3
そんなことがあったのも、去年の出来事だったな、と。
名前はふと頬を緩めた。
「?名字、どうかした?」
「なんでもないよ。で、何だっけ」
「聞いてなかったんかい!」
小金井のツッコミに名前はごめんごめん、と苦笑いをしながら謝罪した。
名前自身、あの時は日向と同じように腐っていたのだと思っている。
少し恥ずかしい話だ。
今となっては絆され、誠凛の男子バスケ部のコーチのような存在として、名前の培ってきたバスケの技術を伝授している。
「これから勧誘のほうに一緒に出て欲しいって話。名字からビラ配ってもらった方が引っかかりが良さそうだしさ」
「相田でいいでしょじゃあ」
「この出不精!名字のほうがてきにn…」
「おいコガやめとけ…頼む名字、良さげなやつ引っ張ってきてほしーんだよ」
顔が強張りつつフォローを入れる日向。
まずったという顔でチラリとリコを見る小金井。
心配そうにオロオロする水戸部。
ニッコリと笑いながら圧力を出すリコ。
その光景にため息のような笑いを零すと、名前は「分かったよ」と言って席を立ち、ビラを手に取ると校門へ向かって歩き始めた。
その後ろを伊月が追うように歩き、その他のリコ、日向以外のメンバーも続いた。
あれから一年経った、桜が満開の春の日。
寂しさのような切なさのような、でも希望に満ちた目をした名前が、空を見上げた。
ーーー
「そこの、本読んでる…一年生」
名前が声をかけたのは、本を読みつつうまく人混みを避けながら歩く、小柄な少年だった。
つい先日まで中学生だった面影を強く残した存在感のない彼は、その声かけにふと足を止めた。
「…僕のことでしょうか」
「そう。これ、もらって」
差し出されたのは、バスケットボール部員募集のビラだった。
少年はそれを受け取ると、ありがとうございます、とだけ告げて、それからは押し黙ったように名前を見つめた。
「…何か?」
「…女子全中優勝校の、主将さんですよね」
「あ、うん。あなたはバスケ部?」
「はい。黒子 テツヤと言います」
「そっか。じゃあ、入部してくれると嬉しいな。私は名字 名前」
「よろしくお願いします。バスケ部のブースはどこにあるんでしょうか?」
「もう少し奥の方だよ。そこの掲示板にあるから、確認して行ってね」
「ありがとうございます。では」
バスケをするには小柄な少年は、それなりの挨拶を交わし、また歩き始めた。
背も高くなく、細身であったが、独特の雰囲気を持つ彼に名前は声をかけた。
その彼が、誠凛高校バスケ部の未来を切り開く人物となることを、彼らはまだ知らない。