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▽2022/04/03(Sun)
特別扱いが僕だけならいいのに/花園百々人


 ご飯が食べられない。食べなきゃいけないのは分かっているのに、口に含んで咀嚼をしていざ飲み込もうとした瞬間、喉がここは通りませんとすべてをシャットアウトしようとする。喉の奥を押し当てられて、げえ、と吐き出しそうになる嗚咽反射をぐっとこらえてゆっくりと腫れぼった喉に食物を通らせる。すべてを飲み込むのに永遠とも思える時間がかかって、そして目の前を見て絶望するんだ。まだこんなにご飯が残ってるって。

「花園、大丈夫か?」
「うん。ちょっと食べられないかも……。あとで食べるよ。外の空気吸ってくる。気にしないでね」

 眉見くんと天峰くんは僕ほど辛くはないらしい。気乗りはしなさそうだが、支給されたお弁当を食べている。
 昔からそうだ。忙しくなったり、本番前だったり、運動をしたあとだったりはぐったりしてご飯が喉を通らないタイプ。体は欠けた栄養素を欲しているけど、それを口が受け付けないのだ。だからどんどん痩せていっちゃう。自分でも不健康だと思うけど、そういう性なんだからしょうがない。
 お弁当のにおいが充満する練習室もしんどくて、食べかけのお弁当を持って外に出る。お弁当は冷蔵庫の中に入れさせて貰って、食べられる時に食べよう。午後からもレッスンがあるから倒れないように何かでカロリーは摂取しなきゃいけない。飲み物だったらまだ飲めそうだから、ココアとか抹茶ラテとか、そういうのを給湯室から貰って飲んでいようとそちらに向かう。
 給湯室がある階にはぴぃちゃんと山村くんが仕事をするデスクがある。階段を下りて、はあとため息を吐きながら向かう。ぜんぜん上手くいかなかった。僕だけテンポがずれてる。振り付けの動画を貰ったとき、ちゃんと練習したはずなのに三人で踊ると僕の拙さが良く分かる。鏡越しに余裕そうな二人と苦しそうに踊る僕とで雲泥の差だった。
 扉を開けるとぴぃちゃんの姿が見えなくて、どこかに出掛けたのだろうかと思っていると給湯室から物音が聞こえた。どうやら給湯室の簡易的なキッチンを使って何やら料理をしているようだった。隣に行く。

「ぴぃちゃんもお昼休憩?」
「はい。花園さんは、……アッお弁当食べてない!」

 彼女の視線が僕のお弁当に行ったのが分かる。あんな動いた後じゃ食べられないよ、と笑いかけて事務所のそこそこ冷蔵庫の中にお弁当を入れる。

「花園さんは桜庭さんと榊さんタイプですね」
「なあにそれ」
「レッスンの後にご飯食べられない人」
「二人ともそれっぽいかも」

 彼女の手元を見ると、どうやらお粥を作っているようだった。ぴぃちゃんも具合が悪いのかと彼女の横顔を見る。

「私も、忙しくなるとご飯食べれなくなるタイプなんですよね……」
「ぴぃちゃん大丈夫……?」
「グッズの監修とか現場の確認とか集客の計算とか先方へのプレゼンとか全然終わらなくて、本当におかゆしか食べれなくて……」

 



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