最後

「…………うぐぅ。」


「うわ…………名前凄い顔になってるけど……。」


「だって…………友達とお別れ……!!」


「……そうだね、でも大学違うだけで地元にいるし。また絶対会おう?」


「……絶対!!」


「うん、絶対!ほらもうぐずぐず泣かないの。……私より本当に遠くへ行っちゃう人にお別れしてきたら?」


「…………むりぃ。」


「なんで。沢山お世話になったでしょ、それに仲良しだったじゃん。」


「だからこそだよ……寂し過ぎる……。」


「いいから!今話しておかないと絶対後悔するよ?」


「うぐっ……。」


「ほら!!行ってきな!!」


「…………うん。」





「…………影山くん。」


「苗字。…………ってお前……ふふっはは、あはははは!!!」


「何さ……人の顔見た瞬間笑うなんて酷すぎる。」


「お前、泣くのか怒るのかどっちかにしろよ。」


そう言って私の目元を学ランの裾で拭ってくれる影山くんは、今日もなんだかんだ優しい。


「……卒業しちゃった。」


「あぁ、しちゃったな。」


「…………寂しいいいい。」


「あぁもう、泣くなよ。」


ぽんぽんと頭を撫でられ、その優しさからまた泣いた。


楽しかった、本当に楽しかったこの3年間。


「影山くううん…………卒業しても私の事忘れないでええ……。」





忘れる訳ねぇだろ。むしろそれは、


「忘れられねぇよ、こんな面白い奴。……お前の方こそ俺の事忘れんなよ。」


俺の台詞で、縋ってるのもたぶんお前より俺。


「忘れるわけない!!……こんな親友、忘れられない。」


にへぇ、とだらしなく笑った苗字はすっげぇ顔もぐちゃぐちゃでみっともない顔なのに、すげぇ可愛くて。


「……なぁ、苗字。」


「うん?」


俺のものにしたくなる。


でも、それを言った時苗字はどんな顔をするだろう。


……それを想像して、何もかも失うような気さえして、


「……なんでもねぇ。顔酷いから早くなんとかしろよ。」


「言い方!!」


何も言えない俺はただの意気地無しだ。


「卒業しても、連絡しろよ。」


「勿論!!お金貯めてそっち遊びに行くからね!!」


「……おう、待ってる。」


「影山くんもこっち戻ってきた時に会おうね!!」


「…………あぁ、必ず連絡する。」


そう言うと嬉しそうに歯を見せて笑った苗字に今日も心奪われた。


「じゃあ私はそろそろ帰ろうかなぁ。」


「……俺も。」


「え?もう?影山くん後輩とか、」


「…………早くしねぇと、また女子に囲まれる気がする。」


「…………また?……あれ!?か、影山くん既にボタンが!!」


「……追い剥ぎにあった。」


「あはははは!!!嘘!?本当に!?!?あはははは!!」


「笑いすぎだろ!!」


腹を抱えて笑われて腹が立つ。先程までの惨事を思い出してこっちは鳥肌立ってるっつーのに。


「み、みんな、仕事が早いねぇ……!!あはは!!」


「……お前の予想通りだったな。」


「え?……確かに!!そんな事も言ったね!このままモテてたら卒業式の時ボタン無くなっちゃうんじゃない?って!」


「ん、現実になっただろうが。どう責任とってくれんだ。」


「なんで私のせいみたいになってんの!?あ!って言うか写真撮らせてよ、ボタン全部もぎ取られた人の写真。」


「……駄目だ。」


「え!?なんで!?」


「……全部もぎ取られた訳じゃないから。」


懐にしまい込んでいた物を取り出し、苗字の手に握らせる。


「…………ボタン?」


「第二ボタン。女子達が血眼になって欲しがってた。」


「なっなんて不吉な物を寄越すんだ!?!?」


「っふ、あははは!!……俺の第二ボタン貰って不吉な物って言えるお前に貰って欲しい。」


嘘だ、本当は心の底からそれを渡す意味までわかっていて、苗字に渡したい。


でも、そんな事言える間柄でも無いし、俺達にはこれぐらいで丁度いい。


「……そう言うなら。ありがとう、影山くんの形見として持っとくよ!!」


「勝手に殺すな。」


「だって会えなくなるし、形見もどきじゃん。」


「死んでねぇよ、元気にバレーやるつもりだ。」


「……影山くんって長生きしそうだよね。」


「150歳になってもバレーやってたい。」


「めっちゃ長生きするじゃん!!」


ケタケタ笑う苗字と一緒に笑う。


一緒に帰るのも、こうして制服着て会うのも、今日が最後。


寂しいのも、辛いのもわかってて。俺たちはそんなの吹き飛ばすように笑い続けた。


苗字は俺と会えなくなる寂しさを見えないようにする為に、


俺は目の前にいる、喉から手が出る程に欲しい人へ手を伸ばせなかった後悔を忘れる為に。

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