『次いつ空いてますか。』
『名前さんに合わせます。』
『仕事終わり、迎えに行ってもいいっすか。』
この恋心に蓋をしなければ、そう思ったのにその片想いの相手から来るメッセージに熱くなった顔を覆う。
影山くん……めっちゃ私と会いたがるじゃん…………!!!
つい悶える。機械系が苦手だと聞いた影山くん。きっと懸命にスマホとにらめっこして文字を紡いでくれているんだろう、可愛すぎて辛い。
彼も彼で忙しいだろうに、合間を縫って話せなかった時間を埋めるように、メッセージを送ってくれるあたり嬉しくなる。
でも自惚れちゃ駄目だ。フラれたのはスランプのせいだとは言え、フラれたのは私。
もう一度付き合うなんてもう有り得ないんだから。また同じことを繰り返す訳にはいかないんだから。
無駄に期待なんかしちゃダメだ。そう自分に言い聞かせながらも、影山くんと会う次の予定を考えるだけでにまにましてしまう。
もういっその事この恋をめいいっぱい楽しんでしまおうか。どうせ私だって忘れられないんだし、彼だってきっともう彼女を作らない。終わりの無い恋。
それはそれで良いかも、なんて思ってしまうぐらいには影山くんにメロメロな私なのである。
◇
「影山くん!」
「名前さん。」
帽子を深く被った影山くん。もうあの頃のように堂々と…………いや、あの頃も堂々と隣を歩くことは無かったな、皆に隠してたし。
とにかく、ただの高校生だった影山くんとは違って、今や日本代表。世界と戦う影山選手なのだ。
…………影山選手、なんだよなぁ。
隣を歩く高いところにある顔を覗き見て、……夢じゃないだろうな、と頬を抓ってみる。
「……痛い。」
「え?」
「あ、いや、なんでもない。」
不思議そうな顔をする影山くんに笑顔を向けて、ヒリヒリと痛む頬を抑えた。現実なんだ、大人になった影山くんの隣にいること、ちゃんと仲直り出来たこと。
◇
「……それで、牛島さんは俺のセットアップに対して…………?…どうかしました?」
「え?」
ご飯を食べながら楽しそうに話す影山くんを眺めていると、突如首をこてん、と横に倒した。どうしたの?
「笑ってます、なんか面白かったっすか?」
「え!?……あー……なんだろう、なんと言うか……影山くん話すの得意になったよね。」
「えっ。」
高校生の時は上手くコミュニケーションが取れなかった印象の方が強い。私と2人になっても、話せないほどでは無いが、どちらかと言うと私の方がお喋りだった。
それが今やどうだ、私がたまにあいずちを打つ程度で、彼は楽しそうに話し続けてる。まぁバレーの話だけども。
その成長が微笑ましくて、にやけてしまったのかもしれない。
「高校生の時と比べるとよく話すし、よく笑うようになった。」
私と離れてからの時間は、彼を優しくまあるい人に変えたようで、
どんな人たちと過ごしたのか、どれだけ有意義な時間を過ごせたのか。想像するのは楽しいが、ちょっぴり寂しくもなった。
「そんな事気にしたことも無かったです。……言われたことも無かったし。」
「それは今一緒に過ごしてるのが、高校生の時の影山くんをよく知らない人達だからじゃない?私はよく知ってるから比べると、びっくりする。」
本当に変わった。なんとも、モテそうな人にもなった気がする。
元々モテモテだったが、この容姿に加えてコミュニケーション能力までついてきた。もう無敵なのでは?
「……彼女とか、いないの?」
気になって、聞いてみた。別にいた所で動揺なんてしない。絶対にしないよ。うん。
「……いません。名前さんと別れてから一度も作ってません。」
「……そっかぁ。……それも、そうだよね。…………バレーの邪魔になるし。」
ちょっとだけほっとしながらも、彼が彼女を作らない理由を知っているからこそ納得する。
「……それもありますけど…。」
むっ、と突き出す唇。何か言いたげな表情。理由はそれだけじゃないの?
「………………忘れられませんでした。」
誰のこと、なんて言うのは野暮で。
その言葉は私の心臓にきゅん、と優しく突き刺さった。
「もう1回なんて言いません、……言えません。でも、この関係でも充分嬉しいです。」
一瞬寂しそうに揺れた瞳はすぐに弧を描き、嬉しそうに笑って見せた。
そろそろ出ましょうか、と身支度を整え始める影山くん。
もう1回なんて言いません、そう君は言ったけれど、
そんな君は、私はもう1回があっても良いと思ってるなんて、考えもしてないんだろうな。