笑っちゃうような感情
「マネージャーやってみないか?」
「………………え?」
言われた言葉を反芻して、首を傾げる。
「人足りないの?」
「あぁ。3年生の先輩しかいないから来年からいない。……今探してるらしい。」
「そ、そうなんだ……。」
それでどうして私を誘うんだ影山くんは。
出来ることならお断りしたいけども……親の代わりに家事をやらねばならぬし……ちょっとマネージャーとかめんどくさいし……。
「駄目か?」
「うーん……私にはあんまり向いてなさそうだなぁと。」
「そうか?割と世話焼きだろ。」
「え!?そんなこと思ってたの!?」
良かれと思って授業中寝てしまう影山くんを起こしたり、ノートを見せてあげたりしてたのは、世話焼きだからだと思われてた!?
「……?違うのか?」
「ち、違う!!……と、思うけど……。」
「でも苗字はサポートとか向いてそうだけど。」
「えぇ?そうかなぁ。」
「あぁ。気が利くし、話しやすいし優しいし。」
「………………え、凄い褒めてくれるね。」
ちょっと恥ずかしいんですけども。
熱くなってきた顔をぱたぱたと仰ぐ。
「別に。前々から思ってただけだ。……そんで、駄目か?」
「うぅ…………ちょっと考えさせてもらってもいい?」
「わかった。」
「……その、影山くんは私がマネージャーやるの向いてると思うの?」
「?そう言ってるだろ。それにお前いると……なんか、楽しそうだ。」
「何それ、楽しそうって。」
意味わからなくて笑ってしまう、そんな影山くんを楽しませれるような芸持ってないけど?
「わかんねぇけど、なんかお前といると面白いから。」
「それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。」
「ホントかなぁ。」
雑な返しに距離縮まったなぁ。と嬉しく感じる。
警戒しがちな彼の心にこれだけ近づけた人間は、どれくらいいるんだろう。
なんて考えてしまって、人と比べるものじゃない。それにバレー部の皆さんには勝てないだろう。そう感じて、ちょっとだけ落ち込んだ。
◇
「ふんっ…………ぬぉっ…………。」
夏休みが明けて、始業式。
結局マネージャーの話は断ってしまい、少しだけ悲しそうな顔をしてた影山くんが忘れられなかった夏休み。
マネージャーを引き受けなかったお陰で、私と影山くんは久しぶりの再会だ、マネージャーやってたら毎日でも会えたのかなぁ。
なんて考えてしまって、まるで恋じゃないか。そう笑ってしまった、笑ってしまうぐらいな感情だった。
そして始業式の今日、何故か朝から先生にプリントを渡され私は今日も掲示板の前で背伸びをする。
朝っぱらから掲示係をこき使いよって…………許さん……先生許さん…………。
今日も届かなくて、ふくらはぎあたりがつりそうになる。椅子を使わないのは、とりあえず泣け無しのプライドのため。
しかしながら届かぬものは届かぬので、諦めると大体このタイミングで現れる彼。
「久しぶり、影山くん!」
「久しぶり。……また届かないのか?」
にやにやと笑いながらこちらを煽ってくる彼とは随分と仲良くなった気がする、この顔を見て腹立つぐらいには仲良くなった。
「届かないんです!!……お願いします。」
「仕方ねぇな。」
影山くんって背伸びした事あるのかな。なんて思うほどに大きな影山くん。彼が届かないものなんてあるのだろうか、あるのならそれは日本社会に適してないな。
「ちゃんと課題やってきた?」
「………………おう。」
「目が合わないけど……?」
目というか顔ごと逸らしている影山くんに笑えてくる、なんなんだその誤魔化し方は。
「そう言えばちょっと焼けた?なんか黒くなってる気がする。」
「そうか?……あぁでもちょっと外出てたからな。」
「そうなの?このあっつい中?」
「部活でな。」
大変だなぁ、こんな溶けちゃいそうなぐらい暑かった夏休みでも外出ないといけないなんて。
「苗字は?」
「うん?」
「夏休み、何してた?」
「うーん…………友達と遊んだり、家の中でゴロゴロしたり…。」
「太ったか?」
「え!?嘘!?」
顔やお腹を触る。……確かにお肉ついたかもしれない……。
「……ははは、嘘。そんな変わってないように見える。」
「…………なんともショッキングなジョークをありがとう。」
背筋がヒヤッとしたよ、凄く。正月太りならぬお盆太りかと。
「影山くんは部活ばっかりだった?」
「……そうだな。部活の人としかほとんど話してねぇかも。」
「まじですか。」
「まじだ。」
驚く私に笑う影山くん。なんとも部活熱心な事で……帰宅部である私からしたら想像出来ない。
「大会とか近いの?」
「……まぁ、近いか?10月にある。代表決定戦。」
「10月かぁ……あと1ヶ月くらい?じゃあ部活忙しそうだね。」
「ん。」
「でもだからって課題やらない理由にはならないのでは……?」
「……うぬん。」
いやだからうぬんって、どういう感情……?