壁ドン
「壁ドンをさ、一生に1度ぐらい経験しておきたいんだよね。」
「何の話だ。」
「壁ドンの話。」
「壁ドンって何だ。」
「え…………っ!!?しし、知らないの!?」
「壁をドン!!て殴れば良いのか?」
「こっっわ。」
影山くんがやってしまったらまじで怖すぎると思う、パワー半端無さそうだし…
「それ以外に何があるんだよ。」
「むしろなんでそれを私はやられたいと思うんだ……?自殺志願者かな……?」
スマホで壁ドン。と入力して検索結果を影山くんに見せる。
「これ!壁に手をついて女の子を追い込む的な!きゅん、てするらしいよ!!」
「…………?」
なんと言う間抜けなお顔を晒してしまっているんだ、影山くん…!!
「これの何が良いんだ、脅迫されてんじゃねぇか。」
「ち、違うよ!!そんな怖い顔とかじゃなくて!!なんか……こう、……とにかく、きゅんきゅんするらしいの!!」
「キレんなよ。」
「キレてない!!」
いや、キレてるだろ。と言って笑う影山くんは今日も美形で、クラスの女の子達もこちらをちらちらと見てる。ごめんね、話してるのがこんなちんちくりんで。
でも影山くんは警戒心が強い猫みたいだから、仲良くならないと笑顔なんて見せてくれないんだ……。皆も是非仲良くなってくれ!!
「という事で、影山くんに壁ドンしてもらいたくて。」
「脅迫されてぇのか?」
「話聞いてた!?」
「名前、そろそろ移動しよー。」
「あ、はーい!!」
友達の声に頷き、教科書を持って席を立つ。
影山くんに脅迫脅迫言われたから、私まで壁ドンが脅迫に見えてきた……絶対違うのに……少女漫画でもよく出てくるのに……!!
◇
「……あれ?」
移動教室から戻ってくると、明るい髪色の女の子が誰かを待っている様子でうちのクラスの前に立っていた。
あの子は確か……。
「えっと、谷地さん?」
「え!?ひゃ、ひゃい!?……ど、どなたでしょうか……!?」
可愛い。
可愛い。(2回目)
見た目は勿論の事、声も想像を遥かに超えて可愛かった、しかもちょっとこちらを警戒してる感じもめっちゃ可愛い。
「あ、えっと、影山くんの友達の苗字です。影山くん探してますか?」
「あ、……はい!どこにいますか?」
「えっと……私達のだいぶ前に教室出てったから……お昼だし、自販機のとこにでもいるんじゃないかな?」
「そ、そっか…………ありがとうございます!!」
ぺこぺこと頭を下げて、去っていった谷地さん。
めっちゃ可愛いな、よくあんな可愛い子いて好きにならないな影山くん。
…………益々影山くんが好きで好きで堪んない女の子が気になる。どんな美女なんだ。
◇
「…あ、影山くん。」
「……よう。さっき谷地さんに俺の居場所教えてくれたんだってな。」
「そうそう、当たってたでしょ。」
「ん。」
お金を自販機に入れて、バナナオレと書かれたボタンを押す。
「何か用事でもあったの?」
「おう、部活の事で。探し回ってたらしい。」
「そうなんだぁ。……谷地さんと話してさ、可愛すぎて震えた。」
「は?」
「声も仕草も可愛かったし、ちょっと怯えてる感じも可愛かった!!」
「お前谷地さんに何したんだよ。」
「何もしてないよ!?ただ、うちのクラスの前で立ってたから声掛けただけだよ!?」
呆れた顔で言ってくる影山くんに慌てて弁解する。い、虐めてなんかいませんよ!?
「っふふ、そんな慌てなくても。」
慌てて弁解させたのはそっちなのに、楽しそうに笑う影山くんにムカつく。
「だ、だって!変な誤解生んだらって思ったら、」
「あ、危ない!!!」
へ?
声が聞こえた方を振り返ると、こちらへ勢いそのまま飛んでくるボール。
え。なんて思った時には腕を引かれて、
影山くんに飛び込みかけた時、私の足がもつれ、
「うわ、ちょ!?」
「おまっ!?」
ドン。
私の両手は影山くんの体を挟む形で、影山くんの後ろにある柱に手をついていた。
影山くんは私に押され、と言うかタックルされ柱に追いやられたような状態で、
これは、その、あれだ。
「………………壁ドン、だね。」
「………………だな。」
「……きゅんきゅんしましたか?」
「全然。」
ですよね!!