笑顔も涙も見つめてきたよ
とんでもない絶望を感じながら、たくさんの汗と涙を流した。
それが二年生になって、チームメイトたちと必死に走って、やっとここまで来たんだ。
そうするまで、見ないと決めていたもの。
そうなるまで、閉じ込めていた想い。
今日ならそれを、やっときみに伝えても、いいだろうか。
WC決勝戦、対烙山高校の試合。
何度だって諦めかけたけど、止まることなく諦めずに動き続けた。
そして俺たち誠凛高校は、念願の全国制覇を成し遂げたのだ。
熱気に囚われたその会場で、優勝の喜びをチームメイトと分かち合い、興奮も冷めやらぬまま、どうしてもこの気持ちを伝えたい人が頭から離れなくて、俺は観客席を見渡した。
ふと、目に留まる。
タオルを目元に当てて、こちらを見つめる一人の少女。
彼女は俺と目を合わせると、優しげに、切なげに微笑んで、そしてまた涙を流しているようだった。
「伊月」
「ん?ああ、なんだひゅう…「行ってこいよ。アイツのとこ」
え、と言いかけて、喉でその言葉が止まる。
日向は、じれったいような、嬉しいような、そんな顔をしていた。
その表情に俺は奥歯をぐっと噛み締めると、「ありがとう日向!」と言って走り出した。
「…ったく。これでやっと、アイツらも前に進めるな」
「日向はお節介だなぁ」
「うっせ!」
ーーー
はやる気持ちを抑えられなくて、観客席への道のりを走って行く。
今更抑えるなんてことは到底無理だった。
これまでずっと、こんなに我慢してきた。
どんな時だって俺は、きみのことを、
「伊月、」
ふと、階段を登ろうとしたその時、優しげな、震えた声が俺を呼んだ。
振り向けば、鞄を手に持って、目を泣き腫らしたきみが居た。
ほ、と思わず安堵の息を吐く。
どうやら帰ろうとしていたところだったようだ。
彼女に近づいて、いつもより少しだけ近い距離で足を止めた。
優しい色の瞳と目が合う。
「…名字」
「伊月…優勝、したね…!」
俺が名前を呼ぶと、そう告げた彼女は、また涙を流した。
何か堰が切れたように、ボロボロと止め処なくあふれ続ける。
綺麗に泣く、綺麗な人だ。
「…名字、ありがとう…ずっと、応援してくれて」
「そ、なっ…!私、観てることしか、できなくて…っ」
目標を達成するために、他には何も目を向けないと誓っていた。
だから、見つめることしかできなかった人。
触れることが、許されなかった人。
そんな彼女に、俺は初めて、
「いつも…そばにいてくれて、観ていてくれて、ありがとう。
ずっと、こうしたかった」
彼女の肩を、逃げられるくらいの強さで抱き寄せた。
そういえば汗臭いのに、なんてそんなこと、もう考えられても止められなくて。
でも彼女はぐすっ、と鼻を鳴らすだけで、逃げようとはしなかった。
俺と笑ってくれて、ありがとう。
俺と泣いてくれて、ありがとう。
ずっとずっと、そばにいてくれて、ありがとう。
「俺は、名字が好きです」
「…!……っ…もうっ…」
ひとつ文句のように言葉を紡ぐと、名字は俺の胸に顔を埋めて。
そして、背中に腕を回してきて。
ああ、それが答えなんだなって思って。
熱を胸に感じながら、彼女の頭を撫でた。
笑顔も涙も見つめてきたよ
(やっと今日、きみに触れた)