試してみた
「影山の好きな人って名前じゃないの?」
「……うん?」
目の前に座る友達はもぐもぐとご飯を咀嚼しながらそんな事を言い放った。なんだって?
「だって影山が女子の前で笑ってんのほとんど見た事ないし。名前の前ぐらいじゃない?」
「えぇ?そうかなぁ。でも影山くんほっぺ抓って来たり、頭掴んできたり痛いことしてくるけど……。」
「…………ほら、少女漫画でもいるじゃん。好きな子にちょっかい出しちゃう系の男子。」
友達に言われて、思い出してみる。…………確かに。
「…………いるね。」
「でしょ?そういう感じよきっと。」
「うーん……でもなぁ…………影山くんが私の事好きなようには全然見えないしなぁ……。」
「それはあんた、名前自身が恋した事無いからわからないに決まってるじゃん。」
「確かに!!」
友達の言い分はごもっとも。私に判別つくはずがない。
「じゃあ、確かめてくる。」
「は?どうやって。」
「影山くんが本気で私が痛がることをするかどうか。好きだったらちょっと痛いぐらいまでで止めてくれそうじゃん。でもそうじゃなかったら本気で痛めつけてきそう。」
「あんたの中の影山ってどんなイメージよ。印象悪すぎない??」
「そんな事ないよ!!割と良い人だよ!!じゃあ行ってくる!!」
「え、それどうやって確かめるの。」
◇
「という訳で腕相撲をしよう、影山くん。」
「どういう訳だ。」
今日も元気にヨーグルトを飲んでいる影山くんの隣に腰掛ける。
「友達と話しててね、影山くんの好きな人が私だった場合、」
「ぶふっ!?」
「うわぁ!?だ、大丈夫!?」
説明しようとした途端ヨーグルトを吹き出した影山くん。大丈夫か!?
「げほっ……げほっ…………お前……今なんて言った……。」
「か、影山くん!!顔が!!凄く凶悪な顔になってるよ!!」
「うっせぇ!!お前今なんて言った!!?」
「影山くんの好きな人が私だった場合。」
「………………はぁ。」
なんで言われた通り2回言ったのに、溜息つかれなきゃいけないんだ。
「…………で?」
「あ、それでね、腕相撲をして、影山くんが私の事好きだったら手加減してくれると思うんだ?本気でやったらなんか折られそうだし。でも好きじゃなかったら折りにくるかなぁと。」
「そうか、腕を折られたいって話だな?」
「ち、違うよ!?」
遠目に見ていた友達の、それを言ってしまったら元も子もないのよ……と言う心の声なんて聞こえる筈もない私は事の概要を説明し、影山くんの怒りを買っていた。
「とりあえず!腕相撲!!」
「…………なんでお前は両手を構えてんだ。」
「流石に片手だと危険かなって……だから両手。」
「最初から卑怯じゃねぇか、ふざけんな。」
「ふざけてない!!正当防衛!!」
「ならなんで腕相撲やらないって選択肢にはならないんだ。」
「ちょっと試したくて……。」
「……手、痛めても知らねぇからな。」
そう言って私の手を握った影山くんの手は大きくて、それでいて凄く綺麗で。
「……凄い、手のケアとかやってるの?」
「あぁ、バレーの為にな。」
「凄い!!私の手よりずっと綺麗!!」
「お前の手、乾燥してるな。……家事やってるからか?」
「かなぁ。ハンドクリーム塗ってるんだけど……。」
「……俺の使ってみるか?」
「え、いいの?影山くんの手すべすべだもんね!!何使ってるか気になる!!」
「ん。また後でな。」
やっぱり影山くんは優しいなぁ。なんて思った後、友達に審判してもらって腕相撲した結果、
「いっっっっっ!!??!」
「だから言っただろ。」
瞬殺。まさに瞬殺。抗う余地無しって感じで影山くんのパワーと無慈悲さを見せつけられて、
優しいなんて嘘だ、私の事好きなんて嘘だああ!!と友達に泣きついた。