++SS

▽2022/04/03(Sun)
長い夢を見ている/ウォロ



 毎日祈っている。元の世界に戻れますようにどうかこれが夢でありますようにと。


 吹雪の中、運悪くいつも居る巣から離れたオヤブン個体のガブリアスと遭遇した。
 雪が降りしきり30センチ先も見えないような中だ。視界が遮られ、凍るような寒さのせいでその他の感覚も麻痺する。手足の感覚はもちろん、耳元で雪と風が強く吹く音で聴覚が、そして極限の冷たさの中で嗅覚が消える。そこでガブリアスが右方向にに居ることに気が付かずに接触した。人の匂いと子育て中で興奮状態にあったのだろう。横腹に技を食らった際に頭を打たないように身を捻らせたものの、ポケモンと人では力の差が歴然である。近くにあった氷塊に大きく体を打ち付けた。このままここに居たらまずいという警鐘が頭の中でガンガンと鳴った。逃げようと思っても足が動かない。立ち上がろうとしたものの力が入らなかった。ここで死ぬと思った。その最中、カタカタと突如腰のボールが揺れ、出てきた相棒のポケモンが私を抱えて逃げてくれた。
 滝のほど近くにある洞窟は人が吹雪をやり過ごすには良い場所だ。これまでも調査の途中、何度も利用した。どうやら相棒はそれを覚えてくれていらしい。なめらかな毛並みを撫で、ありがとうと言うと小さな鳴き声で返してくれた。そのまま私を地面に静かにおろしたが、洞窟の奥を見たまま警戒するように毛を逆立てている。

「──おや、旅の方。アナタもここで雪が止むのを待……」

 向こうも驚いただろう。視線だけをそちらに向けると、彼もまた目を見開いていた。しかしそれも少しの間だけで、彼の大きなため息の音で微妙な間はかき消される。
 彼からは不思議なことに敵意は感じなかった。私は、ここまでありがとう疲れたでしょうゆっくり休んで、と指示を出すとボールの中に戻っていった。
 怪我をした際は状況の把握に努めること、調査を始めて間もないときに教わったことの一つだ。怪我をした直後はアドレナリンが分泌されて痛みが鈍くなるので気をつけなさい、と。あまり痛みは感じなかったがガブリアスから技を受けた時、氷塊にぶつかった時にかなりの衝撃があった。頭を触り異常が無いことを確認したあと次に手足を触る。きちんと指先まで力が入ることを見てから、次に腹部胸部と続けていく。攻撃を受けた打撲した右腹部と背中を触ると、腫れて熱を持っているような気がした。骨が折れているかもしれない。
 身をくねらせ、姿勢が楽になるよう背中をやんわりと壁に着かせる。
 洞窟の中とはいえ、真冬の山だ。吐き出す息は白い蒸気となって上へ消えていく。活動していれば感じない寒さもじっと黙っている今はじわじわと伝わってくる。日の光も当たらない中、自分では無い人間の衣擦れの音と呼吸の音だけがよく聞こえた。
 一人になるのは嫌いだ。色々なことを考えてしまうから。この傷がだんだんと痛くなって来たらどうしよう、重傷でもう二度と調査に行けない体になったら、あの村から追い出されたらどうしよう、このままここで死んでしまったら、元の世界に戻れなかったら。頭の中がその不安でぐちゃぐちゃに塗りつぶされていく。私だって来たくてこの世界に来たわけじゃない。
 この世界に来てもう何ヶ月が経ったんだろう。友達からのメッセージの返信をまだしてない。毎週のドラマの続きを楽しみにしてたはずなのに内容さえあやふやだ。こんなに学校を休んでいたらもう授業に追いつけない。お父さんとお母さんの顔ももう思い出せない。コンビニに行くからと家を出てそれきり、顔をよく見たのは前の日の夕ご飯が最後。この世界に来てからずっと思っていた。私が何か悪いことをしたからここに来たのだろうか。私の態度が、行動が、思考が、今までの生活でそれら一つのうち何か行ったことが違っていれば私は選ばれなかったのだろうか。何を考えてももう遅い。もう私はこの世界に来ていて、戻れるあてはただ一つ。図鑑を完成させてアルセウスに会うことだけ。途方も無い道のりを完遂することだけだ。本当に私に出来るのかな、それで必ず戻れるなんて約束されていないのに。
 




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