駅に着き、人や柱の影に隠れながら電車から降りる。
そして佇む大きな人影を横目に、さっさと改札を抜ける。
駅を抜けたところでやっと一息つく、こんな毎日。
………………どうしてこうなった。
影山くんと会った日から、度々影山くんは私の最寄り駅のホームで佇むようになった。
なんとなく思惑はわかる、私ともう一度話そうとしているんだ。
でも、申し訳ないがその願いを叶える訳にはいかない。会ったところで優しい言葉を掛けてあげられる自信はない。
なので私は今日も背が高くて目立っている影山くんを避けて、家路に着くのだ。
◇
「………………うわ!?本当にいた!?」
「…………なんでここにいんだ、お前。」
聞き慣れた声に顔を向けると、こちらを見て驚くマスクを付けた元相棒。
「お前、ここに毎日立ってんのか?」
「……なんで。」
「これ!!見てみろよ!!」
見せられたスマホを覗き込むと、
『影山選手、今日もいる!!毎日毎日眼福です…!!』
『SNSで見て、本物見たさに行ってみたら本当に居た!!完全にプライベートっぽいから話しかけるのは辞めたけど、ファンは1回ぐらい見に行くべき!!』
『今日もいた影山選手。……誰か待ってるのかな、忠犬ハチ公みたい。』
そう書き込まれたSNS。バレてたのか。
周りを見回すと、こちらから目を逸らす人が何人かいて、今もチラチラ見られてたのか。と今更ながらに気づく。
「お前ここで何してんだよ?ファンの人達が気を使ってくれてるから良いものの、騒ぎにでもなってたらやばかったぞ?」
「……そうだな。」
「そうだなって!?とりあえず移動するぞ。」
「ん。……そういやなんでお前ここにいんだ、大阪にいるんじゃねぇのか?」
「今日はオフ!!先週ぐらいからSNSでお前のこと書かれてんの見つけてて、今日見に行ってやろうと思って来た!!」
にしし、と笑う日向にムカつく。完全にからかってやがる。
駅の近くの喫茶店に入り、向かい合う。
「で?何してたんだよ。」
なんと言えば良いのか。名前さんを待っていた、探していた。それが正解なのだが、日向からしたら何故俺が探しているのかわからない。
俺達のことは誰にも話してない、付き合ったことも別れたことも。
「…………言わねぇ。」
「はい!?心配してわざわざ大阪から来てくれた元相棒に言う台詞がそれですか!?」
「頼んでねぇよ。」
「んぐぐぐぐ…………影山くん、そんなんだから友達いないんだぞ。」
「あ?余計なお世話だ。」
「いいから話してみろよー、お前のことだから相談出来る人もいねぇんだろ?」
「別に、チームメイトがいる。」
「ぐぬ、確かに。……でも俺の方がちょっとだけお前について詳しいと思うんだけど?相談相手になってやれると思うんだけど?」
「そんな事ねぇよ。」
「ひど!?」
ぶつくさと目の前で文句垂れるオレンジ頭。
……こいつになら、話してみても良いかもしれない。
別に信頼とかある訳でもないし信用だってしてない。そう言う関係ではない。
でも、こいつに話したところで話が拗れるとか、…とにかく悪い方向には向かわないと思った。
こいつは人付き合い得意だし、気を使って、勝手にペラペラと人に話すような事はしないだろう。
「……おい、」
「ん?」
「今から話す事は、誰にも話すな。話したら例え日本代表になったとしてもトス上げねぇ。」
「いや、リスクデカすぎじゃねぇ!?……わ、わかった。なんだ?」
俺は意を決して高校生の時の話をした。俺と、名前さんの話。
そして今避けられ続け、この間やっと話すことが出来たのに、突き放されたこと、また話したくて探していること。
それらを聞いた日向は、
「……………………最低だな、お前。」
「あぁ!?」
げんなりとした顔でそう言い放った。何がだ!!
「嘘つくにしてもさぁ……もうちょっとマシな嘘つけよな……遠距離恋愛が出来る気がしなかったとかさ……俺では釣り合わないと思ったとかさ……。」
「……ぐぬん。」
「他に好きな子が出来たは最低だぞ、……苗字さん傷ついただろうなぁ、だってめっちゃ上手くいってた時にそう言ってフッたんだろ?」
「……おう。」
「うっわ、キッツ!!そりゃもう会いたくないし話したくもなくなるべよ…。」
「……んな事わかってる、それを、どうしたら良いのか相談するためにわざわざ話してやったんだろうが!!」
「なんで上から目線なんだよお前!?」
そんなの態度を見ればすぐわかる、試合にも来ない、烏野高校の集まりにも来ない、会っても徹底的に突き放された。
俺は話したくて仕方が無いのに、あの日のことをあの時の事を話したくて仕方ないのに、名前さんには話すことなんて無いと全く聞いて貰えない。
「…………もう1回やり直すしかないんじゃねぇの?」
「やり直すってなんだ。」
「もう1回友達からって言うか、ただの先輩と後輩からやり直すって事。」
「……話して貰えねぇのにどうやって。」
「それはもう粘り強く話しかけて根負けするのを待つしかねぇな!!」
「…………それを、今日まで、やってたんだろうが!!」
「……あ、確かに。」
駄目だ、こいつに話しても全然駄目だった。
「クソっ……。」
無駄に秘密にしてたことをバラしただけだった。
2人だけの、秘密だったのに。
「あー…………それならさ、明日俺も一緒に探してやろうか?」
「……?お前がいてなんになるんだ。」
「いや、言い方な!?…お前だと避けられても、俺が話しかけたらたぶん反応してくれるんじゃねぇかな?と。そんでお前も一緒にいれば苗字さんと話せるんじゃね?」
「………………確かに。」
「だろー!?」
「お前明日もオフなのか。」
「おう!!本当は今日帰るつもりだったけど、可哀想な影山くんを助ける為にもう一日いてやるよ!」
「………………おう。」
「なんだね、その間は。あ、あと今日泊めてくれよ!」
「……ん。」
日向に力を借りるのは少し、いやだいぶ悔しいが仕方が無い。
とにかく話を聞いてもらえる所まで行きたい。また付き合いたいとか、そんな事は言わないから。
せめてまた会えるような、話せるような関係に戻りたい。
……それは、難しいことなのだろうか。