どう見えますか

「……ふあぁ。」


自然と目が覚め、体をベッドから起こす。


影山くんと一緒に住み始めて1ヶ月が経過した。


最初こそ価値観のズレや生活リズムの違いから話し合う事もあったが、影山くんは昔と変わらず非常に素直で私の言ったことに反論した事は無かった。


その上私が住みやすいよう私が前の家から持ってきたベッドより遥かに高級な物を用意してくれたり、調理器具など足りないものも全て買い揃えてくれて、本当に頭が上がらない。


それなのにあくまで私達は対等だと言わんばかりに、一つ一つの事にお礼を言ってくれる。ご飯を作った時や洗濯物を片付けてる時など。


最初こそ同級生のパンツを洗う日が来るとは……なんて気持ちで洗っていたが、こちらも一応良い大人だし、同棲の経験も相まって慣れるのに時間はそうかからなかった。


そんなこんなで1ヶ月。今も笑い声の絶えない家で私達は生活している。


のだが、


「ご、ごめん!!寝坊した!!」


「おはよう。大丈夫、朝飯こんなんしか用意出来なかったけど良かったか?」


「本当にごめん……!!ありがとう、助かる!!」


休日だと言うこともあって寝過ぎた今日。


自分だけでは無く影山くんの分まで朝食を用意しないといけないのに、寝過ごすとは。居候の意識が足りない自分に血の気が引く。


しかしながら不格好ながらも朝食を準備して、今日もかっこよく笑う影山くんにときめかない人なんているのだろうか。


「なぁ、今日出掛けねぇ?」


「え?いいよ、暇だし。どこ行く?」


「どこが良い?」


「あれ、行きたい場所があるのかと思ったのに。」


「無い。」


「無いんかい!」


なんじゃそりゃ、意味不明な影山くんに笑うと目の前でパンを口に運んでいた影山くんも笑う。


「なんか苗字と出掛けたくなって。」


「よくスーパー一緒に行くじゃん。」


「スーパーじゃなくて、もっと休日っぽいところ。」


「えぇ?どこ?…………あ、じゃあさ、私服買いに行きたかったから買い物付き合ってもらっても良い?」


「ん、わかった。」


「やった!!」


世界の影山飛雄をただのショッピングに連れ出す女って強過ぎんか?なんて想像して笑ってしまう。


そして笑う私を見て変な顔してんぞ、と引いた顔して言ってくる影山くんに怒るまでがワンセットだ。





「……いつも思ってたけど、」


「?おう。」


「影山くん、目立つよね……。」


「…………そうか?」


そう言って首を傾げる帽子とマスクをつけた影山くん。


中々こんなに大きな人は見ないし、今となっては体つきもその辺の人たちとは遥かに逞しい。


それにマスクと帽子の隙間から見える目元は学生の頃から変わらず凛々しくて、見る人が見れば影山選手だってわかるだろう。


「……今更になってちゃんと同級生に見えてるか心配になってきた。」


「お前成長しなかったもんな。」


「親子に見えるかな……?辛い。」


「抱っこしてやろうか。」


「結構です!!!」


そう言うとくつくつ、喉を鳴らして笑う影山くん。馬鹿にしおって……!!


「……あ、あの、影山選手ですか!?」


影山くんを睨みつけていると聞こえた声に振り返ると、興奮した様子の男の人が立っていた。


「……あ、はい。」


「う、うわ!!こんな所で会えるなんて…………その、いつも応援してます!!」


「……ありがとうございます。」


うわぁ、す、すっごい。有名人って感じがする!!


お礼を言った影山くんは、少し大人びていてそれでいて優しく微笑んでいて、言われてるのは私じゃないのに顔に熱が集まった。


「で、出来ればサインとか……!」


「大丈夫ですよ、……ペンとか持ってますか?」


「…………あぁ、こんな時に限って!!」


鞄を漁って、ペンが無かったのか悲しそうな顔をするファンの方。


私は慌てて影山くんに、自分が持っていたペンを差し出す。


「これ使って?」


「ん、助かる。……どこに書きますか?」


「え、えっと、じゃあここに!!」


差し出したのは持っていたハンカチ。そこにサラサラと慣れた手つきでペンを走らせる影山くんはただただかっこよくて、


「どうぞ。……これ、ありがとな………………どうした?体調悪いのか?」


「え!?な、何が!?」


「顔赤い。」


真顔で指摘されて、更に顔が熱くなる。は、恥ずかしい!!


「ぜ、全然!!大丈夫!!超元気!!!」


「あ、あの!ペンありがとうございました!!」


「い、いえええ!!!全然!!お役に立てて良かったです!」


「……優しい彼女さんですね、デート中失礼しました!!」


へ?


ぽかん、と口を開けて固まる。え?か、彼女…………!?


「あ、え、えと、あの人何かかんちが」


「良かったな。」


「え?」


被せられた言葉に首を傾げる。


「親子じゃなくて、……俺の彼女に見えたみたいで。」


にぃ、と歯を見せて笑った影山くんに、またも心拍数が急上昇。


「ほら行くぞ、服買いに行くんだろ?……人多いし手でも繋いでやろうか?」


なんて言ってにやにやする影山くんは完全にからかっている、親子的な意味か彼女的な意味かわからないけど、とにかくからかってる。


「…………結構です!!!」


ふん!!と怒りながら出した声は、影山くんの笑い声にかき消された。

top ORlist