難しいとわかったら

…………え?広くない?


影山くんに案内されて着いた家はそもそも高級マンション風で、たぶん中とか見ると風じゃなくてまじの高級マンションっぽくて、


家の中もそれはそれは広くて…………え?これ20代が1人で住むような家かな?あれ?


いやでも待て待て、テレビでの影山くんを思い出せ。彼はイケメンバレーボール選手として有名な、日本代表だ。忘れてはいかん。


ついつい高校生の時の名残で警戒心の強い猫的な扱いをしてしまうが、凄い人だった、いや当時も凄い人だったけどもはややばい人だ、あれなんかもう語彙力が。


「この部屋使ってないから使ってもらって良い。」


「ありがとう…………凄く立派なおうちだね。」


「……姉ちゃんが選んだ。」


「え!?そうなの!?」


住むの自分なのに!?


「ベットとか無いから、買うか?」


「!?い、いやいらないよ?部屋見つかるまでだし、」


「別にずっといてもらっても良いけど。」


「何言ってるの!?」


お前こそ何言ってんだ、的な顔をしてる影山くんに私がおかしいのかと思わされる。いやいや、おかしいのは向こうだよね!?


「か、影山くんにそこまでお世話になる訳にはいかないし……それにその、付き合ってるとかじゃ無いんだし…………って言うか彼女は!?彼女いる!!?」


大変なことを思い出してしまった、か、彼女いたらと、とんでもない事になる。


「いねぇ。」


しかしながらさも当然かのようにそう言った影山くんに謎の安心感さえあった。


「お前、仕事は?」


「あ…………うん、大丈夫そう。そんなに遠くなってないし。」


「そうか、ならここから通えば良いな。」


「うん、明日には不動産屋さん行くから少しだけお世話になります。」


「別にそんな急がなくても良いだろ。」


「いやいや、さっきの話聞いてた!?」


「俺は気にしない。」


「わ、私は気にするの!!」


「……そうか。お前がいると楽しいから一緒に住めるの良いなって思ったんだけど。」


しゅん。


う、うわああ!!?落ち込ませてしまった!!救世主を!!な、なんてことを、


「そそそ、それは私も!!影山くんとの日々がずっと心の支えでして!!好きになれないあの人との生活の支えだったので!!私の方こそ有難いと言いますか!!!」


「……心の支え?」


「うん!!……好きになれない事はやっぱり辛くて、あとそれだけ想ってくれてる人の事好きになれない自分が怖くなったりもした。そんな時はいつも影山くんとの楽しい日々を思い出してたの。」


あははは……なんて言って苦笑いを浮かべる。なんとも情けない話だ。過去に縋りついてる暇があるなら、現状を変えれば良かったのに。あの時も今思い返してもそんな事はわかってる。


「……俺も。」


「え?」


「俺も、辛い時苗字との事思い出してた。」


「……そっかぁ。」


「……約束したのに、全然連絡出来なくて悪かった。」


「そんなの私だって!!……忙しくなって今更なんて連絡したら良いのかわからなくなっちゃって、」


「っふふ、一緒だな。」


「だよね!!あれだけ毎日会ってたんだもん、そもそもなんて話しかけてたのかさえわからなくなっちゃった。」


「な。学校ってやっぱすげぇな。」


「すげぇよ。理由無く会えるし話せるんだもん。」


それがどれだけ難しい事か、大人になってよくわかった。会わないとどんどん疎遠になっていく人ばかりなのだから。


「……俺はまた、その距離に戻りたい。」


少しだけ恥ずかしそうに影山くんはそう言う。


その言葉がキラキラ輝いて、すとん。と私の心に落ちて、


「…………っ私も!!!」


「……おう。」


嬉しそうに歯を見せて笑う影山くんに、私も心の底から嬉しくなった。

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