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そんなことがあったのも、去年の出来事だったな、と。
名前はふと頬を緩めた。


「?名字、どうかした?」

「なんでもないよ。で、何だっけ」

「聞いてなかったんかい!」


小金井のツッコミに名前はごめんごめん、と苦笑いをしながら謝罪した。

名前自身、あの時は日向と同じように腐っていたのだと思っている。
少し恥ずかしい話だ。
今となっては絆され、誠凛の男子バスケ部のコーチのような存在として、名前の培ってきたバスケの技術を伝授している。


「これから勧誘のほうに一緒に出て欲しいって話。名字からビラ配ってもらった方が引っかかりが良さそうだしさ」

「相田でいいでしょじゃあ」

「この出不精!名字のほうがてきにn…」

「おいコガやめとけ…頼む名字、良さげなやつ引っ張ってきてほしーんだよ」


顔が強張りつつフォローを入れる日向。
まずったという顔でチラリとリコを見る小金井。
心配そうにオロオロする水戸部。
ニッコリと笑いながら圧力を出すリコ。

その光景にため息のような笑いを零すと、名前は「分かったよ」と言って席を立ち、ビラを手に取ると校門へ向かって歩き始めた。

その後ろを伊月が追うように歩き、その他のリコ、日向以外のメンバーも続いた。


あれから一年経った、桜が満開の春の日。
寂しさのような切なさのような、でも希望に満ちた目をした名前が、空を見上げた。



ーーー



「そこの、本読んでる…一年生」


名前が声をかけたのは、本を読みつつうまく人混みを避けながら歩く、小柄な少年だった。
つい先日まで中学生だった面影を強く残した存在感のない彼は、その声かけにふと足を止めた。


「…僕のことでしょうか」

「そう。これ、もらって」


差し出されたのは、バスケットボール部員募集のビラだった。
少年はそれを受け取ると、ありがとうございます、とだけ告げて、それからは押し黙ったように名前を見つめた。


「…何か?」

「…女子全中優勝校の、主将さんですよね」

「あ、うん。あなたはバスケ部?」

「はい。黒子 テツヤと言います」

「そっか。じゃあ、入部してくれると嬉しいな。私は名字 名前」

「よろしくお願いします。バスケ部のブースはどこにあるんでしょうか?」

「もう少し奥の方だよ。そこの掲示板にあるから、確認して行ってね」

「ありがとうございます。では」


バスケをするには小柄な少年は、それなりの挨拶を交わし、また歩き始めた。
背も高くなく、細身であったが、独特の雰囲気を持つ彼に名前は声をかけた。


その彼が、誠凛高校バスケ部の未来を切り開く人物となることを、彼らはまだ知らない。