++SS

▽2022/04/03(Sun)
ヴィル・シェーンハイト

「アンタ本当に男なの?」 

 呼吸が止まる。訝しげにこちらを見たヴィルの目が監督生の表情を確認した。するとその疑念が確信に変わったようだった。


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 今年特例で入学してきたオンボロ寮の監督生が女であることを知る人間は少ない。
 いつも仲良くしている何名かの友人たちと教師だけだろう。というのもクロウリーが身につけると他人から男性に見られるという認知機能を誤認させる魔法具を監督生に与えたからだ。魔法薬を飲ませて男性に変化させるのは簡単だ。その方があらぬ疑いをかけられなくて済む。しかし魔法の無い世界から来たのだという耐性が全く無い監督生に魔法薬を飲ませることで体に影響が出る可能性がある。そのため苦肉の策として魔法具をつけさせているわけだった。
 魔法具はあくまで他人の認知機能を歪めるだけに留まる。そのため体に触れられることがあれば、肩の華奢さ腕の柔さ、胸の膨らみから性別が異なることが容易に気づかれる可能性がある。とにかくこの学園の生徒に自身を近づけさせないこと、それがクロウリーが監督生に課した規律の一つだった。

「きっつ……」

 VDCのためオンボロ寮は選抜メンバーの合宿所となっている。エースとデュースにはすでに性別が違うことが入学式から既に知られているが、そのほかにはまだ気づかれていない。気づかれてしまっても問題のないメンバーであると思うが、原則気づかれないようにしてくださいと言われている身である。そもそも男子校に女が通っているのが知られるとまずいということは重々承知だ。そのため出来る限り気を張っているが、学校でも寮でも気を張らなければならないとなると予想以上の疲労が来る。
 どすんとソファに腰を下ろして体を弛緩させる。
 どことなく体の調子も悪い。この世界に来てからはほぼ毎日と言ってそうだ。慣れない食事、慣れない生活環境、周りには男しかおらず気がつかれればどうなるか分からないという不安。常にアンテナを張って生きているせいで寝付きはずっと悪い。入学時に採寸したスラックスがベルトを締めないとずり落ちてくるからおそらく体重も不健康に落ちているのだろう。月経周期も乱れるようになってきた。
 この何をしても体が怠く、昼間でも急激な眠気が襲ってくる感覚には覚えがある。だいぶずれたがそろそろ月経が来るのだろう。監督生の場合、無性に甘いものが食べたくなるのはもちろんのこと、体の怠さや眠気が伴うものだった。特に怠さと眠気は異常なほどだ。トレインの授業はとにかく眠いし、クルーウェルの授業で無心に大釜をかき回している時に船を漕いで危うく頭から大鍋に突っ込みそうになったこともある。それに加えてこれはあくまで体感ではあるが、月経が乱れているときほど期間中の下腹部の痛みが尋常では無い。朝は呻きながら起床し、座学でただ座っているときでさえ冷や汗が出る。歩く動作をしただけで5分毎に休憩を挟みたいと思うほどだ。



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