++SS

▽2022/04/03(Sun)
君は僕のかわいい子/ニコラ・フランチェスカ*



 どれだけ血が濃かろうと、射撃の腕が立とうと、私は決してこの組織のカポにはなれない。カポどころか私の立場は下から数えた方が早いのだろう。家庭に入れ子を産めよ育てろ。性別という人間を二つに分ける行為はあまりにも残酷だ。女は男には勝てない。それを如実に表すものなのだから。

「ーー痛っ!」
「ごめん、染みた?」

 なにがごめん、だ。全く謝る気がさらさらない声音でニコラが水を含ませた布で傷口をぬぐう。
 ニコラの自室はファルツォーネのアンダーボスという肩書きもあって、他の構成員と比べて幾分か広い作りになっている。ジャケットを脱ぎ払い、ベッドの脇に放り投げる。銃弾がかすった肩はこの痛さだ。おそらく抉れているのだろう。場所が少しでもずれていれば、一生銃を握ることができなくなっていたかもそれない。もしくは死んでいた可能性だってある。常人であったら恐れるであろう死も、私にとっては蚊から血を吸われるようなもので造作もない。私の中に脈々と受け継がれるファルツォーネの血が死への恐れを消しているのか、このマフィアの一員であるという環境がそうさせているのか。きっとそのどちらもなのだろう。

「綺麗な肌なんだし、傷つけないでほしいけどなあ」
「薄ら寒いことを言うのやめて」
「婚約者の体を心配するのは駄目なの?」
「そんなの家が勝手に決めただけでしょ」

 ファルツォーネの血を絶やすな。分家筋のニコラと私は、年が近いこともあり物心ついた頃には互いの立ち位置が婚約者だった。
 彼は私の肩口を唇でつつ、と触れながら半分脱げかけたシャツのボタンをぷちぷちと外した。柔らかな髪が首に触れる。やめて、と彼の頭を押して拒絶するがおそらく銃撃戦の後で気が立っているのだろう。止まる気配がなかった。
 今日は気分じゃないからやめて、そう拒んだとしてもあるのは圧倒的な力の差だ。拒絶をしたとしても体が暴かれるていく。暴力にも似たそれに何度私はうちひしがれただろう。
 周囲に合わせて短く切った髪の毛を地肌からゆっくりと撫でられる。大丈夫だよ、まるで恋人同士のような甘い声で囁く。下着をずりあげて背中に手を回す。硬い男の手が体をまさぐる度に肌が粟だった。今日はしたくない。ベッドを下りようとするがニコラの腕に阻まれる。腰をぐいと引き寄せられて上半身が密着する。こめかみに、鼻頭に、頬に、首に、胸元に、優しいキスが降ってくる。
 
「やめてって言ってるじゃない。今日は気分じゃないの」
「そう? 僕はそういう気分だ」

 抗っていた手足を弛緩させる。私が抵抗したところで、この男はこの行為を止めないだろう。体を完全に彼の胸に預けると、気を良くしたのか喉の奥で笑った。
 スラックスのチャックがじりじりと下に下りていく。ショーツと肌の間に手を滑り込ませると顔が愉悦の色に染まる。やっぱりこれ前に贈ったものだよね、と確かめるようにニコラが言った。それに、ええそうよ、と私は答える。また贈るよ、と彼が私の耳元にキスを落とす。スラックスとショーツが無造作にベッドの上に放り投げられる。薄い腹、とぽつりと呟いた彼が腹を手のひらでゆっくりと撫でた。

「#名前#、好きだよ」
「ええ」
「君は言ってくれないの?」
「私はあなたのこと、好きじゃない」
「ずいぶん辛辣だね」

 ニコラは気分も害した様子もないようだった。
 親同士が決めた婚約、彼が望むとき体を暴かれる都合の良さも、女がこの世界で上に立つことができない不条理も、すべて気にくわないのだ。特に彼に身体を暴かれているときに強く感じる。私が女であること、家庭にいずれは入らなくてはならないこと、そしてこの男の子供を産まなくてはならないことを。

「#名前#、唇を引き結んだままじゃ可愛くないよ。ほら微笑んでみせて」

 ニコラはそう私に、いつもの女たらしな彼が言う台詞を紡いだ。
 彼には全てある。実力も血筋も地位も。実力と血筋は私も申し分ないほどあるだろう。無いのは地位だけだ。しかもそれは性別が起因するものだと言うのなら。

「お願い、#名前#とキスがしたいんだ」

 ニコラが私の頬を両手で挟んだ。彼の薄い青にも緑にも似た目が私をしっかりと見据えた。真っ直ぐと貫いてくるそれに噛み付くような視線を返す。

「君のそういう目、嫌いじゃないんだけどね」
「いったっ! ーーっん、ぐ」

 傷をぎゅっと触れられて思わず声が出る。そこを見計らった彼が四の五の言われる前に口を塞いでくる。
 ベッドに押し倒され、手が上にまとめられる。傷口に障り、苦悶の声が漏れるがそれすらもニコラは楽しんでいるようだった。大きく開けた口の中が貪られていく。分厚い舌が歯列をなぞり、頬や歯の裏を気まぐれに撫でたかと思うと舌を絡み取られる。彼が腰や太股を思わせぶりに撫でる。その行動に逐一背中がビクビクと跳ねた。こんな触れられ方をして感じない女などいるものか。力でねじ伏せられ否が応でも快感を刻まれている。生理的な涙が目の端から零れた。

「……っう、ふぅ、」
「もっと#名前#の声、聴きたいんだけどなあ」

 唇と唇が重なり合いそうな距離でニコラが囁く。
 一筋に私を見るニコラの目は熱っぽく濡れていた。時折彼が色っぽく息を漏らす。その喉の奥から出る籠もった声音が私を毒のように蝕んでいく。
 彼の手が太股の柔らかい内側を撫でた。ぐっと外側に押して開こうとするのを抵抗する。それをものともせず彼が押し開く。口の中の蹂躙をいったん止め、彼の視線が下に向く。私の内股をおもむろに撫で、私の腰を持ち上げて、そこに鬱血痕を点々と残し始める。
 キスマークをつける位置が徐々に上に行き、彼の唇が私の下生えまで到達した。そして舌を中に滑り込ませる。それに彼の頭を向こう側に押しやって抵抗するも身体はびくともしなかった。

「やめてってば! お願いだから、シャワー浴びてないから汚い……!」
「僕は綺麗だと思うけど?」
「そういうことじゃな、っひ、あっ!」

 ニコラが見せつけるように内側を開いた。くちゃ、と粘着質な音が聞こえて羞恥で耳まで赤くなる。高い鼻が恥丘を圧迫する。ざらざらとした舌がべろりと下から上へ、まるでジェラテリアを舐めるような動きをして息が漏れた。廊下に人がいるかもしれないのに、親指の付け根を噛んで快楽に耐える。そうでもしなければみっともなく喘いでしまいそうだった。



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