愛おしい

「影山くん、明日の夜なんだけどさ飲み会あるからご飯は自分で温めてもらってもいい?」


「……?おう。わかった、珍しいな。」


「そう、友達の少ない私にしては珍しいのよ。」


「んな事まで言ってねぇだろ。」


そう言って笑う影山くん。


「会社での飲み会があってさ、いつもは割と飲み会苦手だから断って帰って来るんだけど、いい加減参加しろって言われてて……。」


「……大変そうだな。」


「うん……だからごめんね。」


「ん。……帰りづらかったら俺呼べよ。」


「え?」


「彼氏役でも親戚役でも、とりあえず迎えに行ったら帰らざるを得ないだろ。」


「い、いやいや!!そこまでしてくれなくてもだいじょ」


「うるせぇ。それに夜道は危ない、呼べ。絶対呼べ。わかったな?」


「うっ……。」


「わ か っ た な ?」


「う、ウス。」


半ば強制的に頷かされる。今日も美形が怒ると怖いのは変わらないのである。





「苗字さーん?苗字さーん?大丈夫ですか?」


「ん…………うん……。」


「もー、お酒苦手なんですから飲み過ぎないで下さいよ!」


「ごめん…………。」


ガンガンと痛む頭を抑えながら、心配してくれている後輩に頭を下げる、ごめんよ。


「タクシー呼びます?帰れます?」


「え?苗字さんもう帰っちゃうのか?2軒目は?」


「こんな状態で行けないですよ!!」


そーだそーだ!!と怒りたい私の代わりに怒ってくれる後輩ちゃんには頭が上がらない。


とは言え彼女は2軒目に行くだろうからここで引き止める訳にもいかない。


「ごめん、大丈夫。お迎え頼むから、」


影山くん……影山くん……とスマホで連絡先を探していると驚かれる。


「え!?苗字さんもう新しい彼氏出来たんですか!?」


「かっ……!?か、彼氏じゃない!!」


仲の良いこの子には前の彼氏と同棲までして別れた事は話してある。


「え?じゃあ友達とか?」


「そ、そう!!友達!!!」


一緒に住んでるけどね、なんて事は口が裂けても話せない。ましてやとんでもないイケメンで、なんならテレビにも出てる有名人なんて絶対言えない。


「だから大丈夫だよ、2軒目行っておいで。」


「うーん……でも苗字さん酔ってるじゃないですか、足元も覚束無いし……。」


「ちゃんと家まで送って貰うから大丈夫、ありがとう!」


「……そうですか?じゃあ気をつけて帰って下さいね。お疲れ様でした!」


「うん、お疲れ様!」


最後まで心配そうにしていた後輩ちゃんを見送り、改めてスマホから影山くんに連絡を飛ばす。


酔ってる、のかな。あんまりそんな気はしてないけど確かに頭痛いけどふわふわもしてるし、いつも通りでは無いのは確かだ。


『もしもし。』


「もしもし、影山くん?」


『ん、飲み会終わった?』


「終わったよ、……お迎え頼んでも良いですか?」


『おう。場所どこだ。』





「…………あ、影山くん!」


駅前のベンチに座って待っていると、目立つ高身長を見つけて声をかける。するとこちらに向かって走ってくる影山くん。ロードワークついでだったのね。


「…………?結構飲んだのか?」


「え?なんで?」


「顔真っ赤だぞ、電話貰ってから結構経ってるのに。」


そう言ってほっぺたを触られる、影山くんの手がひんやりしていて気持ち良い。


「……っふ、猫みてぇ。」


「へ?」


「俺の手気持ち良いのか?」


「え、あ……うん、冷たくて。」


無意識に擦り寄っていたのだろうか、私のほっぺに手を当てながら笑う影山くんはいつもより至近距離で、私の体温は更に上がった気さえした。


「ほら、帰るぞ。」


「うん。」


影山くんの手を取り座っていたベンチから立ち上がるが、


「う、わ!!」


ぐにゃ。と足が支えきれずに千鳥足。


「うお、」


それに対して流石の反射神経で抱き留めてくれた影山くん。


「ご、ごめん!」


「いや。大丈夫か?」


「うん、やっぱり飲みすぎたみたい。」


心配そうに眉を八の字に下げる彼を見ていて、どきどき胸がうるさい。


心配してくれて嬉しい、迎えに来てくれて嬉しい。ふわふわとした頭で影山くんの全てが愛おしくなる。


「歩けるか?」


大きな彼の腕の中に入りながらそう聞かれたが、なんだか素直に言いたくなくて


「……歩けない。」


困らせたくて、影山くんに抱きついた。


すると聞こえた忙しない音。


影山くんの、鼓動。


「…………ふふ、照れてる?」


「は!?照れてねぇよ!」


「だって心臓の音大きいし速い。」


「…………うっせぇな。」


そう耳まで赤くしてそっぽ向いた彼に愛しさが溢れる。


彼のいちばんは私が良いなぁ。


それが友情か愛情か、私にはわからなかった。

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