「青葉城西…。」
確か、強豪校。…ぐらいにしか知らない。
「……強豪の北川第一中学のバレー部ほとんどが進学する高校ですよ。ちなみに王様もそこの出身。」
「!!そ、そうなんだ…。」
練習試合の日程表を見ながら、首を傾げていたのを見られたのだろうか。
気づけば後ろに立っていた月島くんが解説してくれた。有難いけどびっくり。
「苗字さんって、あんまりバレーの事知らないんですか?」
「…うん、高校になってから初めて関わったし、ルールもちゃんと覚えた。」
「えぇ!……男子が苦手って聞きましたけど、なんでマネージャーを?」
「それ僕も気になってた。」
山口くんと月島くんに迫られ、あの日の惨劇を話す。
まるで話を聞いていない2人組。そして首を横に振れない私による惨劇を。
「うわぁ……。」
「……ご愁傷様です。」
憐れむような目線を送ってくれる2人に1つ頷く。もういいの、もう諦めたから…。
◇
青葉城西高校に到着して、皆はアップを始めた。
潔子さんは記録の為、皆の元にいる。そして私は水道を探し求めて歩いていた。
広い体育館。それ故にどこに何があるのか全然わからない。ドリンクを作りたいのに、どこにいるんだ水道!
「あの、大丈夫ですか?」
「えっ…?」
振り返るとにこやかな笑顔を浮かべた、青葉城西のジャージを着た人物。
相手の選手だろうか、アップはもう済んでいるのかな。
「何か探してます?」
「あーえっと……水道ってどちらでしょうか?」
「あぁ!それならこっちですよ。」
案内された方についていくとやっと見つけた水道。
「ありがとうございます!助かりました。」
「いえいえ。……烏野のマネージャーですか?」
「え?あ、はい。」
「俺、2年の矢巾って言います。あなたは?」
「えっと…2年の苗字ですが…。」
なんか、この人は、あれだ。怖い人だ。
「苗字さん!タメなんだ!…ね、良かったら連絡先交換しない?」
なんで!?
こういう人は、あれだ。フットワークの軽い人。フッ軽な人だ!!
友達にも田中くんやノヤっさんにも言われた。いくら断るのが苦手でも、こういう人には気をつけなさいって。
「い、いやそれは……と言うか何故…。」
「何故って…苗字さん可愛いから。また会えたらなーって!」
にこぉ。笑ってる、笑ってるのに怖いよ!!こういった人物の心理が全然分からない。可愛いって、可愛いって言うのは潔子さんみたいな!!人!!
「いや……ちょっと……。」
「駄目?もしかして彼氏いるの?」
「いませんけど……。」
あ、嘘でもいますって言っておけば良かった。と思ってももう遅い、それなら良いじゃん!と腕を掴まれ逃げ道を絶たれた。
早く私も戻らないとだし、この人だって戻らないと困るのに。
もう面倒だから教えてしまおうか。そんな思考に変わってきた時、
「……苗字さん!!」
「か、影山くん!?」
「……げっ。」
「探しました。こんな所いたんすね。………?知り合いっすか?」
「いや、全然、違う。」
「…それじゃあ僕はこれで。」
にこぉ。と最後まで笑顔を浮かべた矢巾くん。怖かったぁ……。
ふぅぅぅ……。と息をついている私を見てこてん、と首を傾げている影山くん。ちょっと可愛い。
「どうしたんすか。」
「……ちょっと、絡まれてと言うかなんと言うか…。」
「?」
「とにかく助かった。ありがとう!」
「……?うす。戻りましょう、清水さんも探してましたよ。」
「え!?は、早く戻ろう!」
「はい。荷物持ちます。」
「いや!!今から試合の人にそんな!」
「そんな軟弱じゃないっす。ほら貸して下さい。」
するりと私が持っていたカゴごと攫ってしまった影山くん。攫われる時に少しだけ触れた手が暖かくて、私の顔は熱くなった。
「絡まれたって、どう絡まれたんすか。」
急いで体育館に戻りながら、そんなことを聞いてくる影山くん。その話広げますか…?
「どうって……連絡先聞かれて……断ってたら腕掴まれて困ってた……かな。」
「え!?…腕大丈夫っすか。」
バッ!とこちらに向き直り、私の腕を触る影山くんにびっくりしない訳もなく、
「びゃっ!?……だ、だだ、大丈夫!!全然!!強く掴まれたとかじゃないしね!!」
「あ、すんません。……なら良いっすけど…。」
再び前を向いて体育館に向かう。するといつの間にか隣を歩いていた影山くんの姿が見えなくなり、振り返る。
何故か少しだけ後ろで止まってる影山くん。
「どうしたの?」
「苗字さん、俺と連絡先交換しましょう。」
「ん!?」
どういう思考回路だ。彼の心理も全くわからない。
「ダメっすか。嫌っすか。」
「いや、駄目じゃないけど…。」
「じゃあ交換しましょう、試合終わったら。」
そう言い残して体育館に着くとコートに戻ってしまった影山くん。
言っている内容も心理がわからない点も同じなのに、なんで影山くんだと心が跳ねて喜んで仕方が無いんだろう。
……そうか、影山くんの事が大好きだからか。