「……あれ?」
時刻は20時。気づけば1時間もここで待っている。
約束は19時だったのに、来ない彼。
スマホを開くが特に連絡は無し。何か急用でも入ったのかな?
それなら電話はまずいかもしれない、うーん……。と悩んで、私は家に帰った。
◇
月に数回ご飯に行く距離感へと落ち着いた私達。
大体は平日の夜で、2時間程度時間を共にして帰る。
今日も私が定時で帰れそうというのもあり、会おうとしてたのだが待ちぼうけをくらってしまった。
家に帰って、化粧を落としてお風呂に入って21時半。
スマホを開くが、通知は何も無くて。
ドタキャンかなぁ、……私と会うの嫌になっちゃったかなぁ。冷蔵庫から取り出したお酒達を机に置きつつ、真っ暗なスマホを眺める。
そんな私は、暗い方向へと思考が動くのも止められなくて。
終わらない恋なんて、無いんだよ結局ぅ……と嘆きながらプシュッと音を立ててお酒に溺れた。
◇
ズキズキと痛む頭。目をゆっくり開くと散乱したリビング。
うわぁ……飲んでそのまま寝てしまった……。
いい大人なのに情けない。と頭を抱える。
そう言えばあの後、影山くんからメッセージは来ただろうか。リビングに放ってあったスマホを拾って、通知を確認する。
しかし、彼からのメッセージは無くて。きゅ。と胸が詰まった。
……やっぱり、終わらない恋なんて無いんだなぁ。
突然来た終わりに、心の準備なんてできてる訳もなく。
私の頭の中には、楽しそうに笑う影山くんの笑顔ばかりがぐるぐると巡った。
◇
「………………ってぇ……。」
ズキズキと痛む頭。だるくて仕方が無い体を起こすと知らない部屋。
…………いや、知ってる。ぐるり、部屋を見渡すと3人ほど俺と同じように床で寝てる。
はぁ、また逃げられなかった。侑さんと黒尾さんが一緒になって来ると、中々しぶとくて。
そこに日向まで加わって、なんで行かねーのなんでなんで。
昨日はあまりにもしつこいから1杯だけ、1杯飲んだら抜けますから。そう言ってついて行ったんだっけな。
そんで1杯飲んだから抜けます、って言っても全然聞いてくれなくて、話が違いますよって言っても俺の服が伸びるぐらい離してくれなくて。
どうせデートにでも行くんだろ?離せるもんかぁ!!って侑さんがずっと言ってて、デートとかじゃ、って…………。
………………………………は?
慌ててスマホを取り出す。もしかして、俺は、とんでもない事を、
名前さんとのトークルーム。じゃあ明日19時で!そう来ていたのは一昨日。
一昨日の明日は、……………………昨日。
昨日の19時、俺は名前さんと約束してたのに。
やらかした……………………っ!!!ゴン、と机に頭を打つ。少し痛かったが、それどころでは無い。
酔うまでは覚えてたのに、絶対抜けるって決め込んでたのに。気づけば記憶も曖昧で、寝落ちしてた。
最っ悪だ……、しかもトークルームを見ても名前さんからの連絡は1つもなかった。
怒ってる、呆れられた、悲しませた、どれだとしても謝らないと、とにかく謝らねぇと……!!
震える手で通話マークをタップする、ドッドッドッと心臓の音がうるさい、緊張してる。すっげぇ。
もう会わないって言われてもおかしくない、そもそも俺が離れたくなくて、もう話せない距離に戻りたくなくて縋り着いたのに。
俺は本当になんてことを………………。
『も、もしもし!』
「………………名前さん。」
……良かった、出てくれた。電話にも出て貰えなかったらどうしようかと思った。
『え、あ、うん。…………あ、昨日のこと』
「……っっすんませんっした!!!」
『えっ!?あ、う、うん!!』
「うるせぇよかげやまぁ……。」
「どーしたん、朝から…………飛雄くん元気やなぁ……。」
「………………ふがっ……。」
「き、昨日行くつもりでした、本当に。忘れてたとかじゃなくて、でも、違うチームの人とか、バレー協会の人とかに飲みに誘われて…………1杯付き合ったらそっち行こうと思ってたんすけど、しつこくて、」
「…………侑さん、しつこいって言われてますよ。」
「ん??なんで俺だけ??翔陽くんもかなり食い下がっとったやん?」
「…………ふあぁ。」
「あ、いや、絶対俺より翔陽くんより黒尾さんの方がしつこかったわ、うん。」
「…………なんで寝起き早々ディスられてんの?俺。」
「そ、そんで、飲みすぎて、寝落ちして…………今起きました。ほ、本当にすんませんっした!!」
ちょっとだけ声も震えた。許して貰えなかったら、また離れていってしまったら、そう考えただけで怖くて震えた。
『え、あ……そうだったんだ。……良かったぁ。』
「…………?よ、良かったって、何が、」
『あ……え、えっと…………影山くん、もう私と会うの嫌になっちゃったのかなって。』
それでドタキャンされたのかと。そう続けた名前さんに、胸が痛くなった。
なんで、そんな悲しいこと言うんすか。
「……そんな訳、ありません。いつでも会いたいです、いつでも…………今だって、すげぇ会いたい。ちゃんと会って謝りたいです。」
『えっ……。』
「…………え?飛雄くんめっちゃ口説いてへん?」
「口説いてますね、……頑張れ影山!!」
「と言うか電話相手どなた?」
「それな。」
「たぶん、苗字さんですよ!」
「誰??」
「苗字………………あぁ!!烏野のマネージャー!研磨が仲良かった子か!!」
「そうです!!」
「誰??」
「…………今から、会いに行っちゃ駄目ですか。」
『え、えっと…………。』
名前さんの困った顔が目に浮かぶ。でも、困らせてでも会いたい。俺はもう彼氏じゃねぇから抱き締めるのも、キスも出来ねぇけど、ただ会って話すだけでも良いからしたい。
『い、……いいよ。……どこで会う?』
「いいんすか……!?あざっす!!どこでも行きます、合わせます。なんなら名前さんの家でも、」
『い、家は流石に……!!』
口走った欲に、ストップがかけられる。
…………そうだよな、付き合ってる訳じゃねぇし。
家に上げるほどの信頼なんて俺にはもう無い。
「……すんません、調子に乗りました。」
『い、いや、全然大丈夫だよ…………家の近所の喫茶店とかどうかな?』
「どこでも大丈夫です、行きます。」
『じゃ、じゃあ、住所送るね。……準備したら向かっておくから、焦らなくて良いから来て。』
「わかりました、…………あざっす。」
再度俺と会ってくれることに礼を言って、通話を切る。
「あ、おーい影山ぁ。電話終わったかー?朝飯どうす」
「いらねぇ、もう行く。」
「は?どこに。」
「名前さんと会ってくる。」
「今から!?急だなぁ。」
「ん。…………黒尾さん、お邪魔しました。」
「ん?おぉ、いーよー。また飲もうな?影山選手。」
「……………………っす。」
「ほな、飛雄くんまたなぁ。」
「っす、失礼します。」
先輩方にも頭を下げて、家を出る。
名前さんは怒ってなかったけれど、俺がどんだけ大事に思ってるか伝わってなくてムシャクシャした。
………………大事に思ってるつもりだったのに、すっぽかしたのは俺なんだけど。
こんな自分を1番自分が許せなくて、いても立ってもいられず待ち合わせ場所に向かって走り出した。