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▽2017/05/01(Mon)
柏木翼が狼狽える
 既に退勤時間になっている。私はトイレでこそこそと着替え、一度化粧を落とし、再度施した。いつもはどうせ動くと落ちるから、と化粧はさらっとして終わりだけれど、今日ばかりは少し気合いを入れなければなるまいとばっちりと化粧を施した。手持ちの鏡で確認すればアイラインとマスカラが決まっている。よし、と扉を開けると、そこに居たのはびっくりとした表情をした柏木さんだった。
「プ、プロデューサー……?」
「はい。そうです」
「すごい、いつもと違ってびっくりしちゃいました……! それに服も……」
「これから待ち合わせしていて。スーツで行くのもちょっと、と思って着替えたんです」
 似合います?、と普段は履かない今の時期にぴったりの、淡い色のミモレ丈のスカートの裾をひらりとさせれば、とっても、と彼が答える。
「プロデューサーもそんな格好されるんですね。可愛らしいです」
「褒めても何も出ませんからね?」
「あ、いえ、本当に似合っていて可愛いなあって思って……」
 髪を下ろしているのも似合いますね、と彼がべたべたに褒めてくるものだから、私はもう照れくさいのと恥ずかしいのと嬉しいのとでごちゃまぜな表情になっているに違いなかった。
「輝さんと薫さんも、見たら驚くだろうなあ」
「いやいや、行きませんよ? 見たら驚かれてデートか?ってとてもおちょくりそうじゃないですか、天道さん」
「えっデートなんですか?」
「高校の同級生と遊びに行くだけです! 今のところ仕事が恋人状態なので、デートなんてそんなそんな……! まっ、ちょ、柏木さんなんでスマホ構えて、」
「はい、笑ってください。」
 私が顔を隠す前に彼がぱしゃりと写真を撮った。今の顔絶対やばいので消してください!、と彼のスマホを取ろうとするけれど、身長差のせいで取れない。輝さんと薫さんに送信しますね、と彼がいつものおっとりとした口調で言うのに、「あーむり! むりです! やめて!」と最早敬語まで抜け落ちながら制止したけれどそれはかなわなかったらしい。
「あっすごいもう既読ついた」
「ほんとなんで顔面偏差値高い三人の間で、月並みの私の写真が共有されなきゃいけないんですか……公開処刑……」
「二人ともすぐにスタジオから来るみたいです」
「逃げていいですか?」
「プロデューサーが逃げそうになったら、追いかけてでも捕まえておけって」
「柏木さんと私じゃ手足の長さに差がありすぎて勝てない……」



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