うわ……今日もいる……。
SNSとか見ないのだろうか、有名人なのに。
影山くんがこのホームで待ち続けてるのはファン達の間で密かに広まり、気づけば聖地扱いになっていた。
それもそうか、毎日いるんだもんなぁ。本人に会えるんだし。
しかしながら訓練されたファン達なのか、恐らく誰も話しかけていない。プライベートは邪魔しない、という事だろうか。
そのためか、影山くんはそんな風にSNSで拡散されてるだなんて知らなさそう。
私を探しているのはわかる、わかるけど、話してあげる義理は無いし。そう思い、今日も胸のチクチクという痛みには気付かぬフリして改札へと向かった、
はずだった。
「あれ!!苗字さん?」
聞き覚えのある声、多少低くなっているようにも感じるが、たぶん、知ってる人。
ギギギ……と音を立てるように振り返ると、にぱーっ!と名に恥じぬほど眩しい笑顔。
「ひ、……日向くん……。」
「お久しぶりです!!いつぶりですか!?苗字さん達が引退した時ぶり!?」
「う、あ、そ、そうだね……。」
あああああ、いる、いるよ、後ろに、頑張って避けてきた巨人が!!
「本当、久しぶりっすね!!影山もいるんで3人で飯とかどうっすか!?」
「うっ……わ、私は、ちょっと、用事が……。」
目を合わせてはいけない、お前、何日もわざと俺を避けてただろ。って目をされてる、気がする。
「えー!!マジっすか…………俺、明日には大阪戻らないといけなくて……。」
うっ!!!
しゅん、と落ち込んでしまった日向くん。途端に罪悪感が芽生え始める。
日向くんには申し訳ないが、ここはやはり………………いや、無理だ!!こんなしょんぼりしてる日向くん無視できない!!
「…………行こっか、ご飯。」
「「え!?」」
その言葉に影山くんまで声を上げる。
「マジっすか!!あざっす!!どこにします?とりあえずホーム出ましょうか!!」
ご飯に行くと言った途端にぱぁぁ!!と明るくなった日向くん、あれ?なんかしたたか??
◇
「ん!!美味い!!」
結局私のオススメした和食屋さんへやって来た我々。
もっと高級なものばかり食べている、と思っていた彼らの口にも合っていたようで安心する。
「お口に合って良かったよ……。」
「………………。」
上手く話せない私達、まぁ当たり前だし、日向くんもいるし。
「苗字さんはいつからこっちいるんすか?」
「高校卒業してすぐ。…実は、こっちの大学に進学してたんだ。」
「そうだったんすか!?知らなかった!!」
「だよね、あんまり人にも話してなかったし。」
久しぶりに話す日向くんは、見た目こそ大きくなりアスリートなんだなぁ、と感じる部分も増えたが、中身は大きく変わっておらずコロコロと表情を変えている。
「……トイレ行ってきます。」
「あ、行ってらっしゃい。」
「あ!俺も!!すんません、1人にしちゃいますけど、」
「全然大丈夫!行ってらっしゃい」
御手洗に席を立った二人。するとその時香った匂いに違和感を感じる。
立ち上がるという動作から香った匂い、しかしそれは2人とも同じ匂いで。
バッと日向くんを振り返ると、心做しか大きめの服。
……………………え?
もしかして、…………いや、でもその推測はちょっと…………いやでも、そういうのは個人の自由というか、なんと言うか…………。
あの時の好きな人が出来た、と言うのはもしかして、と今まで想像しなかった方向へ考え出す。
他の人に目移りっていうか、彼の場合見ないとセットアップ出来ないというか、仕方ないというか。
いや、仕方なくは無い。うん、でも、日向くんなら…………まだ許せないこともないかもしれない。うん。
だって普通に考えて2年?だよね?会わなかったのって。それで帰ってきて泊まるほど……とか服貸すほど仲良いって、その間も連絡取り合ってたって事だよね?
まぁ連絡取り合う、家に泊めるまでは高校の時の同級生として……だとしても、今現在彼らは大阪と東京で離れて暮らしてるはず。
それをわざわざこっちに来てまで……?え?彼女では…?
