優しい彼の願いがどうか

「……よし。」


今日も綺麗に巻けた卵焼きににんまりと笑顔を浮かべてしまう、これを食べるのはとんでもない美形でして、卵焼きもさぞ嬉しいだろう。


「おはよう。」


「うわぁっ!?」


「っぶふ、ははははは!!」


「び、びっくりさせないでよ!?」


「悪い悪い……美味そうだな。」


「今出来たところ、食べる?シャワー先?」


「今食べる。」


そう言ってダイニングへ向かった影山くんを追って、朝食のプレートを2人分運ぶ。


とりあえず1週間、影山くんの家にお世話になる事になった。


すぐにでも物件を探して出ていきたい私VSとりあえず1週間はここで休んで欲しい影山くんの結果


救世主に頭が上がる訳もなく、私はとりあえず1週間物件探しもせずこの家で生活する事になった。影山くんはそれで良いのか……私はこんな素晴らしいお家に短期間とはいえ生活出来て非常に楽しいけども……。


それに、やっぱり影山くんとの日々は楽しくて。まだここに来て数日だけど毎日笑い過ぎてお腹痛いぐらいだ。


「家でちゃんと飯食えるなんて、良いな。」


「むしろ今まではキッチン勿体なさすぎだよ……。」


「料理とかよくわからねぇ。……指先傷つけたくねぇし。」


「それは確かに!!影山くんは刃物を持たない方が良いね。バレーに支障出ちゃう。」


「あぁ、だからずっとこの家にいてくれ。」


「それとこれとは話が違うよ!?そういうのは未来の奥さんにお願いしなさい!」


「んなもんいねぇよ。」


「まだわかんないじゃん!?」


「キレんなよ。」


「キレてないよ!?」


あはははは!!と楽しそうに笑う影山くんにつられて、私も笑ってしまう。もう、冗談とはいえきっついよ。こんな美形にそんな言葉言われてきゅんきゅんしない人はいないだろうに。


「彼女とか作らないの?」


「……あぁ。」


「なんで?…………あ、そういえば高校生の時にいた好きな子ってどうなった!?」


「……んな事覚えてたのかよ。」


「ふっふっふ、忘れないよ?それでどうなったの?」


「………………………………継続中。」


「………………え!?な、長くない!?」


ざっと8年近く経ってないか!?え!?


「い、今も話せる距離にいるの?」


「とりあえず。」


「す、すご!!縁があるねぇ!」


「…………あぁ、本当にな。」


そう言って嬉しそうに笑った影山くんは、本当にその子の事が大好きなんだろう。


……ちゃんとした恋を知っている影山くんが、少しだけ羨ましくなった。


「良いなぁ…………私もちゃんと人を好きになってみたい。」


「……いつか、なれると良いな。」


「うん、ちゃんときゅんきゅんして結婚したい。」


そう言ってはみたが、今までの自分を思い返すとお先真っ暗だ。割とトラウマ級に刻み込まれてる。


「…………なんて言ってもこのまま1人のままだったらどうしよう……。」


嫌だなぁ、いつかは誰かと一緒になりたい。出来る事なら好きになった人と。


「お前がいつまで経っても1人だったら、嫁に貰ってやるよ。」


「はい!?!?え、ちょ、何言ってしまってるかわかってる!?」


「……?おう。」


「そ、そんな事!!影山くんみたいな優良物件が言っちゃ駄目だよ!?み、皆ホイホイ来ちゃうんだから!!」


「お前以外には言わねぇよ。」


きゅん。


…………だ、だめだめ!!影山くんは優良物件過ぎる!!ハードル高すぎ!!中身が警戒心の強い猫だとしても!!


「そ、それに影山くんだって恋が実る日が来るかもだし……。」


「……どうだかな。…………ご馳走様でした。ほら、今日買い物行くんだろ、準備しろよ。」


「あ!!そうだった!!ごめんね、ちょっと待ってて!!」


「別に焦らなくて良いからな。」


「……ありがとう!!」


今日も優しい影山くん。優しくてお金持っててイケメンで。…………いやぁ、世の中の女子は放っておかないでしょ……。


好きになられ易い影山くんの恋が、ちゃんといつかは実ると良いな。


その時私は親友として影山くんの隣にいられれば、尚嬉しいけども。

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