罰
「…………………………どうしよう。」
どうしよう、なんて一言じゃ済ませられない状況に笑いさえ出ない。
「まさかこんな事になるなんて……。」
去年から同棲も始めて、あやふやな気持ちの中長いこと付き合ってるし、そろそろ結婚かなぁ。なんて考えていたら
「……ごめん、別れて欲しい。」
「………………は?」
時が止まったように感じた。
理由を聞けば、他に好きな人が出来ただとか。よくよく話を聞いてみるとそれ浮気じゃん。みたいな。二股じゃん。的な。
泣くにも泣けず、了承せざるを得ず。同棲も続けられないのでこれからどうするかと話そうとしたら、
「俺がこの家で新しい子と住むから……その、退去費とか引っ越し代とか出すから、……出てってくれないか。」
………………は??
そんな事を言われて家なんてすぐに用意出来ないし。
でもそんな事言う人と一緒に生活なんてもう、腸が煮えくり返ってて無理だし。
そんなこんなで突然のホームレス。
いやいや、笑えない。全然笑えない。
…………まさかこんな事になるなんて。
最低限の荷物だけまとめたスーツケースを傍らに、公園のベンチで頭を抱える。
夜もとっぷり更けて真っ暗だ、しかしながら東京は田舎とは違い、街の灯りがあって少しだけ救われる。
何がいけなかったのか、そんなのは考えるまでもなくわかっていて。
私が彼を愛せていなかったことが何よりの原因だろう。それがわかっていたのに、愛せないってわかっていたのに解放してあげる事もせず、……そりゃフラれるよね。
でもだからと言って向こうが悪くないとは言わない。二股は二股だ、許せない。
それに傷つくものは傷つく。……結局最後まで好きになれなかった私が言うのもなんだけど。
「…………はぁ。」
それにしてもこれからどうしよう。
仕事はあるし、今日が金曜なので最も仕事から遠い日だからまだ良かったけど……2日で家をどうにかするなんて難し過ぎないか。
だからと言ってビジネスホテルに泊まり続けるのもお金が……、どうしよう。
あぁ、自分を好いていてくれる人を蔑ろにした罰かなぁ。蔑ろなんかにしてないけど。……ちゃんと大事にしてたつもりだったんだけどな。
神様にも見放されたかな、人の心を大事に出来なかった罰。
そう考えれば考えるほど、自分がやってしまった事と相手にされた事を痛感して苦しくて、涙が出てきた。
うわぁ、こんな所で泣くなんて……いい大人が情けない。
なんて頭ではわかっていても、涙は止まらなくて。
好きになれなかったとは言え、楽しかった日々が失われたのは悲しくて。最後には浮気までされていた事に気づけなくて。
「…………ひっぐ……。」
突然世界で一人ぼっちになってしまったような感覚。
誰も私の味方じゃないかのような、……誰も私を受け入れてくれないような絶望。
しかし、そんな絶望の中
「…………苗字?」
神様は、まだ私を見捨てていなかったようだった。