++SS

▽2017/09/18(Mon)
プロデューサーが殴られたときの反応


 朝からあんまりツイてないなあ、と思ったのはちょっと柄の悪いお兄さんと隣になってしまったとき。満員電車に慣れていない、新品のリクルートスーツを着た女の子が横に居る。女の子が誤ってその人の靴を踏んでしまったとき、激昂した彼から殴られそうになった彼女を咄嗟に庇ってしまった。
 打ち所はそんなに悪くなかったけれど、頭と手すりがぶつかって地味に痛いし、その拍子に歯で口の中を切ってしまった。
 駅の化粧室の鏡で自分の顔を確認すると、若干ではあるけれど赤く腫れている気がする。あと血の味もする。今日は仕事したくないなあ、と思ったけれど行くしか無いのだ。今日は本当に駄目な日だ、と思いながら事務所へと急ぐ。




【桜庭薫の場合】


「おはようございますー」

 ガチャリと事務所のドアを開けると、彼が挨拶を返す。今日は確か、彼の所属するドラマチックスターズは午前からボーカルレッスンであったことを思い出す。それにしても早い時間だ。私はお早いですね、と彼に声をかけて席に座った。彼はコーヒーを飲みながら、雨の予報だったから早めに来たんだ、と返答する。
 私の顔を見た彼が一言、訝しげに尋ねた。

「……腫れていないか?」
「……分かりますか? 実は朝っぱらから殴られてしまって」

 彼に今朝のことを軽く話すと、彼がこちらに来る。

「君は座ったままでいい」
「あ、はい」

 顎を手で固定される。頬に触れられ、触られると痛いか?、と尋ねられる。それに少しと返答した。次に口の中を開くように言われてその通りにする。殴られた側に指が添えられ口の中を見られる。歯磨きちゃんとした気がするんだけど、ゆかりとかついてたらどうしようと内心はらはらする。次にぶつかった頭を撫でられて、スマートフォンの明かりで目の動きを確認された。

「一応、その子から冷えピタとか冷たい水とかいただいて、腫れは引いたかなって自分では思っていたり、」
「確かこの近くに朝早くから開いている内科があったはずだ。行くぞ」
「え、いいですよ。痛みも引いてきましたし、あと口の中切ってるだけですし」
「頭を打っているのが少々気になる」
「そんな大げさなー」
「……君は、この国にそうやって診察を怠って死んだ人間がいくら居ると思っているんだ?」

 元医者から言われると、ちょっとどころではなく脅し文句として最適である。付き添ってやるから早く来い、とボードから車のキーを彼が取った。







【天道輝の場合】
(法的なことはぐぐった程度の知識なのであしからず)

「だ、大丈夫か……?」
「見た目より全然痛くないんですよ、これ!」

 見た目詐欺しててごめんなさい−、と笑っていると、彼がそれでも痛そうだなと眉根を下げながら言った。レッスンの開始時間を少しオーバーしてしまって申し訳無く思った。一体どうしたんですか?、と柏木さんが尋ねてきた。それに口を開いたのは隣に居た桜庭さんだ。

「あんたらしいっていうか、しっかし災難だったな……」
「私もまさかこんなに大事になると思いませんでしたよ!」
「ちゃんと診断書は貰ったのか?」
「ああ、先ほど診察したときに」
「流石桜庭だな。あとは目撃者の言質か」
「一応、庇った女の子とは連絡先交換したんですけど。……天道さんさっきから怖いこと言いますね?」
「でかした」

 あと怪我の写真があれば良いな、と彼がぼそりと呟いた。それに桜庭さんがもちろんあるぞ、と返答する。車に乗る前に、正面から一枚、斜め横から一枚撮られたのだ。その時は一体何なのか分からずに居たけれど、先ほどからの一連の会話の流れで、写真を撮った意味も診断書を貰った意味も、そして目撃者の証言が必要な意味も何となく分かってしまって、さあっと顔が青ざめる。

