初めまして
「じゃあな、苗字。」
「うん、また明日!」
部活へと向かう影山くんを見送り、私も帰る準備を進める。
影山くんはいつも終わった瞬間教室出てるよなぁ、準備早いよなぁ。
なんて思いながら影山くんの机の方を見ると、
「…………あれ?」
◇
「……えっ!?苗字さん!?」
「うわっ!?あ!谷地さん!」
男子バレー部が活動してる体育館を覗いたところ、すぐ近くにいた谷地さんと目が合う。
「ど、どうしたの?あ、影山くん?」
「うん、影山くん忘れ物してて。」
そう言って課題として出された問題集を見せる。
明日1限目なんだからちゃんとやって来ないと困るのに、たまたま私が見つけたらから良かったものの。
「そっかぁ……苗字さんって影山くんと本当に仲良いよね。」
「え?そう?バレー部の皆さんには敵わないのでは?」
「えぇ!?そんな事ないよ。影山くんここでも苗字さんの話する時もあるぐらいだし。」
「え!?」
ちょ、ちょっと待ってよ影山くん。何を話してるんだバレー部で。影山くんが話しそうな内容と考えると私の間抜けなエピソードしか無さそうなんだけど……!?
「ちょっと待っててね、影山くん呼んでくる!」
「あ、いや!練習に区切りついたらで良いよ!」
「え、でも苗字さん帰らないとじゃ……。」
「それはそうなんだけど、……恥ずかしながら影山くんがバレーやってるの見たことないんだぁ。」
「えぇ!?そ、そうなの!?……それはちょっと損してるかも。」
「やっぱり?教室にいる影山くんは白目剥いてるかご飯食べてるか、……あとはお話してる時の影山くんぐらいしか知らないから。機敏に動いてる影山くんは初見です。」
「それなら中入って見てたら?椅子持ってくるよ!!」
「い、いやいや!!床に座ってるから良いよ!!」
慌てて谷地さんを止めて、小さな声で失礼しまーす……と呟きながら体育館に入る。
すると、耳に入ったキュッキュッと言う靴の擦れる音と、ボールが床にぶつかる音。
「ナイッサー!!」
「ナイスキー!!」
「もう一本!!」
ただただひたすらに真っ直ぐボールを見つめる彼らは、凄く眩しく見えて、その中でも特に
「影山ぁ!!ナイッサー!!」
綺麗ってこと、ちゃんと手のケアをしてるってこと、大きな手って事。そんな事ぐらいしか知らない影山くんの手から放たれたボールが宙を舞い、
キレのある動きから床に叩きつけられるまでは一瞬のようで、ビリビリと空気が揺れた気がした。
………………凄い。
影山くんの事、他の人より知ってる気にはなっていた。ちょっとだけ自惚れてた。でも、これが、バレーボールが影山くんの大事な部分だって知ってたけどわかってなくて、
今、それを目の前にして、私が知ってる影山くんなんてほんの一部分だったのだと見せつけられた。
「…………あれ!?苗字さん!?」
「………………あ。」
思わず見惚れてしまっていて、声をかけるのを忘れてた。
休憩に入ったのかコートから出てくる彼らの中から、日向くんが声を上げる。
「なんでここにいるの!?あ、影山?」
「う、うん。そう。」
「影山ぁー!!苗字さん来てるぞ!!」
日向くんの後ろから歩いてきた影山くんと目が合い、めいいっぱい見開かれる。
「……おま…………え、なんで。」
「あ、えっと……邪魔してごめんね。」
「いや、邪魔じゃねぇけど。びっくりしただけ。どうした?」
「これ。課題って出されたのに影山くん忘れていってたから。」
「…………………………忘れてた。」
「やっぱり!!」
「悪い、助かった。」
「ううん、それじゃあ私は帰るね。」
「えー!?もう帰っちゃうの?苗字さん。」
「うん、帰るよ。……初めて影山くんがバレーやってるの見たや。」
「そう言えばそうだな。」
「ね、どうだった?こいつ普段はむすーっとしてるだけだけど、バレーやってる時だけはイキイキしてねぇ?」
「イキイキしてた!!私の知らない影山くんだったよ。」
「んな事ねぇだろ、お前の前でもムスッとなんてしてねぇし。」
「でも割と白目か無表情かが多いと思うけど??」
「お前女子の前でもそんなんなのかよ……。」
「あぁ!?」
「あははは!!仲良いんだねぇ。」
「「よくない!!」」
「息ぴったり。じゃあ私は帰るね!」
「ん、ありがとな。」
「いえいえ!!」
「……また明日。」
「また明日!」
体育館を出て、影山くんから遠ざかり早まる鼓動から足を止める。
…………なんか、胸がうるさい。
影山くんがかっこいいことなんて今に始まった事じゃないだろうに、それもわかってて友達として一緒にいるのに。
バレーボールに触れている影山くんの表情は、私の知らない部分で、私の知らないかっこいいもあって、
…………とにかく凄く凄く顔が熱い。