フラグ回収

「苗字さん、ごめん!!片付けお願いしても良い!?部活の集まりがあって!!」


「あ、全然良いよ!!任せてー!!」


4限の体育が終わり、お昼時間。


ごめんねぇ、と申し訳なさそうに駆けて行ったクラスメイトを見送る。


大体の部活が夏の大会で3年生は引退する。皆気合い入ってるんだろうなぁ。


こんな時、自分も何か部活に入ってれば、なんて思ってしまうがそんな時間無かったことに気づき、笑ってしまう。


「……よし。」


あとはボールの籠を倉庫に片付ければ…………


「ねぇ、苗字さん。」


!?


暗い暗い倉庫の中に入り、ボール籠を戻そうとしていると突如後ろから話しかけられる。


「は、はい?」


「…………影山くんを、独り占めして楽しい?」


!!?


「えっと……?」


「私達も影山くんと話したいのに、苗字さんとばかり話すの。影山くん。」


「それにあなたの前でしか笑わない。どれだけ媚び売ったのか知らないけど、もういいでしょ?2年間ずっと一緒にいたんだから。」


「いい加減影山くんを解放してよ、皆影山くんと話したいのに。」


!!?!??


「えっと……それは、自分達で話しかけたら良いのでは…………?影山くん拒否ったりしないと思うけど……。」


「は?」


「何言ってんの?」


「影山くんの事悪くなんて言ってないでしょ、あんたが邪魔なのよ。」


!!?!?!!?


あれ!?もしかしてこれ、随分前にフラグを立てた嫌がらせイベント!?まじ!?


ほ、本当に起きるとは……や、やばい。怖くなってきた。


「別に私達難しいこと言ってるわけじゃないの、影山くんから離れて欲しいってだけ。」


「影山くん以外の友達もいるでしょ?じゃあいいよね?」


「責任持って影山くんは私達が仲良くしておくから、安心して?」


この子達に囲まれた影山くんを思い出すだけで可哀想に思ってしまうんだけども、……そんなこと今言ったら引っぱたかれそうだ。


「ねぇ、いいよね?」


これで頷いてしまったら、もうあんまり話せなくなるのかな。


…………そんなの嫌だなぁ。影山くんと過ごすの楽しいのに。


それに、影山くんだって私といると楽しいって言ってくれてるのに。そんな事出来ない。


「…………それは、ちょっと……出来ないかな。」


「……………………そう。」


あああああ、言ってしまった、なに?何される!?ぶ、ぶん殴られる!?歯食いしばった方が良い!?


「それじゃあここでさよならだね。」


へ?


