++SS

▽2017/04/26(Wed)
渡辺みのりとストッキング

※ボツ

 座らなければ見えない、座らなければ見えない、そう自分に言い聞かせるけれど、一度気が付いてしまったものは気になってしょうが無くなる。今月に入っていったい何回目だ。ストッキングも決して安くないのである。毎日使うものだから、余計に出費が痛い。爪、長いのかなあ。私はため息を吐きながら電線してしまったそれの、大きな穴ぼこを確認するように指で触れた。
「プロデューサー、それ……」
「あっ、渡辺さんおかえりなさい。何か不具合ありました?」
 ちょうど渡辺さんが事務室の扉を開けて入ってきた。今日は別室で演技指導のはずだったけど、使っているスタジオに不調でもあったのかな、電球が切れているとか空調がきかないとか。
「いや、スタジオは別に何も無いけど……それよりプロデューサーの……」
「見えます? やっぱり目立ちますよね、これ」
 渡辺さんが妙に狼狽えている。いつも飄々としている感じが見受けられる彼だけれど、こんなあからさまにびくっとすることもあるんだ。
 これから外に出るつもりはないけど、みっともないからスラックスに履き替えますね、と付け加えるように言うと、彼がおずおずと口を開いた。
「あの、すごくダメ元で言うんだけど、いいかな……?」
「? どうぞどうぞ」
「ストッキング、破らせてもらうことって可能……?」
「ッえ?!」
「あ、いや変な意味では無く、後学のために……」
「普通に考えて後学のためにっていったい……」
 割とドン引きである。なんだそのストッキングを破らせてって。彼が真顔で歩み寄ってくるので、少し背を仰け反らせて距離を取る。目線はじっと渡辺さんを見据えて、完全に臨戦態勢である。
「男のロマンだと思って……」
「渡辺さん足綺麗なんだから、自分でストッキング履いて自分の破ればいいじゃないですか」
「それ空しいだけじゃない……?」
 お願い、とじっと目を見つめられ、それに視線を逸らす。新しいストッキング買ってくるから。首は振らない。お昼ご飯二回。ちょっと揺らぎそうになる。食後のデザートも付ける。完全に懐柔されそうだ。私はそこまで言うのなら、と首を縦に振った。彼の表情がぱっと明るくなる。
「どうすればいいの、かな?」
「普通に爪立ててびりって破けばいいんですよ」
 今不在の山村さんの椅子を持ってきた彼は、私の向かいに座る。彼の指をストッキングの破れたところに移動させて、一思いにやっちゃってください、と言った。彼の指がストッキングの内側に入って、指を折り曲げて親指と人差し指でそれを挟む。びりびり、と少しずつ破れていくそれに彼が感嘆の声を上げる。傍目から見たら本当にやばい光景である。
「満足しました?」
「思ったより、ぐっと来るものがあるかも……」
「うわ、変態だ」



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