落ち着け、落ち着け。別に軽蔑なんてしないし、そういうのは自由だ、個人の自由。
ちょっとびっくりしただけ、うん、そう。…………彼らが戻ってきたらちゃんと確認してみようかな、考えれば考えるほど私の推測は当たっているような気がするし。
当たっていたら、ちゃんと幸せを願ってあげよう。先輩としてね、嫉妬なんて醜いものじゃなくてね。
「すいません!お待たせしました!」
「ううん、全然。」
戻ってきた2人。思い立ったら即行動、私は彼らが何かを言い出す前に、
「……ねぇ、2人はその、……付き合ってるの?」
そう、聞いてみた。大丈夫、引いたりとか何もしないから。恐る恐ると言った感じではなく、軽い感じで聞くのを意識してみた。
しかし、
「「はぁ!?!?」」
返ってきたのは困惑する大声。あれ?
「違った?」
「そんっっっっな訳無いじゃないっすか!?」
「……気持ち悪。」
「おい!?!?俺だってそうだからな!?!?」
あれ、推測は外れてしまったようだ。
「な、なんでそんな事……!?」
そう聞かれて答えようとするが、影山くんとの事を話さないといけなくなりそうで、言い淀んでしまう。
「えっと……。」
「…………もしかして、影山との事ですか?高校卒業した時の。」
「え。」
言いづらそうにそんな事を言う日向くんに固まる。
「……すんません、話しました。」
「え!?」
そしてごめんなさい、と頭を下げた影山くんに声を上げた。なんで!?
「こいつがあんまりにも苗字さんと話せなくて落ち込んでて、……その、俺なら話聞いてくれるかなぁと。それで今日は駅でわざと待ってました。」
すいません!!と言う日向くん、確かにタイミングばっちり過ぎたもんなぁ。
「それで、なんで俺達が……その、そんな関係だと?」
「……影山くんにフラれて、他の子に目移りしたって言われて。……でもそんな暇どこにも無かったんじゃないかとか、私と上手くいってたのにとか思ってしまって。……それで日向くんなら、目に入るのが当たり前で見てるのも当たり前だから、……その、忙しくても目移りしたのかなと。」
小さく縮こまりながらそんな事を言うと、
「ほら!!もう!!お前が変な嘘つくから!!」
そう言って激昂する日向くん、嘘?
「っそれを、今から説明すんだろうが!!」
説明?
「何の話?」
「…………影山からちゃんと話します、今から話す事は信用出来ないかもしれないっすけど、嘘じゃないって俺が保証します。」
至って真面目な顔をする日向くん、え?そんな大事な話なの?
「は、はい。」
「……言うのが、説明するのが遅くなってすんません。……俺、名前さんに嘘吐きました。」
「え?」
それから影山くんが話したのは、私が負った傷全てを否定するもので。
全てを信じる事は出来ない、でも少なくとも嘘をついていないと言うのは日向くんの表情から読み取れた。
……日向くんがいなかったら、私は影山くんを平手打ちしていたかもしれない。
馬鹿にしないで、と。元カノなら簡単により戻せると思わないで、と。
しかしそんなつもりは彼には無くて、許しを乞う訳でもなく、ただただあの頃の不器用な自分の過ちを知って欲しい、そんな気持ちが見て取れた。
「…………本当に、すいませんでした。酷い傷つけ方して。」
「……本当だよ。」
「すいません。許してもらおうなんて思ってません。」
唇を噛み締めて、懸命に伝えてくる彼に私は怒りを感じなかった。
「…………うん、でも、許すよ。」
「「えっ。」」
驚く2人。なんで日向くんまで、と笑ってしまう。
「だ、だって影山最低な嘘ついたじゃないっすか!」
「うん、……でも、こうして本当のこと話してくれたし、……本当に目移りした訳じゃないって知れたから、それだけでも良かった。」
その事実だけで、あの頃泣き叫んでいた私も救われる。
「……じゃあ、また話しても良いっすか?」
「え?」
ぽつり、零れた言葉に聞き返す。
「連絡先聞いたり、会ったり、話したり、飯行ったり。……誘っても良いっすか?」
なんとも言えない表情、でも、ちょっとだけ泣きそうにも見える影山くん。
「……うん、良いよ。また、仲良くしよう?」
あの頃のような距離感には戻れない。わかってる、影山くんだって今はそんな気持ち無いだろうし。
ただ、先輩として、後輩として良い関係を取り戻したい。その気持ちには賛同だ。
……私も、この片想いにはいい加減蓋をしなくては。
「…………はい!!」
笑う影山くん、やっと見れた笑顔に少しだけ胸がときめく。
しぶとい恋心に苦笑いしながらも、彼の笑顔につられて笑う。
「お?おー!!じゃあ、仲直りっすね!?」
日向くんの言葉に深く頷く。
「うん、仲直り!!」