ガラガラと音を立てて閉められた倉庫。


え、ちょ、まさか、なんて思って引き戸に手を入れるが、


それより先に聞こえたガチャリ。と施錠される音から扉はもう開かなかった。


楽しそうに笑う女子生徒達の声はどんどん遠ざかり、気づけば自分1人だけ。倉庫に閉じ込められてしまった。


………………閉じ込められてしまった。


ぺたん、と床に座り込む。その場で暴力をふるわれる方じゃなくて閉じ込められる方だったかぁ。なんて、


呑気に少女漫画のことを思い出してはいたが、この後どうしよう。ご飯、5限!!そう思い出してなんとか開けられないか模索する。


しかしながら勿論開かない扉。こんな貧弱な腕じゃ話にすらならないかぁ。


スマホも持ってないし、連絡も出来ない。


…………どうしよう。そう悩んで、頭を抱える。


人から直接的な悪意を向けられた事なんて初めてで、彼女達の目を、言葉を思い出して、……少しだけ泣いた。


怖かった、本当に何されるかわからないような顔をしていたから。


誰か、気づいてくれないかなぁ。


………………影山くん、来てくれないかなぁ。


なんて少女漫画のヒロインのように、イケメンが助けに来てくれるなんて事を望んでしまった。





「…………あれ。」


「…………あれ? 」


苗字の友達と顔を合わせて、首を傾げる。


「苗字は?」


「体育の片付けしてから戻るって言ってたけど……遅すぎるね。」


「……何してんだ?飯の時間無くなるぞ。」


「そうだよね……、ん?」


視線の先を追うと、数人の女子達が楽しそうに会話しながら教室に戻ってきた所だった。


「…………あの中の1人、名前と一緒に片付けの当番だったはずなんだけど。」


「聞いてくる。」


「え、ちょ、影山!?」


「あの、」


「え、え!?か、影山くん!?」


「え、なになに、どうしたの!?」


「苗字知りませんか。片付け一緒だったって聞いたんすけど。」


「え、……えー?知らないなぁ。一緒に片付け終わる所までやったんだけど、その後は知らない。」


「……そっすか。」


「ね、影山くん。連絡先教えてくれない?」


「あ、私もー!!せっかく同じクラスになったんだし、」


「……いや、教えません。あざっした。」


「ちょ、ちょ!!影山!?わざわざ直接聞かなくても、」


「あの人達嘘ついてる。」


「え?」


「……たぶん。ちょっと体育館見てくる。」


「それなら、私も!!」


「いや、……あんたはここで待っててくれ。もう昼の時間少ねぇし、苗字見つけたら抱えて走って戻ってくるから先飯食っとけ。」


「抱えてって…………わかった、お願い。」


「おう。」





「ふん、ぬぉおおおおおおお!!!!」


あ、開かない…………!!!


今何時なんだろう、もうお昼の時間終わってしまったかな、授業出ないのは流石にまずい。ど、どうしよう……!!


あぁ、もう。なんで私がこんな目に遭わないといけないんだ。


段々と理不尽な状況にムカついて、ムカついてムカついて、苦しくて泣けてくる。


なんで、影山くんと仲良くして何が悪いの。


不器用で、コミュニケーションが苦手な影山くんと少しずつ仲良くなっていったことの、何が悪いの。


皆がこうやって、バレー部が全国に行って影山くんがかっこいいって有名になる前から仲良いのに、なんで、今更。


「……ううううぅぅ。」


こうやって私は何も悪くないってわかってるのに、何も言い返せなかった事が悔しい。弱い自分が、影山くんと仲良くて何が悪い!!って言えない自分が悔しい。


もうやだ、こんな暗いとこ早く出たい。すぐにでも出たい。


助けて、誰か。誰でも良いから助けて。


「…………助けて……。」


ぼろぼろと零れ続けていた涙と共に零れ落ちた言葉は、誰にも気づかれない


はずだった。


「苗字?苗字ー!!いるかー?」


!?


か、影山くん、


「……っ影山くん!!!助けて!!」


ドンドンと扉を叩いて、叫ぶ。


するとこちらに走ってくるような足音。


「苗字!?いるのか!?」


「いる!!閉じ込められたの!!出してぇ!!」


「閉じ込められたって…………わかった、待ってろ。」


暫くして鍵を持ってきてくれた影山くんによって、ガチャリ。閉められた時と同様鍵が開く。


ガラガラと扉を開けてもらって、眩しくて、明るくて、


「……ちょ、お前なんで泣いて、」


迎えに来てくれたのが影山くんで、嬉しくて、


「……かげやまぐうぅん……。」


えぐえぐと大泣きした。怖かったんだよと、酷いんだよあの子たち。と大泣きしながら、言葉も支離滅裂になりながら話す私の隣に座り、


「……酷い奴らだな。」


ぽんぽんと頭を撫でて、あやす様に抱き締めてくれた影山くん。


「暗い中1人にされて、……すっごい怖くて……。」


「……ん、もう大丈夫だからな。」


ぎゅ、と力を込めて抱き締められ、いつも微かに香っていた影山くんの香りが充満し、恥ずかしいようなでも安心するような感覚に陥った。


「…………助けに来てくれて、ありがとう。」


止まらない涙を影山くんの学ランに吸わせながら、お礼を述べる。


「……嫌がらせ受けさせてごめんな。」


なのに、返事は私の納得がいかないもので、


「か、影山くんのせいじゃないでしょ!?」


「でも俺と一緒にいたからだろ?」


「それは、そうだけど!!あの子達が勝手に!!」


そう怒ると、そんなキレんなよ。と笑った影山くん。


「ごめんな。」


「っだから!!影山くんはなにも」


「それでもお前と離れらんねぇ。」


「…………え?」


「お前が嫌がらせ受けても、俺と離れないとって脅されたって分かってても、苗字と離れられない。……だから、ごめんな。」


そう言って困ったように笑った影山くんは、なんだかとても、困ってるのに嬉しそうに見えた。


「……そんなの、離れるつもりなんて無いよ!!宣言したじゃん!!」


「……あぁ、してたなそう言えば。」


「だから、謝らないで!!」


ふん、と怒ると声を上げて笑った影山くん。


当然こんな風に話してて5限に間に合うはずも無く、私と影山くんはサボることとなってしまった。

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