試合の君と外の君
「か、………………かっこいい……!!!」
思わず呟いてしまう程のかっこよさ。
汗を垂れ流しながらも勝利を収めたアドラーズ。そんな中で影山くんは私に視線を寄越し、なんとも色っぽい笑みを浮かべた。
え、ええ、え、えっっろ!!!な、なんじゃその色気は!?汗も相まってとんでもないものを見ている気持ちになる。
テレビで見るより遥かに近い距離に、プレーにばくばくと心臓は忙しなく動いた。それもそのはず、影山くんが用意した席は関係者席で。普通にチケット買うより遥かに近い。
こんな凄いとこ私が座って良いのだろうか……!?感は否めなくて、今も尚色気の化身かのような影山くんの視線を独占してしまって申し訳ない!!も、もっとファンサしてくれ!!私なんか見てないで!!
「……ん?お姉さん誰からチケット貰ったの?」
「ひょえっ!?」
「あぁ、ごめん!急に話しかけて。今日の試合出てる人知り合い多いからさ、誰からチケット貰ったのか気になって。」
あとお姉さん可愛いから誰かの彼女だったりするかもって思ってね。なんて言ってニヒルな笑みを浮かべるお兄さんこそ誰なんですか。
スーツを着てるので恐らく関係者なのだろうが、見た目からしてそこまで年上には見えない。なので話しやすそうに見える。
「あ、えっと、影山く…………影山選手から!!」
思わず癖で影山くん、と呼びそうになったが慌てて訂正する。
「なるほど、影山くんからかぁ。」
「いや、あの、影山選手。」
「うんうん、影山くんがねぇ、珍しいなあいつが誰か呼ぶなんて。」
「ち、ちが!!影山選手に!!」
「ところで君は影山くんの彼女なの?違う?」
「違うし!!影山選手!!!です!!!!」
めっっちゃからかうじゃん???え??なんなのこのお兄さん!?
「あっはははは!!!面白いね君。」
「……あの、貴方こそどなたなんでしょうか。」
散々からかわれ、ジト目でお兄さんを見上げる。よくよく見ればこの人も相当背が高い。
「あぁ!申し遅れました。……こういう者です。」
スっ、と出してきたのは名刺。バレーボール協会。黒尾さん。
「影山とは練習試合とかよくやった仲でね、全国大会でも顔を合わせてたよ。まぁ今はこういう仕事してるもんだから今もそれなりに顔を合わせる仲。」
「そ、そうなんですか……。」
やたら大きいと思ったら、この人もバレーボールやってた人なのか。
「で?俺の事は話したよ。お姉さんは?」
「あ、私は苗字と申します。……影山くんとは高校の時ずっと同じクラスで仲良くって、最近東京で再会して試合に来ないかと誘われたので来ました。」
………………一緒に住んでる事は言わない方が良いよね?
言ったら言ったでへぇーーー???そうなのぉ、とにやにやにやにやして言う黒尾さんが目に浮かぶ。あれ?今初めて会ったのに失礼かな。
「へぇ!あいつが女の子と仲良いなんて。珍しいな。」
「……やっぱり今でもそうなんですか?高校の時もモテてはいましたけど、ほとんど話してなくて。」
「そうだねぇ、あいつが女の子と仲良くしてんのなんか見た事ないな。それにテレビとか雑誌の撮影なんかじゃ本当に無愛想でな!!」
「うわ…………想像出来る…………。」
「おっもしれぇ顔してんのよこれが!!カメラマンさんとかは苦労してるみたいだ。」
「でも影山くん顔が良いですもんね、撮りたいですよね。」
なんかどこかのニュースで見た気がする、影山選手が表紙を飾った雑誌が爆売れしたって。
「そうそう!!あいつイケメンだからな、売れるんだよ。金が動くんだよなぁ。だから皆こぞって影山に頼みに行くけど、撮影してみて断念すんだよなー!!」
ケタケタ楽しそうに笑う黒尾さん。その、それはバレーボール協会として良いの……?日本代表が無愛想で写真撮れないって良いの……!?
「良ければ苗字さん、俺と連絡先交換しない?」
「え?」
「あ、嫌なら全然良いよ。なんか君面白いからさ、それに影山の関係者なら色々試合の情報とか教えてあげれるし、良ければ。」
確かに黒尾さんは協会の人、と言うより影山くんの事からかうお兄さん。と言う印象の方が強い。それに面白い。
「いえ、嫌だなんてそんな!交換しましょ、」
「何をだ。」
「「うわぁ!?」」
私と黒尾さんの間から顔を突き出したのは、影山くん。
なんだか不服そうに唇を突き出しているが、どうしたんだ一体。