教えてください、思考回路

「青葉城西…。」


確か、強豪校。…ぐらいにしか知らない。


「……強豪の北川第一中学のバレー部ほとんどが進学する高校ですよ。ちなみに王様もそこの出身。」


「!!そ、そうなんだ…。」


練習試合の日程表を見ながら、首を傾げていたのを見られたのだろうか。


気づけば後ろに立っていた月島くんが解説してくれた。有難いけどびっくり。


「苗字さんって、あんまりバレーの事知らないんですか?」


「…うん、高校になってから初めて関わったし、ルールもちゃんと覚えた。」


「えぇ!……男子が苦手って聞きましたけど、なんでマネージャーを?」


「それ僕も気になってた。」


山口くんと月島くんに迫られ、あの日の惨劇を話す。


まるで話を聞いていない2人組。そして首を横に振れない私による惨劇を。


「うわぁ……。」


「……ご愁傷様です。」


憐れむような目線を送ってくれる2人に1つ頷く。もういいの、もう諦めたから…。





青葉城西高校に到着して、皆はアップを始めた。


潔子さんは記録の為、皆の元にいる。そして私は水道を探し求めて歩いていた。


広い体育館。それ故にどこに何があるのか全然わからない。ドリンクを作りたいのに、どこにいるんだ水道!


「あの、大丈夫ですか?」


「えっ…?」


振り返るとにこやかな笑顔を浮かべた、青葉城西のジャージを着た人物。


相手の選手だろうか、アップはもう済んでいるのかな。


「何か探してます?」


「あーえっと……水道ってどちらでしょうか?」


「あぁ!それならこっちですよ。」


案内された方についていくとやっと見つけた水道。


「ありがとうございます!助かりました。」


「いえいえ。……烏野のマネージャーですか?」


「え?あ、はい。」


「俺、2年の矢巾って言います。あなたは?」


「えっと…2年の苗字ですが…。」


なんか、この人は、あれだ。怖い人だ。


「苗字さん!タメなんだ!…ね、良かったら連絡先交換しない?」


なんで!?


こういう人は、あれだ。フットワークの軽い人。フッ軽な人だ!!


友達にも田中くんやノヤっさんにも言われた。いくら断るのが苦手でも、こういう人には気をつけなさいって。


「い、いやそれは……と言うか何故…。」


「何故って…苗字さん可愛いから。また会えたらなーって!」


にこぉ。笑ってる、笑ってるのに怖いよ!!こういった人物の心理が全然分からない。可愛いって、可愛いって言うのは潔子さんみたいな!!人!!


「いや……ちょっと……。」


「駄目?もしかして彼氏いるの?」


「いませんけど……。」


あ、嘘でもいますって言っておけば良かった。と思ってももう遅い、それなら良いじゃん!と腕を掴まれ逃げ道を絶たれた。


早く私も戻らないとだし、この人だって戻らないと困るのに。


もう面倒だから教えてしまおうか。そんな思考に変わってきた時、


「……苗字さん!!」


「か、影山くん!?」


「……げっ。」


「探しました。こんな所いたんすね。………?知り合いっすか?」


「いや、全然、違う。」


「…それじゃあ僕はこれで。」


にこぉ。と最後まで笑顔を浮かべた矢巾くん。怖かったぁ……。


ふぅぅぅ……。と息をついている私を見てこてん、と首を傾げている影山くん。ちょっと可愛い。


「どうしたんすか。」


「……ちょっと、絡まれてと言うかなんと言うか…。」


「?」


「とにかく助かった。ありがとう!」


「……?うす。戻りましょう、清水さんも探してましたよ。」


「え!?は、早く戻ろう!」


「はい。荷物持ちます。」


「いや!!今から試合の人にそんな!」


「そんな軟弱じゃないっす。ほら貸して下さい。」


するりと私が持っていたカゴごと攫ってしまった影山くん。攫われる時に少しだけ触れた手が暖かくて、私の顔は熱くなった。


「絡まれたって、どう絡まれたんすか。」


急いで体育館に戻りながら、そんなことを聞いてくる影山くん。その話広げますか…?


「どうって……連絡先聞かれて……断ってたら腕掴まれて困ってた……かな。」


「え!?…腕大丈夫っすか。」


バッ!とこちらに向き直り、私の腕を触る影山くんにびっくりしない訳もなく、


「びゃっ!?……だ、だだ、大丈夫!!全然!!強く掴まれたとかじゃないしね!!」


「あ、すんません。……なら良いっすけど…。」


再び前を向いて体育館に向かう。するといつの間にか隣を歩いていた影山くんの姿が見えなくなり、振り返る。


何故か少しだけ後ろで止まってる影山くん。


「どうしたの?」


「苗字さん、俺と連絡先交換しましょう。」


「ん!?」


どういう思考回路だ。彼の心理も全くわからない。


「ダメっすか。嫌っすか。」


「いや、駄目じゃないけど…。」


「じゃあ交換しましょう、試合終わったら。」


そう言い残して体育館に着くとコートに戻ってしまった影山くん。


言っている内容も心理がわからない点も同じなのに、なんで影山くんだと心が跳ねて喜んで仕方が無いんだろう。


……そうか、影山くんの事が大好きだからか。

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