一途

「や、やばい!!!」


け、化粧もしてないし、髪も寝癖ついたままなのにこんな時間!!?


急いで身支度を整えて、お弁当を持ちドタバタと玄関へ向かう。


「い、いってきま」


「苗字!!スマホ忘れてる!!」


「え!?あ、ありがとう!!」


履いた靴を脱いで、影山くんの方へ戻ろうとした時


「うわっ!?」


「ちょ!?」


ドン。


いつかのように、足がもつれて影山くんに突っ込んだ私は影山くんの体の両側に手をついて、


「…………また壁ドンかよ。」


「…………すいません。」


自分より遥かに大きなイケメンを壁ドンしてしまった。


「えっと、きゅんきゅんした?」


「なんでとりあえず聞くんだよ。しねぇよ。」


「だよね!!」


「ほら、スマホ。時間やばいんじゃないのか?」


「そ、そうだった!!」


急いで靴を履き直し、ドアノブに手をかける。


「いってきます!!」


「ん、いってらっしゃい。」


にっ、と笑った影山くんに私も笑う。なんだろう、影山くんに見送られると気分がすこぶる良い。イケメンだから?





「よぉ!!影山!!」


「……………………よぉ。」


「おい!!見るからに、げっ。って顔すんなよ!?しょうがねぇだろ?チームとしての練習なんだから!!」


他のブラックジャッカルの選手達と共にやって来た日向を見て、本能的にムカついたらしい。顔に出てたとは。


「……あ、そうだ。今日侑さんにあんま話しかけない方が良いぞ。」


ぼそ、と小声で話してくる日向に首を傾げる。


「なんでだ。」


「……昨日、彼女にフラれたらしい。」


「またか。」


「そういうとこ!!そういうのあるから!!お前!!絶対話しかけんなよ!?」


「…………???わかった。」


なんでそんな言われ方されるのは知らねぇけど、とりあえず頷いておく。





「なぁ、どう思う?なぁ。飛雄くん。俺悪かないよなぁ!?」


そう言って肩を揺さぶってくる侑さんに困り果てる。どうしたら良いんだ。


話しかけんなって言われても向こうから話しかけてきたし。俺の言い方だとなんか駄目っぽいからあんまり話したくねぇんだけど……。


「…………そういえば飛雄くんって彼女おるん?」


なんて困っていると自動で次の話題へ移ってくれた。……助かった。


「いないっすよ。」


「あ、でもこいつー、高校生の時ずっと好きだった子に結局卒業式の日に告れなかったんすよ。」


「おい!!」


「え!?まじ!?飛雄くん意外と意気地無しなんやなぁ。」


「……………っす。」


日向に話したのはやはり間違いだった。卒業してすぐ感傷的になってる所に現れて、勢いで話してしまったが間違いだった。


「……実はその子以来好きな子出来たことないとか言わへんよな?」


「………………。」


「マジかいな!!?」


「え!?そうだったの!?」


「でも、また片想いし始められたんで、」


「…………ん?どゆこと?」


「…………え、まさか苗字さんと再会したのか!?」


「苗字さん?」


げ、言ってしまった。時すでに遅し。


日向はキラキラと目を輝かせてこちらを覗き込んでいる。


「………………言わねぇ。」


「なんでだよ!?……お前が言わないなら身の回りの人に聞いてやる!!星海さああん!!」


「おい!?やめろ!!」


「ん?どうした?」


「苗字さんって知ってます?影山の好きな子なんですけど、」


「おい!!!」


「は!?あいつ好きな子とかいたのかよ!?……聞いたことねぇな。おい、影山誰だよその子。」


「い、言えません!!」


「牛島さああん!!」


「どうした。」


「おい!!日向!!」


「苗字さんって知ってます?影山の片思いの相手で、」


「…………知らないな。」


「そうですか……あざっす!じゃあ他の人に、」


「いい加減にしろ、日向ボゲェ!!!」

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