国したと言うのは聞いていたが、こんなにも成長して帰ってきたなんて聞いてないなぁ、と苦笑いを浮かべた。
影山くんに関しては、テレビなどで取り上げられることもしばしばある為現状については知っていた。
イケメンバレーボール選手、影山飛雄。今のVリーグはイケメン揃いだと言うのと怪物世代が揃い踏みしている事で、非常に認知度が高まっている。
全国大会で会った宮侑さんや木兎さん、星海さんなどもその中の1人だ。彼らはもう知ってる人ぞ知る有名人へとなったのだ。
そんな彼らが多く所属しているブラックジャッカルとアドラーズの試合がついこの間仙台で行われた。烏野高校の面々は皆向かったらしく、
行かなかった私は田中くんからこうして写真だけ送られて、眺めている。
行かなかったのは、行けなかったんじゃない。行かなかった。自分でそう選んだ。
影山くんにフラれてからは、まぁ、散々な日々だった。
新生活も清々しい気持ちで始められる訳なく。
大学での勉強や、バイトの合間に思い出しては泣き。家事に忙しなく動いていても、ふと、1人になった時に泣いていた。
しかし忙しない日々は段々と影山くんの存在を忘れさせてくれ、
4年になる頃には、良い思い出とまではいかないが、思い出したくはない思い出、ぐらいになった。
けれど、影山くんが私に与えたのは突き放された衝撃と悲しみだけではなくて。
彼が私に与えた沢山の幸福感は全然思い出になってくれず、今も尚テレビや広告で影山くんを見ると、深い悲しみ達の合間からひょっこりと顔を出す。
そしてそれらは私の中で燻り続け、憎みながら、忘れたいと願いながらも、片想いしているような感覚が続いている。
それ故に、私は影山くんと別れてから一度も彼氏を作れなかった。告白されてもびっくりするぐらい揺らがなくて、
こんな気持ちで付き合うのは申し訳ない。そう思って断るまでがワンセット。
そんなこんなで23歳。社会人1年生も半年が経過し、仕事にも職場にも慣れてきた。
仕事と言うのは事務職。私はしがないOLで、日本の中心である東京で勤めている。
大学に進学した際は専門職への就職を夢見たが、中々現実は厳しくて。収入や安定を求めた結果、世の中に大勢いるOLの仲間入りを果たした。
この仕事には特に不満も無い、恐らくこのままだと結婚出来ないであろう私にはぴったりだ、収入も文句無い。
私はこのままのんびり1人で生きていく、たぶん。結婚出来るならしたいし、努力はする予定。
でも、今のままだと出来ないだろう。それならそれでも良い、そう思えるよう1人でも楽しく生きていけるようになる、それが今の目標だ。
◇
『お前ぇ、やっと電話出たな!?』
「ごめんごめん。」
『もう皆と解散しちまったじゃねぇか!!』
「ごめんって!」
田中くんに叱られる、ごめん。あんまり早く出ちゃうと、影山くんの声まで聞かされそうだったから。
皆は今も私達が付き合って、別れたなんて知らない。
だからこそ、仲良くしていた影山くんに私を会わせたがる。優しさが故だ。
それに対して影山くんは嫌がらないのかなんなのか、いつもそうやって田中くんなりスガさんなりに電話をかけられる。
『お前影山と全然会ってないんだろ?』
「え?うん。」
『たまには会いたくならねぇのか?高校生の時仲良かっただろ!』
「うーん……もう離れてだいぶ経つしなぁ。」
『んだよ、意外とドライなんだなお前。』
そのうち俺の事もどうでも良いとか言い出しそうで怖ぇよ、と冗談交じりに言う田中くんには否定する、
全然ドライなんかじゃない。影山くん以外の皆には会いたいよ、でも影山くんとも会うかもしれないから会えない。
「また帰れる時教えるよ、その時また話そう?出来ればノヤっさんと3人で。」
『お!それ良いな!!ノヤっさんにもまた連絡してみる!!』
「うん、……それじゃあまたね。」
『おう!またなー!』
通話を切って、ふぅ、と一息つく。
夜になっても明るい東京の街。宮城から離れられるならどこでも良かった、大学が東京で多少住み慣れてたからここにした、それだけだったのに。
その後影山くんが所属しているアドラーズのホームタウンが東京だと知って、愕然とした。
でもホームタウンでずっと練習する訳でもないだろうし、なんならサブホームタウンは宮城だ、どっちも危険だった。
それに東京はこんなに多くの人が住んでいる、会うことなんて滅多にないだろう、そう思い込んで約4年、影山くんと出会うことは一度も無かった。
きっとこれからももう会うことは無い、会いたくない。
忘れてはいけない、影山くんは私と付き合っていても他の子に目移りした、もしかしたら二股してたかもしれないんだ。
どれだけ今魅力的でも、忘れられなくても、会ってはダメだ。
会ってしまったら今度こそ、影山くんへの片想いから逃げられなくなる。