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▽2022/04/03(Sun)
ヴィルと髪の毛について



「アンタ、地毛暗いのね」
「暗いと垢抜けなくて染めてたんですよ」
「明るくしたぐらいで垢抜けないと思うけど?」
「それ私ディスられてます?」

 ヴィル先輩が、私の髪の毛を一房取ってそう評した。
 ポムフィオーレ寮はいつも煌びやかで身構えてしまう。その一角に、ビニール袋を敷いて椅子をその上に置く。そして椅子に座らされて布を羽織った私一人と、髪切りハサミを持ったヴィル先輩である。一寮の寮長に何をさせているのかと言えば閉口せざるを得ない。たまに通りかかる寮生がギョッとした目でこちらを見つめるから間違いない。贅沢なことに多忙極めるこのヴィル・シェーンハイトに髪を切らせているのだ。誰かに後ろから刺されても文句は言えない。
 
「日に透かすと茶色のように見えるから完全な黒じゃないのよね。綺麗ね」
「ヴィル先輩の方が綺麗ですよ」
「アタシが綺麗なのは当然よ。人前に出る仕事をしてるから外見には気を遣っているもの」

 彼が私の髪の毛を梳く。誰かに髪の毛を梳いて貰うのは久しぶりだった。彼は私のキューティクルがズタボロの髪の毛に柔らかく触れる。
 ことの発端は私が空き教室で髪の毛を切ろうとしていたためだ。というのも実践魔法学で運悪く魔法が当たり、髪の毛が二、三房切れたのである。もともと伸びて邪魔だった。そのためいくらかまとまったお金が出来たら街の理容店かどこかで安く切って貰おうと思っていたのだが、あまりにも格好がつかないので自分で切ろうとしたらヴィル先輩に見つかったのだ。

「……本当に良いんですか? ヴィル先輩に切らせるなんて大変申し訳無いのですが…」
「いいわよ。代わりに切った髪の毛をいただくわ。いくつか調合したい魔法薬があるの」
「切ったものについてはいくらでも貰ってください……」
「切られたところぐらいまで揃える形でいいかしら。顎ぐらいの長さになるけど」
「大丈夫です。ここに居ると浮くから元々バッサリ切ろうかなと思っていたので」

 彼が霧吹きで私の髪の毛を濡らす。ある程度髪の毛に水分が均等に含むようになると、櫛で髪型を整えた。彼が切るわね、と一声かけてバチンと髪の毛が切られる。

「ヴィル先輩お上手ですね」
「手先の器用さには自信があるのよ。でもアタシはプロじゃないから、きちんとしたところで切って貰いなさい」
 



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