ドキドキ
「ぜぇ……はぁ…………。」
「お疲れ!!名前!!」
「あはははは!!面白かったぞ苗字ー!!」
「お前のパン食いやばかったな!?」
「名前ちゃんすっごいぴょこぴょこ跳ねてて……ふふ、あはははは!!可愛かったぁ!!」
バカに…………しおって…………!!!
ゲラゲラと笑うクラスメイト達に怨念を飛ばしながら自分の席に座る、はぁはぁ……こんなに走ったのいつぶりだ……。
「……影山くん?」
「………………っっ。」
「影山くん???笑うのこらえなくて良いよ、もう笑われてるし。」
この辺り一帯からな!!!
「っぶふっ、あはははは!!」
すると声を上げて笑い始めた影山くんを、ジト目で見る。
借り物競争で覚えておけよ…………盛大に笑ってあげるからな……。
◇
「やっぱ速ぇな影山!!」
「流石全国行ってるだけあるよなぁ。」
散々私の事を笑っていたクラスメイト達がおぉー、と声を上げて見るのは、影山くんの短距離。
結果から言うとぶっちぎりのトップだった。流石!!脚長いし走ってる姿も綺麗だった。
その他のリレーも確かアンカーを務めていて、やっぱり努力している人は輝いてるなぁ。と同い歳には到底思えなかった。私の疲労全然取れないんだけど、なんで。
◇
「あ!!来たぞ影山!!」
「影山くーん!!頑張ってええ!!」
借り物競争が始まり、影山くんが入っている組が始まるようだ。
先程までの競技から、すっかり皆男子も女子も関係なく影山くんの虜になってしまい、うちのクラスからの応援の声は凄まじい。
そんな皆に交じって私も叫ぶ。
「影山くん!!頑張れええ!!」
◇
…………めんどくせぇ。
しかしながら勝負事では基本的に負けたくない。それに応援してくれてる声も聞こえるし。
…………苗字も応援してるみてぇだし。
頑張るか。そんな気持ちでスタートした借り物競争。
好きな人とか書かれてるやつ。この間聞いたことを思い出して背筋が凍る。
……そんなん出ちまったらどうしたら良いんだ。
いない訳じゃないけど、こんな場所でバレたくないし。
頼む、変なの来るな…………!!!そう願って咄嗟に取った紙を開く。
………………………………あ。
◇
「これで影山くんが好きな人、とか出してさ、女の子迎えに行っちゃったらショック過ぎるんですけど。」
「わかる!!せめてね、ふざけて男子とか迎えに行って欲しい!!」
そうかなぁ。私は片想いしていると言う女の子を迎えに行って欲しいって思うけれど。
なんて思ってしまう辺り、彼女たちとは影山くんの見え方が違うんだろう。
「………………え?影山くんこっち来てない?」
その声にグラウンドを見ると、先程まで紙を見て固まっていたのに、こちらに向かって走り出している。
え、え、え!?じ、実は好きな人は同じクラスだったとか……?
ええ!!誰だろ、可愛い子いっぱいいるもんなぁ!!
「………っはぁ………っはぁ、苗字!!」
!!?!?
「…………へ?」
「えええ!!苗字さん……?」
「まじかよ影山!!」
「…………?何がだ。……苗字!!さっさと来い、お前しかいない。」
おおお、お前しかいないだなんて、ちょ、えぇ!?
急かされるまま影山くんの前に出ると、
「…………ちょっと我慢してろ、このままだと負ける。」
なにが、と言う前に触れられた体。そして、
「!!?!?!!??!」
「きゃああああああ!!!!」
「か、影山くんが……!!!」
女子の悲鳴と自分の体勢から察するに、これは、その、漫画でよく見る、
お姫様抱っこってやつなのでは……!?
「掴まってろ。」
「え、ちょ、まっ、」
すると物凄い勢いで走り出して、私のドキドキは泣いて逃げ出した。ぴえん。
『ここで追い上げてきたのは2年3組!!学校のモテ男影山くん!!なんと女子を抱っこしての登場!!』
し、死ぬ!!私の立場が無くなって死ぬ!!!恥ずかし!!!
『さて、お題はなんでしょうか?』
影山くんが係の人に紙を渡す。そ、そんな……私、心の準備が…………!!!
『小さい人!!!』
……………………………………………………。
……………………ん?
影山くんに降ろされて、係の人に見られておっけーを出される。ん?
「助かった、お前しかいなかったからな。」
ふぅ、と息をついた影山くんに、フリーズした。
あ、小さい人…………なるほど……なるほどね…………。
「私のドキドキを返して欲しい……。」
「は?」