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元−−中学校女子バスケ部主将、名字 名前(オールラウンダー)。
彼女の功績は輝かしいものだった。

彼女のコート上での活躍は目覚しく、相手の特性を見ればどう動き、どう戦うのかを先読みして封じ込めてしまう。
突出した選手が少ない中学女子バスケットボール界、最強と呼ばれる。

そんな彼女は中学三年の全中後、バスケコートから引退した。

その理由は誰も、いざ知らず。



ーーー



「なにその恥ずかしい記事…」

「あなたの記事よ。まさかこんなところにいるなんてね…」

「私もまさか新設校でバスケ部に…それもまさか男子の方に声かけられると思わなかったわ」


相田リコと同じクラスになったのが運の尽きである。
男子バスケットボール部が新設校で新設され、まさか同学年の女子が監督に任命されるとは思いもよらなかった。
そしてそこに名前まで誘われるとは思わず、なんのために誰も女バスのいなさそうな近隣の新設された学校へ進学したのか。

名前は、バスケから手を引いた。
それをこの月バスの記事でも分かるように書いてあるというのに、何故声をかけてくるのか。


「(女の私を誘っても意味ないでしょ…)」

「ねえ、あなた、うちのバスケ部で助っ人やらない?」

「…何言ってんの?男子バスケ部でしょ。同好会じゃないなら女子は入れないはずだけど」

「もちろんマネージャーとしてよ!あ、でもマネージャー業っていうより、選手の指導っていうか…」

「それなら相田さんがやるんでしょ。そのための監督なんだから」

「私はバスケの動きまでは指導者としてまだ未熟だわ。フィジカル面はメニューで鍛えられるけど、どうしても技術的な面では劣る…あなた、相当な選手だったんでしょ?」


売り言葉に買い言葉である。
喧嘩ではないけれども、やる気のない名前に対してリコは引かない。


「おーリコ。何やって…ん?」


リコと名前が話していると、高校一年生にしてはでかい男ーー木吉鉄平が現れた。
どうやら放課後になり、部活に行くためにリコを呼びに来たようだ。
そんな木吉は、名前を見てハッとした表情を浮かべた。


「き、キミは…!」

「(木吉鉄平か…なんか彼も月バス出てたな。『無冠の五将』とかいう厨二くさい呼称付いてた)」

「……誰だ?」


木吉の言葉に、3人がいる空間には風が吹いた。
今の反応はただの匂わせで、何でもないのである。


「…ほら、知られない程度なんだから大したことないの。もう私帰るから」

「え、ちょ!待ってよ!ちょっと鉄平、あんた女バスのことは何にも知らないわけ!?」

「いやぁ…どっかで見たことある気がしたんだがなぁ」

「だから!これよ!中学女バス界、最強と呼ばれた選手、名字 名前!」

「なんだと…!」


リコは木吉の顔に名前の記事の部分を押し付けると、席を立って帰宅しようとする名前を追いかけた。
木吉はその記事を見て、ふむ…と考え込んでいた。



ーーー



《いいじゃない、あなたどうしてバスケ辞めちゃったの?故障したようなことは調べても出てこなかったわ。うちは本気で日本一を目指してるのよ!この間の屋上での宣言を見た通りよ。ねぇ、少し考えてみてくれないかしら!》


リコの言葉を帰り道に反芻しながら帰宅する名前は、ひとつため息をついた。
名前がバスケを辞めてしまった理由はただ一つ。

飽きてしまったのだ。

名前はかつて、バスケが大好きで、だからこそ最強と呼ばれるまでに上り詰めていた。
それなのに、男バスとは違い、女バスは技術もフィジカルも劣っている。
海外に行けばまた違ってくるのだろうが、名前は海外に進出してまでバスケをしようとは思わなかった。
彼女は繊細なのだ。
知らない土地、知らない人、知らない文化ーーそんな中で一人でやっていけるとは思っていない。

男バスはとても良い。
月バスを読んでいる際、中学では『キセキの世代』『無冠の五将』と称される選手がいる他、高校の記事ではトピックに乗る優秀な選手が無数に存在した。

それに比べ、女バスの強豪はどことなく頭角もなく、決まった中学・高校が優勝していることはない(中学は名前がいる間は決まって優勝していたが)。

男の子が、本当に羨ましかった。


だから、誘い自体はきっと、名前自身にとって悪いものではないーーが。


「(試合に出られるわけでもないのに、やってもねー)」


名前はまたひとつ、ため息をついた。