「苗字さん。」
「っ!!!」
「あ、…すんません。これ、落としましたよ。」
早朝練の後、背後から影山くんに話しかけられてビビり上がる。
しかし、影山くんは少しだけ離れて謝り、手に持ったシャーペンを差し出した。
それはいつも私が部活に持って行っている愛用のシャーペンで。落としたことにさえ気づいていなかった。
「あ、ありがとう。落としてたんだ…。」
「ついさっき落としてましたよ。」
「全然気づかなかったや…。」
「……おぉ、苗字がまともに影山と会話しとる。」
「え、マジっすか。……本当だ。段々慣れてきたみたいっすね!!」
「だな!日向も早く慣れると良いんだけど、」
「苗字さああん!!!」
「!!?!?」
「!?逃げないでください!!俺とも話しましょう!!」
「……あんな感じで急に現れるもんだから、そりゃ慣れねぇよな。」
「あっはっは!!日向の方はまだ時間かかりそうっすね!!」
◇
そしてやって来た土曜日。
バチバチと火花を散らせる2チーム。特に影山くんと月島くん。
2人とも高身長のイケメンさんなので、顰めっ面がかなり怖い。美人が怒ると怖いって本当なんだ…。
じゃあ潔子さんも怒ったら、すこぶる怖いのかな…。
今まで怒ったところを見たことがない、今日も素晴らしく美人な潔子さんを見る。
「…?どうかした?」
「……今日も眩しいっす。」
「?」
美人だし、優しいし、怒らないし、笑うと可愛いし、仕事も早いし。
どうしたらこんな素晴らしい人になれるんだ…?そしてこんなに近くで見ているのに、同じ仕事をしているのに、どうしてここまで格差が…?
「苗字さん。」
「ぎゃあ!?」
「ぎゃあって…。」
「ぎゃあってお前!!」
「なんか踏み潰されたみたいな声でしたね!?」
影山くんに呆れられ、田中くんには涙が出るほど笑われ、日向くんには心配される。三者三様の反応をありがとう。
「練習付き合ってくれてあざっした。」
「今日、必ず勝つんで見ててください!」
大地さんに聞こえないよう、小声でそう話してくれる1年コンビに、ここまで仲良くなれた喜びと2人が仲良くしてくれている嬉しさからうるっと来てしまう。
「うん、…頑張って、応援してる!!」
そんな涙は飲み込んで、頷きコートに向かう彼らを見送った。
◇
結果は、日向くん影山くんチームの勝利!嬉しくて、つい飛び上がって喜んでしまった。
「清水ー、あれ届いてるか?」
あれ、……あぁ!!
「私取ってきます!」
「ありがとう、お願い。」
ダンボールを持ってきて、体育館に再度入る。
「…?重たくないっすか。」
「ふふ、大丈夫だよ、ありがとう。」
何が入ってるかなんてわからない影山くんが、早朝練の名残で荷物を持ってくれようとする。
でも大丈夫。全然重たくないから。
やって来た日向くんにも見守られながらダンボールを開封して、中に入っていたものを4人に手渡す。
烏野高校排球部。そう印字された真っ黒なジャージ。
今日、この日。この瞬間。彼らは私たちの仲間となった。