きっかけは君から

「あ、おはよう。影山くん。」


「はよ。……英語の課題、見せてくれませんか。」


「えぇ?またやって来てないの?」


「…………すまん。」


「しょうがないなぁ。バナナオレ1本で手を打とう。」


「助かる。」


こうして昨年度のように影山くんと話せるようになったのは、夏休み前だった。


「影山くんは夏休みは去年同様部活祭り?」


「そうだな、遠征とかあるし。」


「そっかぁ。」


「苗字はまた家でごろごろすんのか?」


「その予定だよ?」


「9月になって太ってたら、気なんて使わずにハッキリ言うからな。」


「ひ、酷い!!……のか?ん?優しい?」


「優しいだろ。すげぇ優しい。」


「本当……?それ優しさ……?優しさという名の暴力では……?」


太るなんて事とは無縁そうな影山くんに言われると、なんか自分の生活が恥ずかしくなるし、だらしなく感じる。いや、だらしないのだけれども。


「影山くんって太った事ある?」


「無い。」


「ひぃん。」


「自分から聞いといてなんだよそれ。」


「確かに太った影山くんって想像出来ないかも……むしろ割れてる?腹筋割れてたりする?」


「……まぁ、一応。」


「え!!すご!!かっこよ!!」


「……別に。それなりに鍛えてれば大体割れる。」


「そうだとしても、それだけ鍛えてるのは凄いよ。」


そう言うと、少しだけむず痒そうな顔をして、……ん。と言った影山くんはちょっとだけ可愛くて、笑ってしまった。





「終わったぁ!!」


終業式も終わって、伸びをする。さーて帰ろう。夏休みだぁ!!


「苗字。」


「あ、影山くん。じゃあまたね!また9月に!」


「…………あ、……その、」


「…………ん?」


「……夏休み中、連絡しても良いか。」


影山くんの言葉に、目を瞬かせる。


「いいよ?え、なんで?今更?」


「…………うっせぇよ。じゃあな!!」


「えぇ!?……ま、またねぇ。」


日頃だって課題がわからなくて連絡して来たりするじゃないか、ノート取ってなかったから送ってとか。


何を今更……しかも何故怒る……?


友人の謎行動に首を傾げながら家路に着いたが、


その数日後、家で宣言通りごろごろしてる時に影山くんからの連絡は来て、


『猫に会った。』


と言う言葉と、残像しか無い猫の写真を見てお腹が痛くなるぐらい笑った。何これ!?猫っていうか猫だったものって言うか。


それに課題やノート、など学校に関すること以外で連絡が来たのは初めてでちょっと驚いた。影山くんはテレビも見ないし、雑談と言ってもわざわざ連絡する程じゃないし。


そんな間柄だった私達にこの猫の残像は中々の衝撃をもたらして。


どんな顔して送ってきたのかな、なんで送ってきてくれたのかな。なんて考えては頬が緩んだ。


それからと言うもの、影山くんは度々夏休みでの様子を連絡してくれるようになり、それが毎回シュールで面白くて。


東京遠征した時も連絡してくれたが、もうなんかこの写真どうやって撮ったの?的な写真で。


残像のオレンジ髪しか残ってない日向くんとかとても怖そうな坊主の人とか、すごくウザそうな顔したプリン頭の人とかで、写真なのになんか騒がしい。笑いすぎてお腹痛かった。


そんなこんなで楽しい様子を影山くんが送ってきてくれたお陰で、私は夏休みの間も影山くんと話したような気持ちになり寂しくなかった。

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