真っ黒な仲間たち

「苗字さん。」


「っ!!!」


「あ、…すんません。これ、落としましたよ。」


早朝練の後、背後から影山くんに話しかけられてビビり上がる。


しかし、影山くんは少しだけ離れて謝り、手に持ったシャーペンを差し出した。


それはいつも私が部活に持って行っている愛用のシャーペンで。落としたことにさえ気づいていなかった。


「あ、ありがとう。落としてたんだ…。」


「ついさっき落としてましたよ。」


「全然気づかなかったや…。」


「……おぉ、苗字がまともに影山と会話しとる。」


「え、マジっすか。……本当だ。段々慣れてきたみたいっすね!!」


「だな!日向も早く慣れると良いんだけど、」


「苗字さああん!!!」


「!!?!?」


「!?逃げないでください!!俺とも話しましょう!!」


「……あんな感じで急に現れるもんだから、そりゃ慣れねぇよな。」


「あっはっは!!日向の方はまだ時間かかりそうっすね!!」




そしてやって来た土曜日。


バチバチと火花を散らせる2チーム。特に影山くんと月島くん。


2人とも高身長のイケメンさんなので、顰めっ面がかなり怖い。美人が怒ると怖いって本当なんだ…。


じゃあ潔子さんも怒ったら、すこぶる怖いのかな…。


今まで怒ったところを見たことがない、今日も素晴らしく美人な潔子さんを見る。


「…?どうかした?」


「……今日も眩しいっす。」


「?」


美人だし、優しいし、怒らないし、笑うと可愛いし、仕事も早いし。


どうしたらこんな素晴らしい人になれるんだ…?そしてこんなに近くで見ているのに、同じ仕事をしているのに、どうしてここまで格差が…?


「苗字さん。」


「ぎゃあ!?」


「ぎゃあって…。」


「ぎゃあってお前!!」


「なんか踏み潰されたみたいな声でしたね!?」


影山くんに呆れられ、田中くんには涙が出るほど笑われ、日向くんには心配される。三者三様の反応をありがとう。


「練習付き合ってくれてあざっした。」


「今日、必ず勝つんで見ててください!」


大地さんに聞こえないよう、小声でそう話してくれる1年コンビに、ここまで仲良くなれた喜びと2人が仲良くしてくれている嬉しさからうるっと来てしまう。


「うん、…頑張って、応援してる!!」


そんな涙は飲み込んで、頷きコートに向かう彼らを見送った。





結果は、日向くん影山くんチームの勝利!嬉しくて、つい飛び上がって喜んでしまった。


「清水ー、あれ届いてるか?」


あれ、……あぁ!!


「私取ってきます!」


「ありがとう、お願い。」


ダンボールを持ってきて、体育館に再度入る。


「…?重たくないっすか。」


「ふふ、大丈夫だよ、ありがとう。」


何が入ってるかなんてわからない影山くんが、早朝練の名残で荷物を持ってくれようとする。


でも大丈夫。全然重たくないから。


やって来た日向くんにも見守られながらダンボールを開封して、中に入っていたものを4人に手渡す。


烏野高校排球部。そう印字された真っ黒なジャージ。


今日、この日。この瞬間。彼らは私たちの仲間となった。

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