「資格が剥奪されたわけじゃないからな。弁護士会入ってないから手続きが出来ないのは痛いけど、昔馴染みに頼めば書類作りの協力はしてくれるだろう。俺も手伝えばいいし」
「え、いやいやちょっと待ってください天道さん」
「そんなキレやすいやつなら、過去に何度か補導ぐらいされてる場合もあるし、まあ一番手っ取り早いのが逮捕歴があったり、過去に駅で事件起こしてる場合だな。要注意人物で顔写真が押さえられてる場合がある」
「そんな大事にしなくても……」
「何言ってんだ。傷害事件だぞ、これ。今回は怪我が軽かったからまだマシだったけど、この先庇ったことで顔覚えられてて逆恨みなんてされたらプロデューサーだって気が気じゃないだろ」

 天道、時間、と桜庭さんから急かされて流石にこんなに遅刻したらやばいな、と彼らがレッスンルームに急ぐ。
 頑張ってきてくださいね、と彼らを見送る。私だったら絶対敵に回したくない。少しだけ相手に同情した。







【渡辺みのりの場合】


 事務所のドアが開くと、おはようございますー、と言う癖が付いている。今回もその通りにしていると、本日何度目とも分からない、うわっ、という声が聞こえてきて、反射的に見た目酷いんですけど、そこまで痛くないんですよー、とにへらと笑った。
 そう言ってから相手方をしっかりと見れば、バイトの三人だった。

「お疲れ様です。次のお仕事まで時間ちょっとあるので、事務所待機ですよね」
「ああ、うんそうだけど。プロデューサー、その怪我……」
「あー、今朝殴られたんですよ。あと反動で頭も手すりにぶつけてしまって」

 誰がプロデューサーさん、痛くした?、とピエールさんが悲しそうな表情で私に尋ねる。今朝から何回と説明した句を私はそのまま話した。

「それってどこの駅?」
「えっと、事務所の最寄りですね」
「ふーん、舎弟に居た気がするな駅員」

 シャテイ?、とピエールさんが首を傾げたのに、渡辺さんがあっ間違えた!、と言う。後輩だ後輩、と言い直したけれど、私と鷹城さんにはばっちりと聞こえている。鷹城さんがみのりさん……、と呆れたというか引いたように言う。

「そんな手出すの早かったら、きっとこれまでにも何回かやってるよね。顔割れてる人ならいいけど。プロデューサー、顔覚えてるよね? 特徴教えてくれる?」
「あの、渡辺さん、そこまでしていただかなくても全然。あの今朝、天道さんが届けに行くって言っててですね……」
「それなら好都合だね! サツにも何人か友達と後輩居るから、この際今までしたことも何個か吐いて貰えるように言ってみるね」
「あの、渡辺さん……」

 ちゃんと冷やすんだよ、と彼が氷嚢をぺたりと私の頬に当てる。顔が笑っているけど目が笑っていない。








【兜大吾の場合】


「しっかしボスも災難じゃったのー」

 私の顔を見てびっくりしたフラッグスの面々だったけれど、一番飲み込みが早かったのは兜さんだった。氷嚢の氷溶けとるよ、と新しいものに変えてくれて、その手際の良さにこちらがびっくりしたものだった。
 朝から説明していることを彼らに伝えると、各々顔を顰めた。兜さんは今は不在の山村さんの椅子にあぐらをかいて座って、今日は一日安静にせんと、と頬に触れながら言った。

「で、面相覚えとるんか?」
「えっと、多少は……」
「あとでこっそり教えてくれ。一日もかからんで見つけるわ。系列店舗に顔貼り出して、要注意人物として……」
「……いやいや、兜さん?」
「なんじゃ?」
「なんじゃ?、じゃなくてですね」

 これまでの話しぶりから彼が何の6代目なのかは想像がつく。彼に天道さんにも渡辺さんにも色々として貰ったことを伝えると、それは好都合じゃ、とにこりと彼が笑った。私としては何が好都合なのかさっぱり分からない。

「ちょーっと社会的に生きづらくさせるだけじゃ。ボスはなんも心配せんでいいからな!」

 後ろで秋月さんと九十九さんが引きつった表情をしている。私の顔もまた絶対に引きつっている。
 法的に物理的に社会的に、ある意味半殺しにされる相手を思って心から同情するのと同時に背筋に冷や汗が垂れる。315プロって怖い、今日半日を終えての感想はそれに限る。






category:sideM

ALICE+