恋って、愛って。
「…………その、ずっと前から好きだった。俺と付き合ってくれないかな。」
「…………へ?」
少女漫画に憧れて、恋に恋してた私に彼氏が出来たのは大学2年生の時。
正直告白されて舞い上がってしまったのだろう、好きとか愛とか特に考えることも無く付き合ってしまった。
しかしながら1つ年上の彼との交際は楽しくて、愛しいとかそう言った感情はよくわからなかったけど、それでも一緒にいて楽しかった。
恋人としてやる事もやった。唇を重ねて、うわぁ、ファーストキスってやつだぁ。なんてどこか他人事だったのは彼には言えない秘密だ。
体も重ねて、相手に全てを暴かれる事がどれだけ恥ずかしくてどれだけ怖い事か知った。
彼のことは大事には思っていた、だけど、恋とか愛とか。未だに少女漫画の中の話だと思ってしまって自分には当てはめられなくて。
そんな中での行為は、嬉しいけど、怖い部分も多くあって、
怖くて、喪失感にも浸った時もあって。そんな時、怖くなった時寂しくなった時はいつも
影山くんを思い出してしまっていた。
高校生活の楽しいを全て分け合いっこしたような男の子。忘れられない、忘れるわけも無いし、忘れたくない親友。
彼氏がいるのに、違う男の子を事ある事に思い出すなんていけないってわかってるけど、影山くんだけは許して欲しかった。
だって、きっともう会うことはないのだから。
大学に行っても、影山くんが東京へ行ってもお互い連絡取り合おうと言って卒業した烏野高校。
しかしお互いにすぐ忙しくなってしまって、気づけば半年が経過していた。
毎日顔を合わせていた私達からしたら半年なんて、何十年と連絡を取っていないような気になってしまって。
それから1度も。結局卒業してから1度も連絡する事も会う事も無かった。
その縁がまた結ばれるとは思わない、だから今だけ。今だけ許して欲しい。そう願って彼氏との交際の合間に影山くんとの思い出に浸っていた。
◇
「…………都会だ。」
ぼんやりと呟いてしまうほどの大都会、東京。
影山くんもこの街のどこかにいるのかなぁ。なんて真っ先に影山くんのことを考えてしまって、頭を振る。
違う、私は今日からここで働くんだ。
就職と共に上京した彼氏を追いかけ、やって来た東京。
今日から彼氏との同棲生活。不安は無いのかと言われれば不安しかない。
段々と不透明になってきた相手への自分の気持ち。
なんで付き合ってるんだろう。そんな事を自問自答し始めたのはいつからだったっけな。
しかしそんな事向こうには全く伝わっていないのかなんなのか、今日から始まる同棲生活。
仕事にも、生活にも不安を抱え込んだまま私は都会人の中に紛れ込んだ。