「おー!遅いぞ苗字!!」
「あ、昨日のマネージャーさん…!」
「おはざっす。」
「お、おはよう…。」
着替えて体育館に行くと既に田中くんと日向くん影山くんが揃っていた。
皆朝から元気そう…、私は欠伸が止まらないと言うのに。
「こいつは苗字名前。うちのマネージャー!2年だ!」
「よ、よろしくお願いします!」
「「おねしゃす!!」」
「とりあえず、苗字はボール出し頼むな!!」
「任された!」
◇
途中からスガさんもやって来て、5人での早朝練。
もうすぐ朝練の時間になってしまいそうだったので、急いで片付ける。
「苗字さん、」
「は、ひゃい!?」
「(ひゃい…?)持ちます、重たいっすよね。」
「だ、大丈夫!!」
立てていたネットを田中くんと片付けようとしていた所、影山くんに話しかけられ、ポールに手を伸ばされる。
「いや、遠慮しないでいいっすよ。」
「え、遠慮してない!!」
「いやでも、」
「だ、大丈夫だよ!!力持ちだから!!」
た、頼む、迫って来ないでくれ!
「っははは!!影山ぁ、そんくらいにしてやれ!」
「……え?」
「ぷぷ、お前嫌われてんじゃねぇの?」
「あぁ!?」
「ち、違うよ日向くん!!」
あらぬ誤解を生む日向くんに声を上げる。
「苗字はなぁ、なんと言うか……男子に対して、重度の人見知りって感じなんだよ!」
なー?とスガさんに肩を組まれる。そうなんです、人見知り。
慣れてしまえばこのように肩を組まれようと動じることはない。しかし、1年生の彼らはほぼ初対面に近い。まだまだ人見知り発動対象だ。
「だからこいつが慣れるまで、あんま距離詰めてやらないでくれるか?」
「た、大変なんすね…。」
「うす!」
理解して、頷いてくれた2人に安堵する。そして私が何も言わずとも説明してくれたスガさんと田中くんにも感謝だ。
「ほら!じゃあさっさと片付けんべ!!」
スガさんの声に再度手を動かす。私を助けようとしてた影山くんの手は行き場を無くして、別の片付けに向かった。
ごめんね、気持ちだけ受け取っておく。ありがとう。
面と向かって話すことすら躊躇ってしまう意気地無し。いつかちゃんと話せるようになったら、沢山お礼を伝えよう。
◇
「ふあぁ……。」
「何?眠そうじゃん、寝るの遅かったの?」
「いや、逆……早起きした。」
「え、なんで?朝練いつも通りでしょ?」
「今日からちょっと……いやかなり早めに来ることになって…。」
「え!?なんでさ!?」
驚きの声を上げるのは友達の友達。中々に勢いがある友達で、人見知り、意気地無し、ビビりな私とは正反対な人だ。
「色々あって新1年生と田中くんの練習に付き合う事になっちゃって……。」
「また田中かよ!!名前も、嫌なら嫌って言わなきゃ駄目だよ!?あいつ、名前が断るの苦手だって知ってんのに!!」
「お、落ち着いて。別に嫌じゃないよ、田中くんも無理やりとかじゃなかったし…。」
この威勢の良さから田中くんとはよく衝突する友達。
2人が揃ってしまった時はハラハラものだ。2人が言い争っても、ノヤっさんはすっごい笑ってるだけだし。
「でも、断れなかったんでしょ?今からでも私が言ってあげようか!?」
「大丈夫だよ!?……それに、その、新1年生の中にかっこいい子もいて、……出来るだけ接して早く慣れたいなーなんて…。」
「………ええええ!!?名前が恋!?」
「こ、声大きい!!辞めてよ!!」
大声でそんなことを言う友達に焦って止める。慌てて周りを見たが、クラスの人達はそんなにこちらを見ていなくて息をついた。
「ご、ごめんごめん!!……でも、まだ会ったばっかりでしょ?……もしかして一目惚れ!?」
「ひっひとめ……!?」
そんなことって本当にあるの?なんて思ったが、最初影山くんを見た時、心臓を掴まれたような。ドクン、と脈打ったような感覚に陥って、気づけば見惚れていた。
性格も好きな物も家族構成も、どこの中学校かさえあんまり知らない影山くん。
でも、たぶん私は。
「……恋しちゃった…かもしれない。」
あなたに一目惚れ、したみたいです。