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▽2017/04/23(Sun)
宇井郡と二人ラーメン
 チャーシューワンタン麺の大盛りふたつ。彼が横目でそう注文するのに、おいおい、と視線を遣るけれど、彼は君食べるでしょ、と私に視線を返すだけだった。
「私めちゃくちゃ食べる人に見られるかもしれないじゃないですか……」
「事実そうでしょ。君この前ビュッフェで見かけた時……」
「うわあああ、言わないでください!」
 この前のビュッフェとは、とあるホテルで催された春先の苺をふんだんに使った料理を出してくれるビュッフェのことだ。誘う友人が一人も居なかったので、一人で参戦してきたが、その際入り口から入ってきた宇井さんとハイルさんにたまたま鉢合わせしたのだ。デートかな、局内噂必須の大物カップルのデートの瞬間を見てしまった、と思いきやハイルさんは目をきらきらとさせて、宇井さんがやつれた顔をしていたので、その考えはしゅんっ、と収束した。ハイルさんに付き合わされてるだけだ、とすぐに分かったからだ。とりあえず近くには来ないで欲しい、と願を掛けながら、新しい食べ物を取りに行った帰り、両手にプレートを持った状態で隣に座っていた彼らとばちっと目が合い、あっ、と言われ、無事に爆死したのだった。
 チャーシューワンタン麺大盛り二つ!、と目の前に丼がくる。横には伝票。私は胡椒を出して彼の分の箸を手渡す。いただきます、と手を合わせて箸を割ればパチンといい音がした。胡椒を振りかけて、たっぷりのチャーシューとワンタンの下にある麺をほじくる。そのままずずっと口に運べば、一日ぶりの固形物の炭水化物の味がした。箸に麺を運ぶ手が止まらない。
「……君って見た目と伴わない大食いだよね」
「弁解させてください。このストレス社会で、もう食べることでしか生きている意味を見いだせないんです」
「それだいぶ末期だと思うよ……?」
 彼が呆れたように私を見る。
 どうして上官の宇井さんとこんな風に食事をすることになったのか、と言えば二人の意見が合致したからに過ぎない。私は立て込んでいた件が終わりまともな食事(出来ればがっつりとした炭水化物が食べたい)がしたかった。それに対し宇井さんはハイルさんと食べた気のしないパスタランチは勘弁だったという双方の考えが上手いこと一致していた。私が一人で資料を持ちながら歩いていたとき、そして彼が向かい側でハイルさんと何やら話をしていたとき、ちょうど視線が交差し、双方すぐに相手が炭水化物(がっつりとしたもの)を欲していることがすぐ分かった。あとからは意味が分からないほどとんとん拍子に進んだ。宇井さんから内線で呼び出しを食らい、周りの面々がお前一体何をやらかしたんだ、と怖々としている最中、指定された場所に財布とスマホを持って向かうと、開口一番に言われた言葉が、昼休憩が終わるまであと1時間弱しかない行こう、だった。ちなみにこうやって彼と食事するのはこれが初めてである。意味が分からない。
 粗方麺を食べ終えて、ワンタンとチャーシューに箸を伸ばす。丼の形状からしても思ったけれど、このお店なかなかにボリューミーかつ財布に優しいものを提供してくれる。流石宇井さんだ。お店の名前と場所はしっかり覚えた。
「宇井さん」
「ん?」
 彼はチャーシューを囓りながら疑問符を投げた。私も食べるのが早いと自分で思っているけれど、彼も早い。その細い体のどこに入るんだ、と半ば思いながら私は続ける。
「私僭越ながら思うのですが、」
「なに急に畏まって」
「一応畏まらないといけないと思って。こうやってお昼ご飯を一緒に食べる機会、正直これからもっとあるのではないか、と思うんです」
「それは思う」
「常に宇井さんに内線で呼び出しされるのも、変な噂を立てられかねないと思うんです」
「連絡先、交換しようか」
「話が早くて助かります。あと私が業務で先輩に絡まれて時間内に来られないような事態に陥ったら、」
「内線で呼び出す」
「うわ、さいこうありがとうございます」
 私はスマートフォンを取り出して、QRコードを表示した。
 



category:喰種

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