++SS

▽2017/04/18(Tue)
柏木翼と腹筋
 人間、趣味を楽しむのにも美味しいものを食べるのにもお金を稼ぐのにも体力と筋力が必要だと常日頃から思っている。これはただの持論だけれど。パンフレットが詰まった段ボール箱が持てなかったり、重ねられたお弁当を持つのに一苦労したり、階段で息が上がったり、これはプロデューサーをするにあたって由々しきことなのでは……と思い始めてから私は毎日筋トレをすることにしていた。
「……プロデューサーって、ちゃんと筋肉あるんですか?」
 あ、あの悪い意味じゃ無くて、と彼が焦ったように付け足す。
 棚の一番上に無造作に置かれた、経理をするために重要な書類が入っている箱に手が届かず、たまたま通りかかった柏木さんに取って貰おうとした。しかし私の思惑は外れて、彼私の膝を抱えるように抱き上げたのだ。いきなり高くなった視界に内心とても驚きながらも、無事それを取ることが出来た私はお礼を言った。その返答がこれである。
「……私、太ったように見えます?」
「あの、本当にそういう意味じゃ無くて、プロデューサーってオレよりずっと華奢だし、柔らかいし、強く触ったら折れてしまいそうで」
 彼の言葉にむっときた私は、彼の手を強引に自身のお腹に押し当てる。目に見えるほど腹筋は無いけれど、彼の思っているほどではないはずだと踏んだのだ。
「や、柔らかいです」
「いやもう絶対男性と比べたら柔らかいですけど、き、筋肉を感じませんか?」
「か、感じないです……ごめんなさい」
 彼が目元を下げる。かくなる上は実演しかない。私は素早く体育座りになると、今から腹筋をしますと宣言をした。何も知らない人から見られたらぎょっとされるだろうけど、私は私の筋肉の汚名を晴らさなければならない。なにせ最近やっとついてきた筋肉を愚弄されたのだ。もう悲しくてしょうがない。
 足押さえましょうか、と彼がしゃがみこみ、私の足を大きな手で支える。準備は整った。私は腕を胸に、床に背をつけて一回目の腹筋をしようとしたが、80度あたりまで上がった上半身が床に落ちた。
「え、まって、柏木さんむりですめっちゃ無理」
「途中まで出来てたのに……、どうかしたんですか?」
「顔が! 近い!」
 彼のきらきらとした整った造形のお顔が至近距離で見えて、もう自分の顔が申し訳ない。白い肌も垂れ目な目にふさふさと生える睫毛も、丁度良い厚さの唇も、そして近付いたときにふわりと香る彼のにおいも。何もかも整いすぎていて辛い。私は胸につけていた手で顔を覆った。

 もう止めましょう、と私が言うと彼が1回くらいはしましょうよ、と言うのでそれから何回か続けたけれど全然出来なくて、後から来た天道さんと桜庭さんにぎょっとした顔をされた後に笑われた。ソファの脚に足を引っかけたら普通に出来た。



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